過激に!エッチに!異世界ライフニャ!?
バニーガール様
第1話 ようこそ、ニャンダーワールドへ!
世界とは総じて、元より摩訶不思議なものである。
そして今、とある世界のとある一凡人の身に、予期せぬ奇異が振り掛かろうとしている。
その凡人はホワイトピンクの髪に鮮やかなピンク色の瞳と、少々派手な身なりをしているが、特段他の人間と変わったところはない。
人間達の区別で言うところの、ギャルと呼ばれる種である。
事の発端は、彼女が独自に飾り立てたスマホケースのラインストーンが、ポロリと剥がれてしまった事に起因する。
本来であればラインストーンは世界の摂理に従い、アスファルトへと落下する筈だった。
しかし間の悪い事に、落ちた先にはスーピーという奇妙な生物が居た。
生まれながらにしてこのアースと呼ばれる世界に属す彼女には、当然の事ながらスーピーは見えていない。
故に彼女には尚更、アスファルトへ落ちぬラインストーンが奇妙に思えた。
アースの物理学には見識がない彼女とて、物体とは例外なく地面へと落ち行くものである事は知っている。
「え、ウケるー」
正常な頭の持ち主であれば、恐怖に慄くか、新たな未知の第一発見者だと歓喜するかのどちらかだろう。
しかし彼女は首を傾げて暫し固まった後、何とも間の抜けた言葉を放ち、何て事ないようにラインストーンへと手を伸ばした。
凡人には変わりないが、多くの凡人とは大分思考回路が異なるようだ。
一方、スーピーのほうはどうだろうか。
美しい純白の毛に、三角形の耳が2つ生えている。
額に焦げ茶色の宝石が付いている以外には、地球において猫と呼ばれる動物そのものの姿であり、自身もまた、猫であるという認識だ。
猫のスーピーがこのアースという世界の地球と呼ばれる星に来ていた事に、これといった理由はない。
強いて言うなら、住み慣れた地球で何処か落ち着ける場所をと.......昼寝をする場所を求めて放浪していただけである。
そう、この猫のスーピーもまた、摩訶不思議な奇異に見舞われた一凡猫であった。
背にラインストーンが落ちてきた事に関しては、小さな枯れ枝でも落ちてきたのだろうといった認識をし、気にも留めなかった。
その後人間が何やら手を伸ばしてきた事に関しては、例の如く撫で回したいが為だろうと推測した。
猫のスーピーは元野良猫なだけあり、度胸が据わっていたのだ。
猫のスーピーにとって人間は見慣れた生物であり、曰く、“快適ニャ
幸運な事に野良猫時代の周囲の人間は、土地柄か親切な人間が多かったのだ。
食事は大抵世話になっていたし、雨が降れば適当な家の窓を引っ掻き暖かい毛布へとあり着いていた。
ニャン的衝動を持て余して人間の周りをグルグルと走り回れば、大抵の人間は察して玩具を引っ張り出してきては遊んでくれた。
曰く、“ニャーが困ってると助けてくれる、変ニャ奴らなのニャ”.......だそうだ。
この猫のスーピーの辞書には“親切”という言葉は載っていないのだろう。
見た目こそ実に可愛らしいが、その性格はとても可愛げがない。
猫のスーピーは人間の行いに対して、当初は“まぁ、ちょっとなら撫でられてやっても良いのニャ”.......と考えていた。
しかし何を思ったのか当初の予定を改め、いつの頃からか己に宿っていた摩訶不思議な力を行使した。
何故そんな行動をとったのか.......猫の脳内は思った以上に空っぽなようだ。
こうして、一匹と一人は人知れずアースを旅立った。
転移した(させられた)先は、灰色の石造りの無機質な小部屋だ。
部屋には中央に焦げ茶色に輝く水晶が浮いているのみで、他には何もない。
床にぐったりと横たわる人間は、摩訶不思議な力の作用により眠っているようだ。
一方、その犯人である猫のスーピーは人間を一瞥したのみで、その後は知らぬ存ぜぬとばかりに丸まって眠り始めた。
スーピーとは一体何なのか.......それはこの世で最も不思議な存在の事である。
来世へと歩み行く魂の内、稀に道を外れてしまうものがいる。
そういった魂こそがスーピーへと成り果てるのだ。
