第31話:ウイジンキネン_ゼン_3
「……これ、全部僕に向けての言葉なんでしょうか……」
「そうですよ~? 新人司会者は、私たちのチームでは久しぶりですし~。みなさん、きっと待っていたんだと思います~」
「冷たいこと言って、ソイツが辞めてしまっても、観客はつまらないんだよ。マンネリにならないためにも、新しい風は吹き込んだ方が良い。そう思っているのは、私達運営も観客も同じなんだ」
「なるほど、なるほど……なるほど……」
改は流れるコメントの拾える限りを拾って目に焼き付けた。黙読できるものは黙読して間違いなくその厚意を受け取っている。
――初めましてか、頑張れ。
――失敗しても良いから、楽しくやりなよ。
――久し振りの新人さんだね、頑張ろう!
――ゆっくりで良い、見守ってるよ!
――コメントでフォローしようか?
――記念すべきデビューの日に乾杯!(普段より多めに賭けたよ)
――良いか? お前ら。初戦を荒らすんじゃあないぞ?(俺も多めに賭けた)
どれもこれも、緊張した改にとっては涙が出そうになるほどありがたい応援だった。見ている、ではなく、見ず知らずの人達が、こんなにも見守ってくれているのだ。
今から行われるゲームがデスゲームでなかったら、感動して泣いていたかもしれない。出会いの形は最悪かもしれないし、ゲームを楽しんでいる相手は、人の命を弄んで賭けの対象にして面白がっているのだから。――その運営をしている自分自身のほうが、碌なもんじゃないと思いながら、改は深呼吸してモニタを見つめた。
「もがなさん、丙さん。……至らないところばかりかとは思いますが、今日はよろしくお願いします……!」
「一緒に頑張ろう!」
「こちらこそです〜。この感じ、久しぶりで楽しみですし〜」
ゲーム開始までの残り時間も僅か。改は参加者の資料と、今回のルール説明の文章を読み込む。少しでも、楽しいゲームを作れるように。観客の期待に応えられるように。
「……改ちゃん、そろそろ時間だよ」
「あっ……はい……!」
「……大丈夫。何度も練習してきただろう?」
「……! はい!」
何度深呼吸しても、胸の早くて大きい鼓動は落ち着かない。初めて死体を見た時と同じように、冷や汗をかいていてなんとなく気持ち悪い気分だ。それでもなんとか平常心を保つと、配信開始の合図を受けて改は第一声を放った。
「――みなさん、こんにちは! 僕は今回の司会、グレイです。初めてのゲームとなりますが、よろしくお願いします!」
「サポートはバニィと」
「ペシェの二人です〜」
改の挨拶が終わると、コメントで画面が溢れかえっていた。挨拶から激励の言葉、今回のゲームへの意気込みなど、どんどんと流れてくる。
「え、っと。事前に僕が参加することを発表した時、温かいコメントをくれた皆様。見ていますでしょうか? 本当に、ありがとうございました。お陰で凄く励まされました。……至らないところばかりかとは思いますが、改めてよろしくお願いします!」
簡単なお礼を告げて、今回のゲーム説明へと入った。
「今回のゲームは、一対一のゲームになります。僕はもちろん初めてなのですが……。バニィさんやぺシェさんは、今までこの形式のゲームの司会をしたことは?」
「私はあるよ。だが、最近は少なくなったね。一人プレイか、もっと多い人数が増えてきたから」
「同じくです〜。私もグレイさんと同じで、初めての司会が一対一のゲームでしたから〜」
「じゃあ、他の司会の人たちの中でも、ペシェさんは特に先輩だ! 頼りにしちゃおうかな」
「もちろんですよ~。何でも聞いてください~」
「おいおい、私を一人置いていかないでおくれよ?」
まずは世間話のように軽い会話から入る。少しでも言葉を口から出すことに慣れておかなければ。改はそう考えていた。
「以前との違いも聞きたいところですが、早速、参加者について簡単に説明しておきましょう!」
チラリと横を見ると、丙ももがなも改のほうを見て親指を立てていた。どうやら滑り出しは順調らしい。
「今回は女性同士の対決だ! ……どうでしょう? 僕のような初心者……と言って良いのかわかりませんが、そういうタイプはタイマンだと結構男性同士をイメージすることが多いと思うんですよね。お二人的にはどうなんでしょう? 観客の皆さんはどうですか? 良かったら、コメント貰えると嬉しいですね」
サポートの二人へ話を振りながら、観客を巻き込んだやり取りへと持っていく。見ている人が置いてきぼりにならないように、自分が初戦だからと心配してくれた人たちを心配させないようにという、改なりの配慮の方法だった。
「私も昔はそう思っていたよ。……そうだね。ゲームの司会を始めた当初は、グレイと同じように女性同士の対戦には驚いたものだ。しかし、ホラ、コメントを見てみると良い」
「……おぉ! 皆さん、結構女性のみのゲームも見ているんですね。やっぱり、観客の方たちのほうが僕より先輩だ!」
「女性が多いと、力技は少ないですけど、手数が多くなるんですよね~。いかに体力を削るかとか~、精神力を削るかとか~。男性の時ももちろんありますねどねぇ。キャットファイト、見ていて面白いですよ~?」
「特に気を付けて見た方が良い、って場面はありますか?」
「大きなアクションは少ないかもしれないが、その分動きは細かいかもしれないね。そこは目を配った方が良い」
「なるほど!」
「事前準備や、咄嗟の判断も見ものですよ~。あっ、でも、別に女性だけじゃないですけど~」
「最初のうちは、全体的に注意した方が良さそうですね! ……ふむふむ。これは……」
既に何度も読みこんだ資料を、今初めて目を通したかのように説明する。そのほうが、新鮮さがあるのではと思った結果だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます