第18話 救ってあげる

 僕が学校へと登校し始めてから二週間ほど経った。相変わらず僕への視線はどこか腫物を扱うような、そんな視線ばかりが注がれる。それと最近では怯えた視線を送られることが多くなった。


 その理由として挙げられるのは、登校初日に貴族達をあんな風にしてしまったことが学校中に広まったこと、更に大きな原因として彼女たちが行った粛清と呼ばれるものが大きな原因と思われる。


 「粛清」


 僕がこの言葉を耳にし始めたのはほんの数日前。実は彼女たちは僕に見えないところで僕の虐めに加担していた人たち、又は未だに僕を虐める対象としてみていたりする貴族達を『粛清』していた。具体的に何をしているのかまでは彼女たちに聞いても「ロア様が学校生活で不自由がないようにしているだけですので」「ロアは何にもしんぱいしなくていいの」「ロア、私に任せて」「お姉ちゃんに任せてね。なぁんにも心配しなくていいから」とこのように言われてしまい教えてもらうことはできなかったが、粛清された者は僕を見ると怯え土下座をして許しを請うようになってしまった。


 .............想像したくはないが彼女たちが登校初日にしたあんなことを裏でしていなければ良いなと願うしかない。そういうことをしないでといったところで彼女達は止まらないだろうからやりすぎないでという他ないのだ。


 どこか疲れる、だが徐々に歪ではあるものの日常を取り戻しつつある今日この頃。


「エリー、入るね?」

「うん、入って」


 今日はエリーからの呼び出しがあったため彼女の研究室へと足を運んでいた。この研究室では彼女たちに嫌われていた間の嫌な思い出も確かにあるがそれ以外にもいい思い出があった。


 奥へと進んでいくと書類の中で彼女は椅子に座ってこちらをじぃっと見つめていた。


「今日はどうしたの?お部屋の掃除をしてほしかったりする?」

「だ、大丈夫。ロアにそんなこと頼めない。魔法で適当に後でやっておくから隣に座って」


 とポンポンと椅子を叩くので素直に従ってエリーの隣に座ると彼女は僕へとぴたりとくっついた。


「それで、エリー。今日はどうしたの?」

「話したいことがあって」

「話したい事?」


 いったい何だろうか?粛清の件ではないだろうし、ほかに何があるだろうか?考えてみたものの思いつかない。だが、この感じだとエリーにとっては大事な話なのだろうということは想像がついた。


「話したい内容っていうのはね.............」

「あ、じゃあちょっと待って。長くなるかもしれないし前みたいに紅茶入れるから」

「え、あ、だ、大丈夫。ロア。私が淹れるから。ロアは動かないで」

「ダメ。前みたいに僕が淹れたいって思ったから。それに体を動かす練習にもなるから。だから、ね?」

「.............でも」

「お願い、エリー」

「....わかった。でも危ないと思ったらすぐに止める。それだけは覚えておいて」

「うん」


 エリーが話しにくそうな顔をしていたのと久しぶりに前のように彼女に紅茶を淹れてあげたかった。それと、この研究室での嫌な思い出を拭い去りたかったこともある。


 前のようにとまではいかないものの体は覚えているもので紅茶を作り終えることができた。運ぶところまでしようかと思ったが、流石に彼女もじっと見ているのは耐えられなかったようでこちらへときて紅茶を運んでしまう。表情変化が乏しいエリーのヒヤヒヤとした表情は新鮮で少しだけほおが緩む。


 二人で席に着き、一息ついたところで話を再開させた。


「それで、なんだけれどね。私が聞きたかったことは、あの事について」

「あの事って?」

「それは.............私たちが、その....ロアに対して、えっと....」

「あぁ、うん。わかった。言わなくてもいいよ」

「…ありがとう。それで、ロアはその期間のことを忘れたいって思う?思い出したくもないって思う?....ごめんなさい。つらいよね。私も、こんな話したくはない」


 悲痛な面持ちでそういうエリー。きっと何かしらの事情があるのだろう。


 あの期間のことを忘れたいと思うか、か。どうなのだろう。彼女たちから与えられた想像を絶するほどの苦痛。治っているはずなのにその傷のことを思い出しただけで心も体も痛む。


 正直忘れたい。


「.............正直に言えば忘れたいよ。あの時、僕は死んでしまいたいって思っていたから」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

「だ、大丈夫だから。今はもうこんな風に元気だからね」

「本当にごめんなさい」

 

 彼女の頭を撫でて、落ち着かせてからもう一度話をしようと「でも」と言いかけたところで、研究室のドアが開かれた。


「ロア君、ここにいるの?」

「うん。ここだよ」

 

 リリアが教室へと入ってきてしまったため、ここで話はいったん終わってしまう。


 そこからはどこから話を聞きつけたのか、ミア、アリアも研究室へときてしまいエリーとの話はまた次の機会となってしまった。




**************


 真夜中の研究室。


 エリーは一人昼間ロアに言われたことを反芻し、熱心に研究をしていた。


 その内容は.............


「私が、ロアを救ってあげる」


 彼女の独り言は闇夜に消えた。


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 お久しぶりです。かにくいです。


 唐突ですが「粛清」の内容が気になる読者様はいらっしゃいますでしょうか?書いたはいいものの出すかどうか迷っています。読まなくても物語には影響はしないので大丈夫です。


 コメントで教えてくださると幸いです。




 

 


 

 




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