輪廻を外れてしまった哀れな魂達への、天が与えし救済か.......スーピー達は皆、最も直近の生前の姿となって現界する。
最後の生を受け、永久不滅の存在となるのだ。
故にスーピー達の姿形は多種多様であり、気質も様々である。
スーピーが生まれしはジェバーラと呼ばれる世界.......数多のスーピー達が住む、スーピーの楽園だ。
スーピーの誕生には更に摩訶不思議な事がある。
それはスーピーの誕生と共に、ジェバーラにスーピーの領域が出現する事だ。
それこそがこの場所.......ジェバーラの人々はそれらをスーピットと呼んでいる。
さて、運悪くスーピーの気まぐれに巻き込まれた人間が目を覚ましたようだ。
彼女は灰色に染まった視界に不審に思いながらも、ひとまず上体を起こした。
眉を顰めて部屋を見回し、問題のスーピーを目にすると僅かに表情を和らげた。
「猫.......?」
ピョンっと飛び跳ねるように立ち上がり、眠りこけているスーピーへと近寄った。
彼女が心配したのはスーピーの安否だ。
「猫ちゃーん、生きてるー?」
その声はスーピーには届かなかったが、手から伝わる温もりと上下に揺れる背を見て、問題なしと判断したようだ。
起こさないようにと静かに離れ、今度は奇妙な水晶へ近寄った。
「宝石?」
既に警戒などなんのその.......内心“でも茶色とか趣味悪ー”などとどうでもいい事を思いながら、宝石へ手を伸ばした。
「.......うわっ!.......え、何これウケるー」
彼女が触れた瞬間、水晶はメニュースクリーンを出現させた。
これこそがスーピットに秘められし力だ。
スーピー、もしくはスーピーに権限を与えられし者のみがこの水晶を使用出来る。
権限を持たぬ者が触れようと水晶は反応しない。
それどころか、そもそも権限を持たぬ者はこの部屋に入る事が出来ない為、多くの人々はその存在を知る由もないのだ。
スーピーやその下僕達はこの部屋をシステムルームと呼んでいる。
「うーん.......これ何て?全っ然読めないんだけどー」
彼女はグルグルと考えを巡らせた。
曰く.......“とりまテキトーに弄ってみるー?”
“でも誰かの家かもしれないしー、勝手に弄ったら良くないよねー”
「ってか此処どこー?」
彼女はこの場所に心当たりがないだけで、記憶はハッキリしているようだ。
直近の記憶は見慣れたアスファルトの道.......。
「あっ.......」
はたと閃いた。
曰く、“何かキラキラが浮いてたのと関係あったりしてー”.......だそうだ。
「.......猫ちゃん?」
幾つか推測を浮かべた彼女は見事、真相に辿りついた。
「え、マ?.......ウケるー」
何がウケるのか.......もう少し慌てるなり憤るなりしても良い筈なのだが.......。
猫のスーピーは見た目こそ可愛いものの、その行いは紛うことなき誘拐なのだから。
何はともあれ、依然として眠りこけている猫のスーピーに“連れてこられた”のだという事は理解したようだ。
そんな彼女が内心でまず考えた事は、“猫ちゃん、何か困ってるのかなー?”.......だそうだ。
何とも心優しく、器の大きい人間だ。
それから暫し経つと、漸くスーピーが目を覚ました。
スーピーは人間の気配を察知すると、先程のように彼女を一瞥した。
その後、尻を突き上げてグッと伸びをしてから、毛繕いをし始めた。
さすが前世猫と言うべきか.......何ともマイペースなものである。
〈にゃー〉
スーピーは己の出せる限りの甘えた声で鳴いた。
曰く、“おニャかすいたのニャ”.......だそうだ。
「ん?.......あ、猫ちゃんおはよー」
ぼんやりとスマホを弄っていた人間が顔を上げた。
両者は暫し見つめ合った。
〈.......にゃー?〉
「.......?」
しかし、いずれも脳内に疑問符を浮かべる結果となった。
曰く、“何で何も反応しないニャ?変な奴らは皆、ニャーがああやって鳴くと、嬉しそうな声で返事をしてくる筈なのニャ?”.......。
曰く、“え、喋らないの?魔法猫ちゃんじゃなかったのかなー?”.......。
