第25話

 あのパーティー会場で無事に婚約破棄を撤回された私は王城へと伺い、朝から殿下の部屋を訪れていた。


「殿下、おはようございます」

「ああ、シャーロット。おはよう」

「殿下、本日はお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「うん、僕で答えられることなら答えるよ」

「ありがとうございます。では、早速質問させていただきたいと思います」

「ああ、よろしく頼むよ」

「殿下は、クリスティーナ様のことがお好きですか?」

「えっ……急にどうしたんだい?」

「いえ、ただ気になったものですから」

「そうだね……僕はクリスティーナが好きだよ」

「そうですか……ちなみにどのようなところが好きなのですか?」

「彼女は誰に対しても優しいし、人を思いやる気持ちを持っているところとかが好きだね」

「なるほど……他にはありますでしょうか?」

「うーん、あまり思いつかないな。でも、どうしてそんなことを訊くんだ?」

「いえ、ちょっとした興味ですよ」

「そうかい? それじゃあ、次は僕の番だね」

「えっ、私の話を聞くのが殿下のお好きなことなのですか?」

「もちろん違うよ。今度は僕の話を聞かせるよ」

「そ、そうですか。それならばお願いします」

「ああ、分かったよ。それじゃあ話すけど、君は最近よく笑うようになったね」

「えっ……そうでしょうか? 自分ではよく分かりませんね」

「自覚がないかもしれないけれど、そうなんだよ。最近の君の笑顔はとても魅力的だ」

「へっ……?」

「だから、その……つまり、僕はシャーロットのことがとても大好きだってことさ」

「えっと……? それは一体どういう意味なんでしょう?」

「えっ、どういう意味って……そのままの意味だけど?」

「それは、恋愛としてということでしょうか?」

「そう、だね。そういうことになるのかな?」

「なるほど……そうなんですね」

「うん、そうなんだけど……どうかしたの?」

「いえ、何でもありませんよ。それよりも殿下は私にお伝えしなければならないことがあったのではないのですか?」

「えっ? 何かあったかな……?」

「忘れてしまったのならいいです。それでは失礼いたしました」

「あっ、シャーロット! 待ってくれよ!」


 私は早足でその場を後にすると、廊下の角を曲がったところでしゃがみ込んだ。


(ど、どうしよう! 殿下が私の事を好きだなんて。告白されちゃった!)


 顔が熱い。鏡を見たら真っ赤になっているだろう。

 こんな姿を誰にも見られたくないのでしばらくここでじっとしていることにする。


(まさか、殿下が私のことをそんな風に思っていたなんて知らなかったわ)


 これは予想外の出来事だった。まさか殿下が私を好いているとは思わなかったのだ。

 婚約破棄されたのだからもう嫌っていると思っていたのに。撤回されたのも家の体面があってしただけで。


(というか、私のどこが良いのかしら?)


 私は今まで自分が可愛いと思ったことはない。むしろ、可愛げのない性格をしていると自覚しているくらいなのだ。


(まあ、殿下が私の事を好きと言ってくれたのだからそれで良いか)


 とりあえず、これからは素直に自分の気持ちを伝えることにしようと決めた。




 改めて中庭で彼と会った時に伝える事にした。やると決めたなら行動するのはこちらからだ。もう他人に任せたりはしない。

 私は前を見てはっきりと口を開いて伝える。


「殿下、私はあなたの事が好きです」

「シャーロット、僕も君の事が大好きだ!」


 私たちは人目を気にせず抱きしめ合った。


「殿下、お慕いしております」

「シャーロット、愛してるよ」

「私も殿下のことを心からお慕いしています」

「シャーロット、嬉しいよ!」

「殿下! 私も殿下の事を心からお慕いし申し上げております!」


 私達はお互いに愛の言葉を囁き続けた。


「殿下、私は殿下の事を心からお慕い申し上げています!」

「シャーロット、僕も同じ気持ちだよ!」


 私たち二人はいつまでも抱き合っていた。


「殿下、殿下!」

「シャーロット!」

「殿下!」

「シャーロット!」


 お互いの名前を何度も呼びながら。




 その様子をメイドの仕事をしていたアリシアは偶然見ていた。


「あれ、殿下とシャーロットさんよね?」


 アリシアは不思議そうに首を傾げた。なぜなら、二人がいつもと様子が違っていたからだ。


「殿下、殿下! 私は殿下の事を心からお慕い申しております!」

「ああ、僕もだよ。シャーロットの事を愛してるよ」

「……」


「ねえ? あれはなんだい?」


 見ていると背後から急に声をかけられてアリシアはびっくりした。振り返ると同じ年頃の女の子だったので安心して答えた。

 よく見ると前のパーティーでドレスを貸してあげた子だった。

 貴族の子だろうか。同じ年ぐらいなのに堂々としていてアリシアは羨ましいと思ってしまう。


「愛が通じ合ったんだと思うよ」

「へえ、あれが愛かあ」

「うん、きっとそうだよ」

「なるほど……あの二人ってあんな感じなんだ」

「仲良しだね」


 それからその子と二人でこっそり殿下とシャーロットの様子を伺った。


「殿下、殿下!」

「シャーロット、シャーロット!」

「殿下、殿下!」

「シャーロット、シャーロット!」

「殿下!」

「シャーロット!」

「殿下!!」

「シャーロット!!!」

「殿下ぁあああああああ!!」

「シャーロットぁああああ!!!」


 その後も、殿下とシャーロットの呼び合いがしばらく続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る