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「はぁ・・・」
僕は登校と同時に頭を抱えていた。原因はもちろん沙紀のことだ。
(これからどうしよう・・・)
結局昨日の夜から一晩中沙紀のことを考えているのだが、どうすればいいのか皆目見当もつかず、今日もまた寝不足で隈を作ってしまっていた。
「よう、キモパンダ(笑)」
声のした方向を見ると、松山と取り巻きたちが僕の方をニヤニヤしながら見ていた。
「おはよう・・・」
「今日も見事なパンダっぷりだなぁ!全く可愛くないけど(笑)」
クラスメイト達はどっと笑いだす。いつも通りのことなのであまり気にしても仕方がない。僕は笑って流すことにした。
「いやぁ・・・ははは」
「それで、今日はどんくらい寝るんだ(笑)?」
松山はいつも通り意地悪な質問をしてくる。僕はまた笑って流そうとするが、クラスメイト達は僕が何限に寝るのかで賭け事を始めた。
「私は一限目!」「俺は二限目!」「私も」「俺は大穴で寝ないに賭ける!」「それはない(笑)」
散々な言われようだ。僕は言い返してやりたい気持ちでいっぱいだが、事実だから言い返せない。拳を握りながら耐えていると、最後に松山が締めた。
「俺は開始十五分に賭ける!!」
「早すぎ(笑)」「キモパンダをなめすぎ(笑)」「いやいやあるかもしれないよ(笑)」「大穴すぎる(笑)」「松山君最高(笑)」
松山の締めにクラスメイト達は最後の大盛り上がりを見せた。そして、教室の扉が開いて担任が入ってくる。
「ホームルーム始めるぞ~」
喧騒は一瞬で消えた。僕は意地でも今日は起きててやると心に誓った。
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周りからクスクスと笑い声が聞こえてきた。僕はいつの間にか寝てしまったのだと悟ってしまった。
「まさか松山の言うとおりになるとは(笑)」「流石松山君」「チクショー!俺も松山に乗るんだった!」「早すぎて笑いをこらえるが大変だった(笑)」「それな(笑)」
机で突っ伏しながら、クラスメイト達の声を聞いていると、よりにもよって松山の宣言通りに寝てしまっていたらしい。
(なんで僕ってこうなんだろう・・・)
自業自得とはいえ、僕は自分のことが本当に嫌いになりそうだった。
「それじゃあ起こしてジュースを買いに行かせるか!てか起きてるだろぉ?キモパンダぁ!?」
僕の方に歩いてくる松山の足音が聞こえる。無理やり起こされてジュースを買いに行かせられるのだろう。僕は心の中でため息をついた。だが、今回はいつもと違った。
「失礼」
凛とした声が教室に響く。僕をネタにざわざわとしていたクラスメイト達は僕のことなど忘れて、その声の主の方に意識を向けていた。
「やぁ、沙紀。どうしたんだい?」
松山は僕の時とは気持ち悪いくらいに豹変して、紳士的な対応で沙紀を迎えた。
「ちょっと、用事があってきたのよ。義兄さん・・・・」
一瞬反応しそうになるが、昨日のことを思い出して留まる。
(そういえば、昨日、美紀子さんと松山のお父さんが再婚するみたいなことを言っていたような・・・)
僕はそのことをすっかり忘れていた。ただクラスメイト達はそのニュースに興味津々だったようで、すぐに食いつく。
「キャー義兄さんだって!」「本当に兄妹になったんだねぇ」「羨ましいぃ!!」「ラノベかよ!!」
多種多様な歓声がどっと上がった。今まで、『義兄さん』呼びの相手は僕のことだったのだが、これから沙紀が『義兄さん』と呼ぶ対象は松山になるということだ。僕は若干センチな気分になった。
「ようやく義兄さん呼びにしてくれたかぁ、そうかそうか」
松山も満足そうに頷いていた。
「それで俺に何か用か?沙紀?」
クラスの中心でわざとらしく、そして、見せつけるかのように沙紀に話を促す。
周りのクラスメイト達はその様子を物凄く興味深そうに見つめていた。
「何を勘違いしているのか知らないけれど、義兄さんになんかに用なんてないわよ?そもそも私から話しかけることは一生無いと思ってちょうだい」
「え?」
松山だけじゃなくて、クラスメイト達も固まってしまった。しかし、そこは秀才の松山。
