プロローグ2

僕の名前は水本・・・ではなく岩木明人。平々凡々な容姿でどこにでもいる高校生だ。訂正。高校一年生まではだ・・・・・・・・・。高校二年からは生活が激変したのだった。




小学生の頃まで、僕には父さんしかいなかった。母は僕を産んで亡くなってしまったらしい。だから、父さんが僕を一人で育ててくれた。だけど、小学六年生の頃に父さんは再婚した。相手は僕の同級生の幼馴染の母親。元々義妹とは仲がよかったので、僕たちはこの再婚を祝福した。




けれど、僕が中学二年生の時に、父さんは事故で亡くなった。僕は天涯孤独になった。それから義母さんは豹変して僕を奴隷のようにこき使った。義妹との接触も仲よくしている暇があるなら働けと言われてしまいほとんど禁止されてしまった。




そんな毎日に不満がなかったわけではなかったけど、僕は義母さんに家族として認めてもらいたかった。勉強だって義妹と比べて僕の出来が悪いとよく小言を言われていたから、義妹に並べるように頑張った。しかし、合格した時にもらった言葉は賞賛ではなく嫌味だった。




『余計な学費を増やして私たちの負担を増やして何がしたいのかしら?本当に厭味ったらしい子・・・』




僕はショックを受けた。ただ認められたかっただけなのに・・・


それでもここで捨てられたくない、認められたいという一心で色々なことを頑張った。けれど、結局は追放という形で僕は義母さんに捨てられてしまった。




「お~い!キモパンダ・・・・・!起きろぉ!!!!」




僕はその声で目が覚める。眠い目をこすって周りを見てみると、時計の針は昼休みの時間を指していた。そして、僕を囲んで笑っているクラスメイト達の姿があった。




「おはよう~よく寝てたな(笑)」


「お、おはよ・・・」


「キモパンダは相変わらず授業中も先生の話を聞いてないのな。ちゃんと起きようぜ(笑)」


「う、うん」




松山優斗。県内トップクラスの私立の松山学園の理事長の息子。成績は学年二位、スポーツは万能、イケメンで高身長。まさにカーストトップの名にふさわしいステータスを持っていた。




「どうせ、夜中にエロゲ―でもやってたんだろ(笑)?」


「ち、違うって・・・!」




僕は松山の言葉を必死に否定しようとするのだが、周りの笑い声にかき消された。




「キモ~い」「気持ちわり!」「流石キモパンダ」「ゲームやってて授業中ずっと寝てるとかありえない」「てか目がキモ!」




言われたい放題だった。僕だって好きでこうなりたかったわけではないと声高に叫びたかったが、耐えるしかなかった。




「岩木よぉ、あんまり授業中の態度が悪いと父さんに言っちゃうぜ?」


「!そ、それだけは・・・」


「なら、分かってるよなぁ?」


「はい・・・」


「よしよし。みんなぁ!キモパンダがみんなにジュースを奢ってくれるってよ!!」


「マジ!」「イエーイ!」「キモパンダ様ありがとう!」「まぁ当然だよな」「松山くん優しい!」「退学にならないだけ優斗君には感謝しなきゃねぇ」




散々な言われようだが、僕に拒否権はないため、そそくさと教室を出て、自動販売機に向かった。


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僕は松山に脅されてクラスメイト達にジュースを毎日奢らされている。一つ一つ、クラスメイト達の注文通りにジュースを選ぶ。そんなことのために時間を使わされている現状にため息をつかずにはいられなかった。




春休みの最終日に無一文で追い出された。しかも学費は義母さんが払ってくれているのかと思っていたら、奨学金を借りていたらしい。だから、学費と生活費、家賃等を自分で稼がなければなくなり、昼は学校に行きながら、真夜中までバイトという生活を送らざるを得なくなった。その結果、睡眠時間が大幅に削られてしまったので、学校で居眠りをしてしまうことが多くなってしまった。




運が悪いことに僕は学園の理事長の息子である松山優斗に目を付けられてしまった。松山は僕を不摂生でダラシがない人間だとクラスの連中に印象付けた。そして、目の下に大きな隈を作っている僕に「キモパンダ」と蔑称を付けていじめの対象とした。




教師に辞めさせるように言ったりしたのだが、僕の印象の悪さは職員室内でも話題になっており、逆に責められる結果になった。




僕はジュースを両手で抱えながら何度目か分からないため息をついた。また教室に行くのが憂鬱で仕方がなかった。すると、




「めっちゃ美人!」「流石次期生徒会長!」「憧れるぅ」「付き合いたいなぁ」「お前じゃ無理だよ」




などと噂されている人物が遠目に見えた。




水本沙紀。松山学園の生徒会会計を務めている。スタイルはモデルが裸足で逃げ出すほどで、黒髪が良く似合う和風の美人である。容姿端麗であるにも関わらず、才色兼備でもあり、学年トップの特待生でもある。そして、先月までは僕の義妹だった人物だ。




