きれいな糸

くもまつあめ

きれいな糸

ぼーっと席に座っていると、視線の端に細い細い糸が見えた。

キラキラと透明な糸だ。


ぼーっとしながら

右手で端を掴んでするすると引いてみる。

するすると糸は引っ張られて、引けないところまでくるとピンと張る。

少し力を入れるとプツンと感触が伝わって切れるのがわかった。


くたっとした糸を机にそのままにしてまたぼーっとしていると、またきらきらとした糸が目に入る。

今度は赤い糸。


さっきと同じように引っ張ってやると、プツンと糸は切れてくたっと机に横たわる。


今度は黄色。


緑色。


青色。


おや、今度は珍しい。

パステルピンク。


単純ながら、次々と変わる糸の色を楽しむ。

一つとして同じ色はない色にうっとりしながら、しばらく繰り返して結構な数になった糸の束を机の上に広げる。


改めて並べて数えてみようとすると、

なぜか糸たちは黒くなり、弱々しく机に横たわっている。


「きゃー!」

急に悲鳴が肩越しに聞こえ、ぐっと手を引かれてトイレの手洗い場までずるずると連れてこられた。


「ねぇ!大丈夫??自分が何してるかわかってる?

髪の毛をそんな風に抜いてはだめよ!!

みてごらんなさい!」

優しく強く頭をつかまれ、鏡に左のこめかみ辺りがよく見えるように向きを変えられる。


「ほら、こんなに抜いてしまってるのよ?わかる?」


こめかみの上には、大きな大きな円の抜け毛の後があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

きれいな糸 くもまつあめ @amef13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