第51話:ショウカクシケン_チュウ_5


「なっ、なんでだよ! 謝っただろ!?」

「謝ったら全部受け入れないといけないんですか? 実川さん一度もそれやったことないのに、自分ができないこと人に求めないでくださいよ」

「お前じゃ話にならない! なぁおい! そこの三人! お前たちから言ってくれよ!」

「……」


 当然のことながら、三人は実川の言うことを聞かない。改は言っていた太い針のようなもの――実際はバーベキュー等に使う焼き串なのだが、それを持って実川に近づいた。


「皆さんすみません。この人の靴と靴下、脱がせてもらっても良いですか? 脱がせたら暴れても良いように足首とふくらはぎの辺り固定してほしいです」

「お、おい……やめ、やめろ……」


 改に言われた通り、三人は暴れる実川を押さえつけ、履いていた靴と靴下を脱がせた。そしてそれらを丁寧に揃えて床に置くと、ふくらはぎから足首にかけてベルトで足同士がくっつくように固定した。


「ありがとうございます! ……足の指を丸めたりできないようにって可能です?」


 この問いにも、無言で指に何かをはめて広げることで応えた。


「なんでもできますね? 本当、助かります」


 丁寧にまた改はお辞儀をして、実川への足元に座った。


「これで邪魔するものはないですね。これから、実川さんの足の指、爪との間にこれの尖ってる部分刺していくんで。痛かったら痛いって言ってくださいね? 叫んでもらっても構わないですけど。リアクションないとわかんないですもんね、どれくらいの痛みなのか」

「お願いだやめてくれそんなことされたくない」

「やだなぁ。実川さんだって、僕のお願い聞いたことないでしょう?」

「こっ、これからは聞くから!」

「あ、そうです? じゃあ大人しく刺されてください」

「ちがっ……! そうじゃなくて……!」

「『これから言うこと聞く』って言ったのに? やっぱり嘘吐きだ実川さんは」


 ――ズズッ。


「あぁぁぁぁぁぁ!!」


 実川の右足の小指、爪と肉の間に改は串を突き刺した。爪との曖昧な境目はすぐに血で赤く染まっている。ピクピクと指先を震わせているが、それ以上動かせないため、痛みを逃がすことも誤魔化すこともできない。何度改に解放を願っても受け入れられないどころか、躊躇うことなく身体を傷つけてきたことに、実川は絶望の淵に立たされている気分だった。


「いだいいだいいだいいだいあぁぁぁぁ!!」

「やっぱり痛いんですね。え、まだ奥まで入りそう」

「や、べっ、でぇぇぇ」


 ズズズ――メリメリッ。


「うがぁぁぁぁぁ!! いだぁぁぁぁぁ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「あ、爪剥がれそう」


 面積の小さい小指は、改に奥まで串を刺されると爪と肉を引き離そうと、メリメリ音を立てながら動いていた。


 ズズ――ズズズッ――


「あぁぁぁああぁあぁぁああぁぁああぁぁぁああああ――!!」


 同じ力で串を押し続けた結果、爪が剥がれて床にポトリと落ちた。勢い余った串はそのまま爪の根元だった位置を突き刺して、肉を抉っている。剝き出しになった肉を串が擦るたび、実川は悲鳴をあげている。身体も捩り、枷も引っ張って全身で痛みを表現していたが、どれもこれも押さえつけられて思うように発散できない。


「ああー。太いですもんね、これ。小指ダメになっちゃいました」

「も、もう……やめでぐれ……」

「え? まだたった小指の先端ですよ? なに言ってるんですか? 次です次」

「あああいやだいやだいやだああああああやべでぐれぇぇぇぇぇ!!」


 実川の叫びは改にとってなんの意味もなさず、淡々と事を進めている。薬指中指人差し指と順番に串を刺し、血の滲んだ場所を刺し過ぎて爪を剥ぎ、を繰り返していた。右足は血まみれで爪と小さな肉片がその下に飛び散っている。初めは威勢よく叫んでいた実川も右足が終わる頃には嗚咽へと変わっており、涙と鼻水、それに涎を垂らしながらぐちゃぐちゃになって俯いていた。


「ぅ……あ、ぁ……」

「右足終わったし、次はどこにします? 切り落としても良いし、突き刺しても良いし。……燃やすのは……さすがに危ないからやめたほうが良いかな、室内だし」


 改は立ち上がると、実川の服で串についた血と肉片を拭った。そうして綺麗にすると、実川の身体を押してユラユラと揺らし始めた。


「ぉ……ぉ……」

「え。もう意識飛ばしてます? 根性ないなぁ」

「あー……あー……」

「ダメですね、色々してやりたいと思っても、いざ目の前にすると理性が邪魔するんです。……アナタのことなんか、どうでも良いはずなのに」

「も、おぉぉ、うっ……」

「……違うな。どうでも良いは感情がないから。……あーあ。こんな感情も、アナタに対してはもったいない」


 泣いても叫んでも終わらない、まるで拷問のような時間。実川は揺れながら無意識のうちに失禁してズボンまで濡らしていた。自制のきかなくなった膀胱から溢れ出る尿は、ズボンを通り越して下へ下へと伝っていき、ポタポタと水溜まりを作っている。


「うげぇ、汚いな……。怖いのと痛いのって、失禁とセットなのかな……。怖くて漏らすとか聞くような……」


 鼻をつく独特の匂い。他人の、しかも大嫌いな相手の物ということもあり、露骨に改は顔を歪めた。

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