僕と同じ家で育ってきたはずなのに天と地の扱いの差だった。ちなみに僕と沙紀が義理の兄妹だということは教員以外には知られていない。




僕は学園のアイドルとなっている元義妹に気が付かれないように、自分の教室に戻った。




昼休みが終わって、今度こそ授業中は寝ないぞと意気込んだのだが、気が付いたら授業中に爆睡してしまい、教師からは問題児扱い、クラスメイトからはいじりという名のイジメの対象だった。すべての授業が終わると、




「今日も最高の眠りっぷりでしたねぇ(笑)」




松山が僕に絡んでくる。そして、僕を羽交い絞めにして、




「ほら、みんな見てみな!キモパンダの目元の隈が取れて人間に戻ったぜ(笑)」


「やめっ!」




松山の声に反応して、クラスメイトが面白半分で集まってくる。僕は連日の疲れで身体に力が入らなくて、抵抗は全くの無意味だった。




「本当だ(笑)」「これが進化か」「人間に昇格おめでとう!(笑)」「降格の間違いだろ(笑)」


「確かに(笑)キモパンダの方が個性はあるわ」「明日はちゃんと授業を聞けよ」




このまま放課後の玩具にされるのがいつもの日課になのだが、今回は思わぬ乱入者が来た。




「貴方たち、何をしているのかしら?」




沙紀が教室の前にいた。生徒会のワッペンを付けているので、校内の巡回中だったのだろう。突然の乱入者にほとんどのクラスメイトが硬直していたが、松山だけが、




「別に、岩木くんが授業中に寝ているから注意していただけだよ、沙紀・・」




松山は沙紀のことを名前で呼んでいた。まるで気心の知れた友人のように。沙紀は僕の方を見て、一度ため息をつく。何か言われるかと思ったが、そして、




「本当かしら?」


「そうだよ。義兄・・の言うことが信じられないか?」


「え?」




僕の聞き間違いでなければ確かに今、義兄といったはずだ。それはクラスメイト達も一緒だった。




「今、義兄って言った?もしかして、水本さんの?」


「おお~っと口が滑ったぜ」




松山はわざとらしく演技する。この事実を伝えたくてたまらなかったという感じだ。そして、そのまま




「うちの親父と沙紀の母親が俺たちの受験が終わった後に再婚するらしくてな。まっ、沙紀と俺は義理の兄妹になるってことさ」




松山は得意げに語る。クラスメイト達もそこに追随して、




「すげぇ!」「そんな話あるんだ!」「ドラマみたい!」「てか、超お似合い!」




教室は歓声で包まれる。僕のことなど忘れて、松山の話に興味津々なようだ。沙紀はそんな僕たちのクラスメイト達に詳細を聞かされている。




僕もその話には興味があったが、こんなところにとどまっている場合じゃない。


(沙紀には悪いがいいタイミングで来てくれた)




教室に残っている元義妹に謝罪と感謝を心の中でしながら、急いでバイトに向かった。


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僕のバイト先は工事現場だ。危険な仕事な分給料は高い。




「お疲れさまでした」


「お疲れ~」




今日の仕事は比較的早く終わった。いつもならこのまま別の工事現場なのだが、今日は仕事がないらしい。久しぶりに寝れそうだ。といっても家に着くのは二十時前になりそうだけど・・・




僕は疲れた身体を引きずって帰路に着く。毎日毎日なんでこんなつらいことをやっているんだろう。


汗水たらして、学費を稼ぐ。だけど、授業は疲れて寝てしまうし、将来のために貯金しようと思っていたお金は巻き上げられる。




「もう辞めようかな・・・」




大学を出て、いいところに就職する。それが亡くなった両親に対する恩返しだと思っていた。そのために、県内屈指のこの松山学園で頑張ろうと思ったが、このまま精神的な苦痛を受けながら通うくらいなら、辞めるのもありかもしれない。




ネガティブなことを考えていると、今住んでいるボロアパートが見えてきた。


僕の部屋は二階の203号室で間取りはワンルームでロフト付き。外壁もボロボロだが中身も同じような感じだった。せめてもの救いは風呂が付いていることだろう。これだけが、今の僕の楽しみだった。




僕はいつも通り、階段を上がって、部屋に入ろうとすると、




「義兄さん・・・」




と聞き覚えのある声が背後から聞こえた。そこには




「久しぶり・・・」


「沙紀・・・」




このボロアパートには似つかわしくない元義妹がいた。

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