第18話
まずは拠点を確保する必要があると考えた私は宿を探すことにすることに決めたが、その前にやるべきことがあったのでそちらを優先することにした。それはお金を手に入れることである。
今着ている服以外何も持っていないのでこのままでは生活できないと判断したのだ。そこで、私は街の中心部に向かうことにした。
大通り沿いに歩いて行くと一際目立つ建物が見えてきたので近づいてみると、そこは冒険者ギルドと呼ばれる施設のようだった。中に入ると多くの人達がいたが、皆武装しており強面の人物が多かったので少し怖かったが勇気を出して受付らしき場所まで歩いていった。すると、そこにいた若い女性が声をかけてきた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。おや、あなたは侯爵令嬢のシャーロット様じゃありませんか。本日はどのようなご用件でしょうか?」
知られている事にびっくりしながらも緊張しながら答えることにした。
「えっと、冒険者になりたいんですけど……」
私がそう言うと女性は驚いたような表情を見せた後で言った。
「ええ!? 侯爵令嬢様が冒険者!? 大丈夫なんですか? 失礼ですが、ご両親はご存じなんですか? 反対されなかったんですか!?」
矢継ぎ早に質問されて戸惑ってしまったが何とか答えることができた。
「いえ、その……家を出る時に黙って出てきてしまって……だから、内緒です」
それを聞いてますます心配そうな顔になった彼女だったが、最終的には折れてくれたようで手続きを進めてくれることになった。
「分かりました、ではこちらの用紙に必要な項目を書いてください」
渡された書類に目を通してみると名前や年齢などを書く欄があったので順番に埋めていくことにした。
全て書き終えたところで提出すると確認してもらうことになったので待っている間にギルドの中を見回してみたのだが、意外と女性の姿も多かったことに驚かされた。
というのも、この世界では女性の社会的地位が低く貴族などのごく一部の例外を除いてまともな職に就くことができないため、結婚相手を見つけることができずに生涯独身で過ごす者が多いと言われているからだ。
それなのに、これだけ多くの女性が働いているということはよほど仕事が充実しているのだろうかと考えているうちに順番が来たようなのでカウンターへと向かった。
そして、先ほど対応してくれた女性に用紙を渡すと内容を確認した後で頷くと一枚のカードを差し出してきた。そこにはこう書かれていた。
『シャーロット・ルクレチア
ランク:F
所属:なし』
それを見て首を傾げる私に説明してくれた。
「これがあなたの身分証明書になります。依頼を受けたり報酬を受け取ったりする際には必要になるので必ず携帯しておいてくださいね」
なるほどと思いながら頷いていると、続けてこんなことを言われた。
「それと、申し訳ありませんが登録料として銀貨5枚を頂くことになっているんですがお持ちですか?」
そう言われて財布を確認すると中に入っていたのはわずか3枚の銅貨だけだった。これではどうしようもないと思った私は正直に打ち明けることにした。
「すみません……実はあまり手持ちがないのですがどうすればよいのでしょうか……?」
恐る恐る尋ねると彼女は笑顔で応じてくれた。
「大丈夫ですよ、今回だけ特別に免除してあげますので次回からはきちんと支払ってくださいね」
「ありがとうございます!」
お礼を言って頭を下げると、彼女は言った。
「それでは早速お仕事を受けてみますか?」
「はい、お願いします」
元気よく返事をすると、手渡された依頼書の中から手頃なものを選ぶことにしたのだが、どれもこれも簡単なものばかりだったので悩んだ末に薬草採取の仕事を受けることに決めた私は早速出発することにした。
目的地は街の外に広がる森の中にあるらしいのでそこまで向かうことにしたのだが、道中で魔物に襲われることがあったらどうしようかと不安に思っていたら案の定現れたので思わず身構えてしまったのだが、よく見るとそこにいたのは可愛らしいスライムだった。
(あれなら倒せるかも……!)
そう思って剣を構えると勢いよく斬りかかったが、あっさりと躱されてしまった上に体当たりを仕掛けられてしまったので吹き飛ばされてしまった私は地面に叩きつけられて悶絶してしまった。
そこへ追撃とばかりに飛びかかってきたスライムに対して為す術もなくやられるかと思ったその時、突然目の前に人影が現れて叫んだ。
「危ないっ!!」
次の瞬間、目の前で爆発が起こったかと思うとスライムの姿は跡形も無く消え去っていた。何が起こったのか理解できずに呆然としていると、背後から声をかけられたので振り返るとそこには若い男性が立っていた。彼は微笑みながら話しかけてくると言った。
「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
「あ、あの、助けてくださってありがとうございました」
慌ててお礼を言うと、男性は首を横に振った後で言った。
「いえいえ、気にしないでください。それよりもどうしてこんな所に一人でいるのですか? お付きの人は一緒じゃないんですか?」
その言葉を聞いてギクリとした私は冷や汗を流しながら言い訳を考えることにした。
(どうしよう……何て言えばいいんだろう……?)
必死に考えているうちに沈黙が流れる中、やがて男性が口を開いた。
「……もしかして家出でもしてきたんですか?」
図星を突かれて動揺していると、それを見た彼が笑い出したので恥ずかしくなって俯いていると、不意に手を握られたので顔を上げるとすぐ近くに彼の顔があった。突然のことに驚いていると、彼は微笑んで言った。
「僕と一緒に来ませんか? あなたに危害を加えるつもりはありませんから安心してください」
そう言って優しく微笑む彼に見惚れていると、気づけば首を縦に振っていた。それを確認した後で嬉しそうに笑う彼を見ていると私も自然と笑顔になっていた。その後で名前を聞かれたので素直に答えることにした。
「私の名前はシャーロットと言います」
そう名乗ると彼も名乗ってくれた。
「僕はアルカードといいます。よろしくお願いしますね、シャーロットさん」
こうして出会った私達は一緒に旅をすることになったのだが、この時の私には知る由もなかった。この出会いが私の運命を大きく変えることになるということを――。
こうして婚約破棄された私の新たな生活の1ページが始まる事になるのだった。
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