青十とじいちゃんの日常~地獄の底から響く声~
夢月みつき
第1話 青十とじいちゃんの日常
「おじいちゃ~ん! 今日は泊まってってよ。パパが怖いんだよー」
小学2年の
祖父の
春治は、眉を八の字にして困ったような表情で青十に謝った。
「ごめんな。青十、じいちゃん。明日は仕事があってな……」
青十はそれを聞いて、泣きべそをかきながら怒っている。
「本当にパパ、怖いのにー!おじいちゃんのバカー!!!」
青十は、祖父の背中に回るとそのまま、抱き着いた。
「ごめんな……青十、お詫びに今度、じいちゃんが青十の好きなゲーム買ってやるから。」
「うん……」
青十は、しょんぼりしながらうなずいた。
青十はマンションの入り口まで、春治を送って行く。
「本当にごめんな。今度、じいちゃんが父さんに言ってやるからな。」
すまなそうにまた、謝る春治。
「いいよ。パパ、怖いから。」
青十の目尻には、少し涙が光っていた。
春治は青十のことを心配しながらも、後ろ髪を引かれる思いで自宅に帰っていく。
春治が踏切の開くのを待っていると、一人の20代位の女性が春治の後ろで
くすくすと、笑っている。女性は少し、申し訳なさそうに春治に言った。
「あのう……背中にこれが……」
「――はい?」
春治は、不思議そうに振り返ると、女性に一枚の紙を渡された。
それは、自由帳を破った紙に書きなぐったような下手な字で、油性ペンでこう書かれていた。
(この人、うります。)
春治は青十の顔が頭に浮かんだ。
「青十か……!?」
春治は少し驚いたが、青十の寂しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「青十……」
春治は女性に礼を言うと、ケータイをバッグから取り出し電話を掛けだした。
一方、青十の部屋では、母の
「おじいちゃんだ! 気づいたんだ!」
青十はスマホの通話ボタンをタップして耳に当てた。
「青十か、じいちゃんだ。」
スマホごしに春治の嬉しそうな声が響いた。
しかし、春治のケータイから聞こえてきたのは、某ホラー映画さながらの気味の悪い声だった。
『今すぐ、青十の家に戻らないとおまえを呪うぞ~。あああああ!!!!』
それは、春治を地獄に誘うような恐ろしい声だった。
「ひえっ!!!」
春治はとんでもない間違い電話をしたと、ブルブル震えながら通話を切ろうとした。
「おじいちゃん。待って! 切らないで!」
恐ろしい声の後に、青十の可愛らしい慌てた声が聞こえてきた。
「青十!?」
何と、青十はボイスチェンジャーを使って、春治にイタズラをしていたのだ。
青十のしょんぼりした声が聞こえる。
「ごめんなさい。張り紙も、お化けの声も僕だよ。おじいちゃんにどうしても、戻って来て欲しかったの。」
春治は優しく微笑み、青十にこう言った。
「あんまり、青十を怒らないように伝えてくれとママに頼んでおくよ。」
「うん、頼むね! おじいちゃん。」
青十の声に少しだけ明るさが戻った。
「でも、イタズラはほどほどにな。じいちゃん、寿命が縮むかと思ったよ。」
春治は、明るくからからと笑っている。
怒られると思っていた青十は、ホッと胸をなでおろした。
「は~い。また、来てね。おじいちゃん! 今度は、特大のブーブークッション仕掛けるから」
「コラッ! 青十?」
寂しいのもあるだろうが、こんなにイタズラ好きなのは、誰に似たのだろうか。
青十のイタズラに、気が短い父親は我慢が出来ないのだろうと
春治は苦笑いをしながらなるべく早く、青十に会いに行こうと思うのだった。
-終わり-
青十とじいちゃんの日常~地獄の底から響く声~ 夢月みつき @ca8000k
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます