33

「それじゃあ、明人君に初仕事を与えましょう~」

「頑張れ、アッキ~」

「が、頑張ります!」


地獄のような朝の登下校を終えて、僕は授業を受けていた。しかし、クラスで朝のことが噂になっているのか、ひそひそと話す声が聞こえた。


だけど、松山が、


「アレはでまかせだよ」


と神ムーブをしてくれたおかげで教室内で僕が噂されることはなかった。意図は分からなかったけど、今回ばかりは感謝したい。


「明人、聞いてるのかしら?」

「あっ、ごめん。ちょっと考え事をしてた」


普通に聞き逃していた。


「もぉ!しっかりしてよぉ?」

「すいません」


プンプンと彩華さんが怒っているが、貴方と沙紀が原因だったので、なんとなく釈然としない思いをさせられた。


「明人君にやってほしいのは、人数が足りていないところに行って手伝うことかな。まあ庶務と言えば便利屋だから、頑張ってね!」

「は、はい!」


ふわっとした説明ゆえに逆に恐ろしい。忙殺されることは確定した気分だ。


「それじゃあ、さっそくだけど、明人君に手伝って欲しい人~?」


一斉に三人が手を挙げた。花蓮さん、由紀さん、沙紀だった。


「私はチラシとか広報用に作らなきゃいけないものがたくさんあるんだよね~正直、私が一番忙しいと思いま~す」

「ダメ。明人にはこれから実行委員会の会議に出てもらう。記録すべきことがたくさんある」

「ダメです。私の会計の方が大変です。どこかの誰かさんのせいで今日中に予算編成を作り直さなきゃいけません。だから、明人に手伝ってもらわないと辛いです」


いきなり、僕の出番があるらしい。というかどれを聞いても大変そうなのは火を見るよりも明らかだった。


「じゃあこうしようか」


庶務争奪戦の仲裁にはいったのは彩華さんだった。


「明人君には全員の手伝いをしてもらいます。そうすれば何も問題ないでしょ?」


恐ろしいことを笑顔で告げてきた。


「え~と全部ですか?」

「うん!」


有無を言わせない笑顔。僕の顔は引きつっていただろう。

「それなら何も問題ないね~」

「ん。確かに。私たちが甘すぎた」


由紀さんは彩華さんの言葉に反省しているが何か違う。一応まとまったかと思った。しかし、そこに待ったをかける会計様がいた。


「ちょっと待ってください!予算編成の作り直しが一番大変です!というか締め切りが今日中です!明人には私の隣で付きっきりで助けてもらわない無理です!」


沙紀は書類の山をバンと机に置いて、彩華さん達に訴えかける。が、


「沙紀ちゃん頑張って☆」

「サキサキがんば~」

「沙紀、根性」


沙紀へのヘルプはなしらしい。


「この女豹どもめ・・・」


沙紀が恨みがましく三人のことを見ている。


「う~ん可愛いねぇ~」

「本当だね☆妹みたぁい。妹いないけど」

「頭を撫でないでください!」


沙紀の扱いが完璧すぎてこの生徒会の人間たちに鳥肌が立つ。僕もいつかこうやって沙紀を・・・なんか不味いので思考はここでストップする。


「ハア、彩華も花蓮も沙紀をイジメ過ぎよ・・・」


さっきまで傍観に徹していた凜さんが会話に入ってきた。


「凜さん・・・」

「ほら。少し、仕事を寄越しなさい」


凜さんは沙紀の机の上にある書類の山の半分くらいを崩して、自分の下に持ってきた。


「ひゅ~リンリン、イケメン~」


花蓮さんが凜さんをからかう。


「からかわないで頂戴。それよりもあなたたちに仕事をサボっている時間はあるの?明人を使って間に合わなかったら彩華も含めてお仕置きよ?」


凜さんの凄みのある笑顔に三人は怯えてしまった。


「そ、それじゃあまずは実行委員会に行こう!そこで明人君は由紀ちゃんの手伝いをして!で、それが終わり次第、すぐに花蓮の広報の手伝いをして!OK?」

「は、はい!」

「由紀ちゃんも準備はできてる?」

「ん!バッチリ!」

「それじゃあ行こう!」


そういって、由紀さんと彩華さんは颯爽と生徒会室を出ていってしまった。


「アッキー。私の方で一人でやれることは終わらせておくから、終わったらすぐに生徒会室に戻ってきてね!」

「はい!」

「よっしゃぁ仕事だぁ!」


花蓮さんもすぐに出て行ってしまった。


「ハア、私がいなくてもさっさと仕事をして欲しいわ・・・」


凜さんは沙紀から受け取った書類の山を一つ一つ処理しながらつぶやいた。


「凜さん、ありがとうございます。助かりました」


(沙紀が頭を下げてるだと・・・)


僕もすぐに実行委員会に向かわなければならないのだが、その光景に目を奪われてしまった。


「いいのよ。さっさと仕事を終わらせましょう」

「ええ。さっきまで泥棒猫だと思っていてごめんなさい・・・」

「ちょっと何言っているのか分からない・・・」

「でも、あまりカッコいいことをしないで欲しいです。明人が今も尊敬のまなざしで凜さんを見ているので」


僕の視線に気が付いていたらしい。沙紀の背中には目でもついているのかな?


「もう!明人、さっさと仕事に行きなさい!後、沙紀、あんまり言うなら手伝わないわよ?」

「「すいません」」


僕と沙紀はそろって謝った。そして、互いに与えられた役割をこなすために、沙紀は机に、僕は生徒会室から出て、彩華さん達を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る