そして、暫し不毛なやり取りが繰り広げられた。
「猫ちゃん、言葉分かるー?」
〈ニャー?〉
「何で私を連れてきたのー?」
〈ニャー?〉
「此処、どこー?」
〈ニャー?〉
「私、何すれば良いのー?」
〈ニャー?〉
「.......猫ちゃん、名前はー?あ、私は
〈ニャー?〉
「そ。じゃー私が名前付けたげるー。んー.......モフリンでどー?」
〈ニャー?〉
「おっけー。じゃーモフリンって呼ぶねー」
スーピーの名はモフリンと、一方的に決定されたようだ。
尚、言うまでもないが、当のモフリンは何一つ理解していない。
咲希が遠慮がちに手を伸ばすとモフリンは即座に察し、自ら頬を擦り寄せた。
曰く、“まったく、変な奴らは皆ニャーを撫でたがるニャ”.......だそうだ。
「おー.......モッフモフだー。.......え、きゃわわー」
咲希が内心思った事は“人懐っこい”だったが、モフリンの場合は“手馴れている”と言ったほうが正しいだろう。
一方、モフリンの脳内は食事の事しかないようだ。
そして咲希が漸くモフリンの知る人間達と同じ行動を取った事で、チャンスとばかりに全力で甘えた。
咲希はひとしきり撫でた後、静かに語り掛けた。
「モフリンってさー、やっぱ普通の猫ちゃんじゃないよねー」
咲希の視線はモフリンの額の宝石に釘付けになっている。
話が通じぬと悟りながらも話し掛け続けるのは、純真さ故か.......少なくとも、この摩訶不思議な状況に不安は感じていないようだ。
「.......何で呼んだのー?」
モフリンは何度も甘く淑やかに“ニャー”と鳴いて空腹を訴えるが、咲希には通じなかった。
一方、咲希の心境はというと、どうしたものかとすっかり困り果てていた。
見知った猫という動物の額にある奇妙な宝石を見つめて思案するが、もはや何を考えるべきかさえ分からなくなってきていた。
というのもこの咲希という人間は、日頃からこのように深く物事を考える事が殆どなかったのだ。
人間にとって思考を巡らせる事は一種の運動のようなもので、いきなり深く物事を考えようと思っても中々難しいものなのである。
人間達は日々の社会生活を通してその能力を発達させていくものだが、どうやら咲希の生きてきた環境ではあまり必要とされてこなかったようだ。
勿論、生まれ持った素質もあるだろう。
「.......ねぇーモフリーン、とりまさー、あの良く分かんないやつ適当に弄ってみてもおけ?」
咲希はあの奇妙な水晶が突破口になるに違いないと考えた。
〈ニャー?〉
モフリンには咲希が何を言っているのかさっぱりだったが、とりあえず鳴いておこうと考えたようだ。
「あーとー」
咲希はモフリンの鳴き声を肯定と受け取り、形ばかりの礼を述べた。
一方、モフリンは突然立ち上がった咲希に、脳内に大量の疑問符を浮かべた。
思わず“ニャー.......”と発した小さな声は、果たして咲希の耳に届いたのか.......。
先程、咲希が手を触れた事で水晶の機能は起動状態にあった。
咲希は見慣れぬ文字が並ぶスクリーンと再び向き合った。
「んー.......ねぇーモフリーン、これさー、テキトーに触っても大丈夫なやつー?」
咲希が浮かべた悪い推測は、“触れた途端に部屋が崩壊する”や、“触れた途端に呪われる”.......などといった事だ。
モフリンは懲りずにまた、“ニャー?”と鳴いた。
しかし咲希は悪い推測を浮かべた影響か、安易に手を触れる事はしなかった。
それから咲希は至極真っ当な事を思った。
曰く、“とりま、この良く分かんない文字が日本語になってくれればいいのにー”.......との事。
すると次の瞬間、なんとスクリーンの文字が全て、咲希の求めた日本語へと切り替わった。
「え.......やばたーん」
スーピットには権限者の意図を汲み取る力がある。
咲希が何となしに思った事を、“権限者の願い”と認識したのだ。
実に便利な機能である。
咲希は直ぐに現状を呑み込み、困惑しながらも努めて冷静に読み進めた。
「すーぴっと、かんりメニュー.......?」