「そ、それじゃあ、誰に用があって来たのかな?」
すぐに気を持ち直して作り笑いを浮かべながら、沙紀に質問を投げかける。
「それは」
沙紀は目的の人間の元へ向かい、そして、
「そこで寝たふりをしている寝坊助さん。さっさと起きなさい」
沙紀は僕の元に来て、上から高圧的な声で僕を起こそうとする。
(寝たふりはバレてたか・・・)
「ん?s、水本さん・・・?どうしたの?」
(危ない。危うく名前で呼んでしまうところだった)
沙紀が僕の質問に答えようとする。しかし、そこに松山が割り込んできた。
「さ、沙紀?キモ、岩木にどんな用事があってきたのかな?」
随分焦った様子だ。得意な作り笑いが崩れかけていた。クラスメイト達もまさか沙紀が僕に用があるなんて思ってもみなかったみたいだから、ポカーンと事態を見守っていた。
沙紀は手を顎に当てて、一瞬考えるそぶりをした。そして、爆弾を落とした。
「私と明人は付き合っているのよ///」
「「は?」」
松山と僕の声が重なる。嫌な合致だったが僕と松山が考えていることは同じであろう。一拍遅れて
「えええ嘘!?」「なんでキモパンダと学園のアイドルが!?」「どういうこと!?」「キモパンダが何かしたに決まってる!」「そ、そうだ!そうに違いない!!」
(沙紀ぃ!!何言ってんの!?)
僕の内心は沙紀の突然の暴露に震え上がっていた。
「冗談よ」
クスクスと笑った。沙紀はクラスメイト達の阿鼻叫喚な姿を見て大変満足したらしい。沙紀の悪戯だったと知ってクラスメイト達も安堵していた。
「だ、だよねぇ」「キ、キモパンダと水本さんがそんな関係な訳がないのに」「冷静に考えてみればありえないな・・・」「てか水本さんが笑っているのを初めてみた・・・」「それな、美しすぎる・・・」
沙紀のお茶目だったということに弛緩しきっているクラスの中で一人だけ、浮かない顔をしているやつがいた。
「沙紀、そういう冗談はほどほどにするんだ。義兄として許せないぞ。ましてや、キm、岩木となんて・・・」
松山は面白くなさそうに沙紀に義兄としての注意をする。沙紀は松山の方に向き直った。そして、心底嫌そうな表情をした。
「松山君・・・に兄面されると反吐が出そうね・・・気持ちが悪いから二度とやめてくれるかしら?」
「っ!!」
沙紀はあえて義兄さんと呼ばずに、苗字で呼んで突き放した。松山は沙紀の一言に青筋を立てるが、アルカイックスマイルはなんとか維持して、沙紀に話しかける。
「ひ、酷いなぁ。さっきまで義兄さんって呼んでくれてたのに・・・だけど俺の気持ちもわかってくれよ。あくまで義兄として沙紀にはろくでもないやつに引っかかってほしくないだけなんだ」
あくまで義兄として振舞うようだ。そして、さりげなく僕を見る。
(ろくでもないって僕のことか・・・)
「そうね・・・その通りだわ」
沙紀は腕を組んで考える仕草をする。その様子を見て、松山は溜飲を下げた。
「分かってくれたか、それじゃあ沙紀、そんなやつから離れてー」
「つまり、松山君みたいな人間には近づかなければいいってことよね?」
「は?」
松山は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。端的に言うと阿呆すぎる顔をしていて、僕は笑いが起きないように下を見た。そして、沙紀は笑顔で松山に感謝を伝えた。
「ご忠告ありがとう。今後に活かすわ」
「お、おい!」
沙紀は松山との会話にもう価値がないと判断したのだろう。沙紀は僕の方を見た。
「さっきはごめんなさい。冗談が過ぎたわ。けど用事があったのは本当よ?」
「僕に用事・・・?」
昨日の告白がすぐに頭に浮かぶ。しかし、沙紀の用事はそれではなかったようだ。
「貴方の悪い噂はよく聞いているわ。生徒会役員として、貴方を更生することになったので、今から生徒会室に来てもらいます」
「え?」
「ちなみに拒否権はないから」
「ちょっ!」
僕は沙紀に腕を引かれて、生徒会室に無理やり連れてかれた。
「クソ!覚えてろよ、クソパンダ!!!」
僕らが教室から出ると、松山の怒声が聞こえてきた。
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