35
「疲れた・・・」
僕は誰もいない生徒会室で突っ伏していた。庶務の席がないので、お客様用のところに僕は座っている。
この一週間はずっと動きっぱなしだった。圧倒的に人手不足な生徒会なので、僕が出動しない日が一分たりともなかった。
「歴代の生徒会の人たちはずっとこうやって動いてきたんだもんなぁ・・・」
僕は感心すると同時に、様々なイベントの裏には頑張ってくれている人たちがいることに感謝した。
すると、扉がガラッと開いた。僕は反射的に姿勢を正す。
「およ?今は明人君だけかな?」
「あっ、はい」
彩華さんが生徒会室に戻ってきた。
「あははは、もう少しだらけててもいいよ?」
彩華さんにはバレていたらしい。流石だ。
「いえ、もう大丈夫です。何かやることはありますか?」
一番下っ端がだらけていては申し訳ない。だから僕は率先して仕事を探すことにした。
「う~ん、それならこれだけお願いしていい?」
「はい、もちろん」
僕は彩華さんから書類を受け取って、仕事を始めた。十分くらい経った頃、彩華さんが口を開いた。
「そういえば生徒会はどう?慣れたかな?」
僕も作業を一時中断して彩華さんの方を見た。
「はい、おかげさまで」
「そう、それなら良かったよ。こっちも明人君のおかげで仕事がどんどん消えていくよ。私の目に狂いはなかったなぁ」
「ありがとうございます」
「あ~照れてるなぁ?」
「違います///」
彩華さんにからかわれたので、僕は書類の方を確認しているフリをしたが無駄だったようだ。
「お疲れ様です」
すると、沙紀が戻ってきた。
「「お疲れ~」」
僕と彩華さんは声をそろえて沙紀に労いの言葉をかけた。
「明人、会長と声を揃えないで。不快だわ」
「失礼すぎるよ!!!」
あまりにも失礼すぎる言い分に彩華さんがツッコミをいれた。沙紀は彩華さんの言葉を無視して、さっさと僕の隣に座ってしまった。
「充電させなさい」
沙紀はそういって僕の肩に頭を乗っけて甘えてくる。
「ここ生徒会室なんだけど・・・」
「どっかの誰かさんのせいで仕事量がおかしいのよ。だから甘えさせて」
「へぇ~まだまだ余裕がありそうだね!もっと増やしちゃおうかな~」
「この女狐め・・・」
沙紀と彩華さんがバチバチにやってる。早く他の人たちに戻ってきて欲しい。
「「「お疲れ~」」」
そう願っていたらすぐに戻ってきた。
「「「お疲れ様(です)」」」
時刻は17時。全員お疲れの様子だった。
「あっついなぁ~」
外回りから戻ってきた花蓮さんが胸元をパタパタと仰いでいた。目線がそこに行ってしまいそうになったが、沙紀が僕の腿を万力みたいな握力で掴んできたので我慢した。
「ん。それでも繁忙期はこれで終わった。後はちょこちょこと進めるだけ」
「そうね。今年は本当に早く終わったわ」
由紀さんは机に突っ伏して声だけで反応する。凜さんも肩を揉んでいた。本当に全員お疲れのようだ。
「いやはや本当に早く終わってよかったよ。これでアレの準備ができるね!」
「アレ?」
「ん?まさか明人君、去年の文化祭を見てないの?」
「え、ええ。ちょっと家でごたごたしていまして・・・文化祭自体が今回初です」
「マジかぁ」
美紀子さんには文化祭なんて行くくらいなら仕事をしろと呼ばれて休まさせられた。
「あのクソババア・・・」
沙紀は親指の爪を噛みながら恨めしそうに美紀子さんを呪った。
この感じから僕以外の人たちはみんな分かっているようだった。ただ、
「ええ・・・もう悪しき伝統だと思うんだけど」
由紀さんはうんざりしている様子だった。
「なんでよ!楽しいじゃん!」
「むぅ~り~。私は花蓮みたいな陽キャじゃないの~」
「ユッキーだって去年は楽しそうだったじゃん!」
「昔は昔。今は今」
「そんなぁ~」
由紀さんと花蓮さんが何かもめている。由紀さんは面倒くさそうにして、花蓮さんは滅茶苦茶楽しみっぽい。態度がコントラスト化していて、蚊帳の外の僕は不安になる。
「はいはい。二人とも後輩が見てるんだから情けない姿は見せない」
「「はぁい」」
凜さんが手を叩くと二人とも大人しくなる。そして、彩華さんに話を続けるように促した。
「まあ端的に言うとね、私たちも文化祭の有志に参加するんだ」
「はぁ」
「そこでバンドをやります」
「なるほど」
僕はテキトーに返事をする。どうせ僕は出ないで裏方だ。
「楽しみね明人」
沙紀は楽しみなのか意外とやる気だった。なんとなくこういうのが嫌いな印象があったけど僕の想い違いだった。
「うん、頑張ってね」
「え?」
「ん?」
沙紀と僕はお互いを見合いながら固まる。
(あれ?何か変なことを言った?)
「明人君、君も出るんだよ?」
彩華さんが僕に苦笑しながら言ってきた。何がなんだか分かっていない僕に凛さんが詳細を教えてくれる。
「これは生徒会の伝統行事なのよ。生徒会全員で行う、ね」
「え?じゃあ僕も参加するんですか?」
「もっちろん!」
僕は唖然とした。
「でも僕は楽器とか使えませんよ?」
バンドと言えば楽器だ。でも、僕が演奏できるのは小学生の頃に使ったリコーダーだ。
「大丈夫大丈夫。基本的に楽器関連は私たちがやるから!」
花蓮さんが僕の疑問に答える。じゃあ僕がやるのは・・・
「明人君と沙紀ちゃんにはボーカルを任せたいんだ!みんなの前で大変だろうけど、これも後学のためと思って頑張ってね!」
数週間前までいじめられっ子だった僕には想像もつかない世界だった。
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