第2章

第19話

 あれから数日が経過したある日のこと、私はある問題に直面していた。それは、お金が無いということである。このままでは飢え死にしてしまうと思い悩んでいたところ、ふと閃いたことがあったので試してみることに決めた。

 それは、自分の持っている物を売ってお金を作るという方法である。早速行動に移すことにした私は近くの市場までやって来ると物を売り始めたのだが、なかなか買い取ってくれる店が見つからず途方に暮れていると、突然声をかけられたので振り向くとそこには見覚えのある顔があった。

 それは以前冒険者ギルドで会った女性だった。彼女は笑顔を浮かべると手招きするのでついて行ってみると人気のない場所へ連れて行かれた。そこで話を聞くことになったのだが、その内容は私の想像を超えるものだった。なんと、彼女もまた貴族でありながら逃亡してきたらしいのだ。

 それを聞いて驚きのあまり固まってしまった私だったが、冷静に考えてみると他にも同じような境遇の人間がいるかもしれないという考えに至ったことで少しだけ気が楽になったような気がした。そんなことを考えていると彼女が話しかけてきた。


「ねえ、あなたさえ良ければうちで働かない? ちょうど人手が足りなかったのよねぇ……」


 願ってもない申し出ではあったが本当にいいのだろうかという気持ちもあったため迷っていると、それを見透かしたように彼女が言った。


「大丈夫よ、変なことはさせないし給料も弾むわよ! それに住む場所もあるわ! お互いに似た境遇の者同士助け合いましょう!」


 それを聞いた途端、私の心は大きく揺れた。冒険者の仕事は私には難しいし、このまま無一文の状態が続くよりはマシだと思った私は彼女の提案を受け入れることに決めたのだった――。



******

「シャーロットちゃん、これ三番テーブルにお願いね」


 店長に頼まれて料理を運んでいくと、お客さん達から歓声が上がったので嬉しく思いながらテーブルを後にしたところで別のテーブルから注文が入ったのでそちらに向かうことにした。それからしばらくしてようやく休憩時間に入ったので裏方に戻ると椅子に座って一息ついていると、そこへ店長がやってきたので挨拶をした。


「お疲れ様です、店長」


 私が声をかけると彼女はニッコリと笑って答えた。


「お疲れ様、今日もよく働いてくれてるわね。ありがとう助かるわぁ〜」

「いえ、これくらい当然ですから」


 謙遜気味に答えると、彼女は首を横に振った後で言った。


「そんなことないわよ、あなたはとても優秀よ! 品があって気立てもいいしうちの店で雇って良かったと思ってるくらいだもの」


 そう言われたことで照れ臭くなった私は頬を赤く染めながら俯いた後で話題を変えるために質問することにした。


「あの、一つお聞きしたいことがあるんですけどいいですか?」


 そう尋ねると彼女は不思議そうな顔をして首を傾げた後に頷いたので質問を続けることにした。


「えっとですね、最近街で噂になっていることなんですけど、何でも侯爵令嬢のシャーロット様が行方不明になったとか何とか……それって本当なんですか?」


 そう尋ねると彼女は難しい顔をして考え込んだ後で答えてくれた。

 彼女は私の名前を知っているがよくあるありふれた名前だし、私がまさかその侯爵令嬢本人とまでは思っていないようだった。


「うーん、確かにそんな話は聞いたことはあるけどあくまで噂だからね……本当のところは私にも分からないわ」


 それを聞いてガッカリした私は肩を落としたが、気を取り直して次の質問をすることにした。


「そうですか……じゃあ、もう一つだけ教えてください。シャーロット様は今どこにいると思いますか?」


 私が尋ねると彼女は顎に手を当ててからしばらく考えた後で口を開いた。


「そうね……国外に逃げたんじゃないかって言われてるけど実際のところはどうか分からないのよね……まあ、普通に考えれば他国に逃げてる可能性が高いんじゃないかしら。少なくともこんな国内の酒場にはいないでしょうね」


 その話を聞いて納得すると同時に、もし本当に隣国へ逃亡する事になったらとしたら今後家族と会うことは叶わないだろうと思って落胆する気持ちを抑えきれなかった。


(みんな……どうかご無事でいてください……)


 心の中で祈ることしかできなかった私は、せめてみんなの無事を祈り続けることしかできない自分を情けなく思うのだった――。

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