シーグラスの箱庭

橘かんな

第1話

二人にほんの少しの違和感を感じたのは、秋に差し掛かった頃だと思う。

 元々僕たちは五人でつるんでいた。タケ、リュウ、ナベさん、いっくん、僕ユウスケの五人だ。高校に入学して同じクラスになって、なんとなくつるみ始めて、なんとなく居心地が良くて、そのまま一緒に過ごすようになった。つるみ始める理由なんてそんなものだろう。でも、なんと言ったらいいのか、二人には違和感を感じ始めていた。

 「ユウちゃん、宿題やった?」

 「やったけど、もう僕はいっくんに見せないよ」

 「ええ、何でよ!多分、今日俺あてられるんだよ。今日十二日だろ?」

 「いっくん、出席番号十二番だもんな。でも嫌だ」

 「そこを頼むよ~、ユウちゃん」

 そうやって、いっくんはいつも僕を頼る。文系科目は上位に入るくらい得意だけれど、理数系はからっきし駄目らしい。苦手というのは分かるが、宿題をやらないのも理由ではないだろうか。

 「諦めて自分でやれよ」

 と、僕の味方になったのはリュウだった。

 「リュウはいっくんと違って、ちゃんと宿題やってるよ」

 「リュウは理数系得意じゃん。俺理数系苦手だし」

 「そうだけど、俺は文系科目もちゃんと宿題やってるぜ」

 「うるせえな、俺は今ユウちゃんにお願いしてるんだよ」

 「だから僕は見せないって言ってるだろ」

 僕が折れないと分かったいっくんは、今度はリュウに頼み始める。

 「リュウ~、宿題」

 「見せない」

 「……最後まで言わせろよ」

 「見せねえって。ユウちゃんも俺も、お前のために言ってるんだからさ」

 「分かってるけど、間に合わねえんだって!もう予鈴鳴っちゃうだろ!」

 いっくんが駄々をこね始めると、リュウは大きくため息をついてみせて、ノートを渡していた。上機嫌で席に戻るいっくんを見届けながら、僕はリュウに言う。

 「またそうやっていっくんを甘やかす」

 「分かってるんだけどさ……なんか断れねえんだよ」

 「まあ、リュウは友達皆に甘いからなあ」

 「俺、ユウちゃんを甘やかしたことあるっけ」

 「昨日、購買のパン交換してくれただろ」

 「ああ……、ユウちゃんが焼きそばパンの方が食べたそうに見えたからさ」

 「そういうとこだよ、リュウ」

 リュウは一生懸命宿題を書き写しているいっくんを見て小さく笑うと、自分の席に戻っていった。そのときの目に、なんだか見覚えがある。それが僕が最初に違和感を感じたことだった。


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