32
月曜日の朝、僕は沙紀と登校することになった。昨日沙紀の策略(本人は否定している)によって布団で一緒に寝ることになった僕は理性と煩悩の間で中々寝れずにいた。
「明人、ちゃんと寝てないのかしら?ダメよ不健康な生活は」
「誰のせいなのかな~?」
僕は少し、いやかなり怒りながら笑顔で沙紀の方を見た。言うに事を欠いて沙紀がそれを言うのかと
「あれは本当にわざとじゃないのよ・・・?」
「・・・どうだか」
「だって明人と一緒に寝れるチャンスだったのよ?あそこで添い寝しないのは女が廃るってものよ」
ついに逆切れしてきた沙紀。こんなんんだから僕は沙紀を信じられないっていうことをそろそろ自覚してほしいものだ。
そうこうしているうちの生徒の数が増えてきた。沙紀もいつものクールビューティな仮面と共に、僕にアプローチされてうんざりしている体のめんどいモードに変わった。
「およ。明人君に沙紀ちゃんじゃん!」
「げっ」
沙紀は声の主が誰か分かって露骨に嫌そうな顔をする。僕も声の主が分かって、声のする方に顔を向けた。そこには彩華さんがいた。
「おはようございます」
「うん、おはよう!明人君はいい子だねぇ」
「恥ずかしいのでやめてください///」
彩華さんは沙紀とは反対側に陣取った。そして、僕は彩華さんに頭を撫でられた。ちょっと注目されているので恥ずかしい。
「・・・おはようございます」
沙紀は嫉妬全開で彩華さんを見ていた。
「おはよう沙紀ちゃん。あんまり嫌そうな顔をするなら今日も仕事を増やしちゃうよぉ?」
「
「本音と建て前が逆になってるよ・・・」
そんな感じで僕の両サイドで言い合いをする沙紀と彩華さん。
「なんだあのハーレム野郎!!」
「許せねぇ!!」
「癒しのアイドル御堂さんと毒舌姫の水本さんに囲まれるなんて!!」
「処す?」
うちの高校だけではなく、登校中の大人、おじさん、おじいちゃん、背伸びしたい中学生などなど、ありとあらゆる男たちからの嫉妬を受けた。だけど、これで終わらせないのが、彩華さんクオリティ。
「ねぇ、明人君~沙紀ちゃんなんて捨てて、私を選んだ方がいいんじゃない?」
「え?それは」
「どういう意味だと思う~?」
小悪魔みたいな表情を浮かべて僕の腕を取る。その下から見上げてくる視線は完全に計算され尽くしていた。けれど、そんなことは分かっていても抗いきれない魅力があった。だけど、
「ブチ殺すぞ?」
「ヒぃ!」
殺意を隠そうともしない沙紀がいた。もう笑顔も何もない。ただただ彩華さんを殺意一色で見ていた。
「あはははは~沙紀ちゃん怖ぁ~い」
彩華さんは大爆笑しながら、沙紀を弄ぶ。
(本当にこの人は大物だなぁ)
沙紀をここまでキレさせて笑ってられる人間なんているのだろうか。僕だったらあのレベルの殺気を向けられたら、正直、蛇に睨まれた蛙になってしまうと思う。
「明人もさっさとその女狐を離して私の下に戻りなさい。いや、戻れ!」
「は、はい!」
僕が沙紀の下に戻ろうとすると、
「ええ~沙紀ちゃん。それじゃあ明人君の意思が全く反映されてないじゃん」
「は?」
「ここは明人君に選んでもらうべきじゃない?どっちの犬・・・じゃなくて、下にくるかさぁ」
(なんか流せないことを言われた気がしたんだけど・・・)
沙紀は彩華さんの言葉に軽く思案しているようだ。そして、うんと頷いた。
「それもそうですね。明人。あなたが選んでいいわよ?」
「はい?」
「明人君~頑張って選んでね~」
「え?」
僕は突然の二者択一を求められた。しかも、結構重要な選択・・・っぽいやつ。普通のなら学校の噂と沙紀との関係から沙紀を選べばいいんだけど、ギャラリーが簡単に選択させてくれなかった。
「彩華さんが選ばれなかったら殺そう」
「処す処す」
「じゃあ選ばれたらどうする?」
「処す処す」
(この時点で詰みじゃん・・・)
「水本さんが選ばれなかったら殺そう」
「処す処す」
「じゃあ選ばれたらどうする?」
「処す処す」
完全に同じだった。どっちを選んでもギャラリーに殺されることは確定していた。
(じゃあ、両方でいいかな・・・)
これが一番平和におわり・・・終わってほしいな・・・
「りょう」
「あっ、二人ともっていうのはダメだよ?」
「そうね」
「はい・・・」
僕は黙らされた。沙紀はさっきから何で私を選ばないのよという怒りマークが付いてる笑顔で僕を見ている。対して、彩華さんはずっと微笑みながらこっちを見ている。
(全く考えが読めない・・・)
そうこうしているうちにどんどんギャラリーが増える。もう逃げ出せる雰囲気じゃなかった。覚悟を決めるしかないかと諦観していると、
「あんたたち、何してんのよ・・・」
鈴のような声が聞こえた。トレンドマークのポニーテールをなびかせて観衆の間をモーセのごとく歩いてくる救世主が。
「凜さ~ん!助けてください!」
「え?ちょっ、明人?どうしたの?」
僕はもう凜さんに助けを求めるしかできなかった。だってどっちを選んでも地獄が見えてるんだよ。僕は怯えながら凜さんの後ろに隠れた。
「え~と、よしよし」
僕は凜さんが僕の頭を撫でてきた。僕はそれで安心感を得た。お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかと存在しない姉のことを考えてしまった。
「ふ~ん、思わぬ伏兵がいたもんだね~」
「明人、浮気?凜さん、略奪?」
「え?怖い怖い怖い」
彩華さんが面白くなさそうにこっちを見ていた。沙紀は言わずもがな殺意を。僕はただ怯えているだけ。
結局、花蓮さんと由紀さんが来てくれて現場は一応の収拾を得た。けれど、僕は三股のクソ野郎という噂をかけられてしまった。
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