第15話
廊下を歩いている間、誰も一言も喋らなかったことに違和感を覚えつつもついて行くと、やがて大広間に到着した。そこには大勢の人達が集まっており、何やら賑わっていた様子だった。その光景を見て驚いていると、不意に声をかけられた。
「やあシャ―ロット、待っていたよ」
振り返るとそこには笑顔のウィルが立っていた。私は言葉を失ってしまう。本当に生きて帰っていたのだということに感動しつつも戸惑っていると、彼は私の手を取ったかと思うとそのまま広間の中央へと歩いて行き、そこで立ち止まると周囲を見渡しながら言った。
「みんな聞いてくれ! 今日は待ちに待った日だ!」
彼の言葉を聞いた人々は歓声を上げると同時に拍手を送った。一体何が始まるのかとドキドキしていると、彼がこちらを見て言った。
「さぁシャ―ロット、皆に挨拶をしようじゃないか」
そう言われたものの何を言えばいいのかわからずオロオロとしていると、彼に促されるようにして一歩前へ出た。その瞬間、周囲からの視線を感じて緊張してしまい体が震えてしまう。そんな私の姿を見た彼らは口々に感想を言い始めた。
「可愛いなぁ……」
「ああ、こんな子が嫁に来てくれたら最高なんだけどな」
「おい、抜け駆けするなよ?」
そんな会話を聞きながら顔を赤くして俯いていると、不意に誰かに肩を掴まれた。驚いて顔を上げると、目の前にいたのはウィルだった。
彼の視線は私の胸元に集中しているようだった。その意味を理解した瞬間、顔が熱くなるのを感じながら慌てて手で隠すようにして隠したのだが遅かったようだ。
その様子を見ていた周囲の人々から笑い声が上がる中、私は恥ずかしさのあまり泣き出してしまいそうになったが必死に堪えた。その時、不意に誰かが言った。
「おや? あそこにいるのは誰だい?」
その声をきっかけに全員の視線がそこに集中した。あまりの迫力に気圧されてしまいそうになるが、何とか耐えていると一人の男性が近づいてきた。その人は二十代後半くらいの青年で整った顔立ちをしていた。黒い髪をオールバックにした髪型をしており、鋭い目つきをしているせいか威圧感のようなものを感じた私は思わず後退りしそうになるのを我慢しながら彼を見つめていた。すると、突然話しかけられた。
「君が噂のお嬢さんかい?」
その言葉にどう答えたものか迷ったものの小さく頷くと、男性は笑みを浮かべながら言った。
「そうか……初めまして、僕はライル・アヴィスと言うんだ。よろしくね」
そう言って手を差し出してきたので恐る恐る握り返すと、優しく握ってくれた後に放してくれたのでホッとした。しかし、すぐに別の人に話しかけられてそれどころではなくなってしまった。その後も次々と話しかけてくる人々に戸惑いながらも対応していくうちに少しずつ慣れてきたのか次第に余裕が出てきたような気がした時だった。
ふと視線を感じたような気がして振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。そこにいたのは私の専属メイドであるエマだったのだが、なぜか驚いたような表情をしてこちらを見つめていたのだ。どうしたのだろうと思っていると、次の瞬間には普段の表情に戻っていたので気のせいだったのかと思い再び前を向くのだった――。
それからしばらくの間質問攻めにあったのだが、ようやく解放された頃にはヘトヘトになっていた。それでも休む暇もなく次の人がやって来たことで更に疲れてしまったが、ここで倒れるわけにはいかないと思った私は気合を入れ直して耐えることにした。
その後も次から次へと訪れる人たちの対応に追われていたが、途中で休憩を挟むことが出来たおかげでどうにか最後までやりきることができた。その様子を見守っていた姉達は感心した様子で話しかけてきた。
「お疲れ様シャ―ロット、大変だったでしょう?」
その問いかけに苦笑しながら答えると、姉は労ってくれた後で頭を撫でてくれた。それが心地よくて目を細めると、今度は母がやってきたので同じように撫でてくれる。二人に甘やかされているうちにだんだんと気分が落ち着いてきたところで我に返った私は慌てて離れると言った。
「ごめんなさい……こんなことで取り乱してしまって……」
申し訳なさから俯く私に母は微笑みかけると優しい声音で言った。
「いいのよ、気にしないでちょうだい」
それを聞いただけで泣きそうになってしまったが何とか堪えることに成功した私は顔を上げて笑顔を見せると言った。
「ありがとう母さん、大好き!!」
すると、母は嬉しそうな表情を浮かべると私を抱きしめた後で頬擦りしてきた。くすぐったくて身を捩っていると、不意に後ろから声をかけられたので振り向くとそこにはウィルの姿があった。
彼は私の姿を見るなり駆け寄ってくると、いきなり抱きしめてきたのだ。突然のことに驚きながらも抵抗しようとしたのだが、耳元で囁かれた言葉を聞いた途端力が抜けてしまった。
「綺麗だよ、シャ―ロット……」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になったような感覚に襲われた後、何も考えられなくなった私はただ呆然と立ち尽くしていた。
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