たどたどしく読み上げたのは、最上部にデカデカと書かれた文字だ。
以下には次のような事が箇条書きで書かれている。
・設定
・居住域管理
・迷宮管理
・実績
・コミュニティ
・スーピット情報
「設定って何の設定ー?モフリン何か知らなーい?.......居住域.......管理?.......迷宮ってアレだよねー。名探偵のアニメで良く言ってるやつー」
曰く、“事件が迷子になるのー”.......といった認識のようだ。
「.......んー.......ってか、スーピットって何ー?」
とはいえ、咲希は何となく、スーピットとはこの場所の事なのだろうという気がしていた。
直感的にそう思っただけではあるが、僅かな情報から閃くとは大したものである。
咲希は“情報”というワードに惹かれ、チョンっとスクリーンに触れた。
すると画面は静かに切り替わった。
「んーと、なになにー?.......スーピットナンバー、いちまんななひゃくななじゅうなな.......おっ、やったー。約ラッキーセブンじゃん」
曰く、“左の10を消せばラッキーセブンになる”.......との事だ。
それから、“ラッキーセブンよりもラッキーじゃん”.......とも思った。
何故なら、10と777を掛ければラッキーセブンが10個になると考えたからだ。
果たして正しいのかどうかはさておき、以下が画面に書かれている内容だ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
名称:10777
マスター:モフリン
サブマスター:
ナンバーズ:不在
メンバー:不在
スーピットランク:ブロンズ
スーピットナンバー:10777
所在地:53WEE
所属者数:2
公開状況:非公開
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「え、ってか何これサブマスター私とかウケるー」
マスターがモフリンである事については全く気にしていないようだ。
「ねぇーモフリーン、スーピットランクって何ー?」
〈ニャー.......〉
「所属者2って私とモフリンだけって事だよねー?.......んー.......非公開ってなってるけど良いのー?」
〈ニャー.......〉
咲希は一応とモフリンに尋ねてみたが、やはり答えは得られなかった。
咲希自身も期待していなかったようで、すぐにモフリンから視線を外した。
一つ画面を戻し、次に表示させた項目は実績と書かれたものだ。
その項目を見れば、己のやるべき事が分かるのではないかと考えた為だ。
実に冴えていると言ってやりたいところだが、曰く、“実績=クエストだよねー”.......だそうだ。
実のところ、以前にプレイしたゲームで実績というワードが使用されていた為にこの考えに至ったに過ぎなかった。
「んーと.......制作、運営、ボーナス?」
咲希は制作と書かれた項目を選択し、どんどん読み進めた。
直感的に習得した操作は、既に一端のスーピッターだ。
制作の項目の内容をある程度読んだ後、運営、ボーナスの項目にも幾つか目を通した。
「ふんふん.......なるほどー。ダンジョンみたいな感じって事かー。え、ウケるー。何これゲームみたーい」
あらかた理解したところで、スクリーンからモフリンへと視線を移した。
〈ニャー.......〉
段々と小さくなってきた鳴き声が、モフリンの不安を物語っている。
「モフリーン、つまりさー、私にこのスーピットってとこを運営して欲しいって事ー?」
〈ニャー.......ニャー.......〉
重要な事だった為に咲希が長めの間をあけると、モフリンは更なる不安に駆られ、弱々しく“ニャー”と付け足した。
「.......おっけー。ま、良く分かんないけど、とりあえずやってみるよー」
咲希は明るく声を掛けながら、安心しろと言うようにモフリンの頭を撫でた。
こうして、凡猫と凡人の摩訶不思議な生活が始まった。
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