第8話:アタラシイカイシャ_3
女性にしては低めの声だなと、そんなどうでも良いことを改は考えていた。面接には関係ない。関係ないからこそ、考えてしまうのだが。
「灰根改です。本日は、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。私は入江三律-いりえみのり-だ。――さぁ、座ってくれ」
「し、失礼します」
にこりと笑った三律の顔は、すこぶる美人だった。それに、若い。まだ二十代前半くらいだろう。肌は白く、非常に整った顔立ちをしている。スタイルも良く、身長もそれなりにあるように見えた。
「そんなに緊張しないでくれ。肩書は社長だが、みんなと同じような仕事もしているんだ。創立したのは私だからね。難しいことはしないよ。早速だけど、改君はどうしてウチの求人に応募したんだい? ……あぁ、こう、上辺みたいなのは良いから。自分ではくだらないと感じるような理由でも構わないから、素直に思ったことを話してくれないか?」
「え……っと……」
三律の言う通り、そのまま話して良いものなのか。改は悩んだ。そう言っておいて、実は正直に話したらダメなんてこともあるかもしれない。むしろ、世間ではそちらのほうが多いのではないだろうか。甘い言葉に、思考が乱されてしまう。
「文字通り受け取ってくれて構わないよ。建前というものも大事だが、我が社では素直なほうがこちらもありがたいからね」
「……っ……待遇です!」
「……おぉ」
ギュッと目を閉じて、改はそう叫んだ。間違いなく、この会社を選んだ理由は待遇だった。給与も高く、寮もついている。自社ビルとは、このバベルの塔のことだろう。なんでも揃っているし、自由に使えると書いてあった。それが本当なら、是非ここで生活したい。仕事がしたい。多少酷で辛かったとしても、きっと我慢できる。上司がクズでも、我慢できる。笑われるかもしれないが、これが本当に改の志望動機だった。
「あははっ! 良いねぇ。ありがとう。ちなみに、待遇を見たということは、求人誌の広告を見たんだね? 大丈夫。あの内容に、嘘偽りはないよ」
「本当に……?」
「あぁ、本当に。神に誓っても良い。……仕事内容は、確認したかい?」
「確認はしました、が、ゲームに関すること、と。こちらは待遇よりも、その、大雑把というかなんというか……。ザックリとした書きかただったと思います」
「そうなんだよねぇ。あんまりハッキリは書けなくてねぇ」
「……なぜ、でしょう?」
「なぜだと思う?」
「……」
「これは、最後にしようか。ゲームと書いてあって抵抗がないのなら、改君は普段ゲームをする人間なのかな?」
「はい、ゲームは良くします。……今はあまりできていませんが。けれど、子どものころから大好きですね」
「ほほう。どんなゲームをよくプレイするのかい?」
「多いのはホラーゲーム、アクションゲーム、推理ゲーム……。脱出ゲームも好きですね」
「なるほど。そうか。……ホラーゲームは、どんな作品が好きなんだ?」
「ゾンビに幽霊、怪しい屋敷から逃げ出すとか……。あの、ここもきちんとお話したほうが……?」
「好きなゲームは大きいよ。我が社にとって。話してくれると助かるね。できれば、理由も」
「わかりました。……あまり、公には言えないというか。死にそうな子たちを救い出したり、逆にトラップを仕掛けて殺したり。謎を解いて死の運命から逃れたり、そういうのが多いです。それに死にゲー……ってやつですかね。死んで覚えて当たり前……なアクションゲームとか。自分では、その、割とグロ耐性は強いと思っていて。映画もそういうものを好んで見ることもありますし、漫画や小説も鬱々とした話や救われない、後味の悪いものが好きで……。部屋を真っ暗にして、ヘッドフォンをして、ジッと画面に集中してプレイできる。人間や得体のしれないモノの怖さや世界の狂気を感じられる、そんなゲームが好きです。絶望しかないのに、有るはずのない光を目指して必死にもがいたりしているのも好きですね。悪夢から覚めない、その中で何度も死ぬ、とか。まぁ、愛着を持っているキャラクターよりは、クソみたいなやつでクソみたいなことをしてきたやつが無残に死んでいくほうが、グッと心は掴まれますね。一種のカタルシスと言いますか。なんとも言えない高揚感を得られるので。あまり、善人には死んでほしくないんですよ。どちらかと言えば、助けたい。そのために悪人は別に、死んでも良いかなって。バックグラウンドが複雑だと、難しいんですけどね。仕方なく悪人に……誰かを、なにかを守るために……ってパターンも当然ありますし。あとは、死に様は多種多様なほうが良い。非現実な死にかたでも、現実的な死にかたでも。興味を持って、思わず本は買っちゃいました。例えば、中世の拷問方法や死刑集、実際にあった事件のまとめに殺害方法。未解決事件や世界の謎。昔の童話遊び歌。にこういうのって国外のものを取り上げることが多いと思うんですけど、日本の事件や拷問もなかなかえぐいんですよ。……あっ、す、すみません……。本題からずれてしまいましたね。うわぁ、しまった、語ってしまった……。と、とにかく。指定が付くなら十八禁とか二十禁とか、そういうゲームが好き、です……」
思わず熱く語ってしまい、改はハッとして三律のほうを見た。呆れられたかと思ったが、三律はふんふんと真面目に改の話を聞いている。
「いや、それくらいの熱意があったほうが良い。……そうか、グロ耐性か。あったほうが良いね。一応、エロ耐性もあったほうが良いかもしれないけど。そっちはどう?」
「えっ、エロ、ですか?」
「あぁ」
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