第7話

 それから数日後のこと、私は新たな主となった男性の屋敷に連れて来られていた。理由はただ一つ、彼が姉の婚約者だったからだ。なんでも以前からずっと狙っていたらしいのだが、なかなか機会に恵まれなかったらしい。そこへ現れたのが私だったというわけだ。


 最初は戸惑ったものの、今となってはこの状況を受け入れつつあった。というのも、彼との生活がとても充実しているからだ。毎日美味しい食事を用意してくれて身の回りの世話までしてくれるだけでなく、夜の相手もしてくれているので不満などあるはずもなかった。さらに屋敷には使用人として大勢の女性たちがいて皆親切にしてくれる上に可愛がってくれた。おかげで寂しい思いをせずに済んでいるし、何不自由ない生活を送っていると思う。

 唯一困っていることがあるとすれば、夜になると彼が求めてくる頻度が多くなったことだろうか?  お陰で寝不足気味になっているため少し辛い部分もあるけれど、それ以外は特に問題ないので気にしていなかった。




 そんなある日のことだった。いつものように自室で休んでいると扉をノックする音が聞こえてきたので返事をすると、部屋に入ってきたのは執事長を務める初老の男性だった。彼は私に一通の手紙を差し出してきた。不思議に思いながら受け取ると差出人の名前が目に入った瞬間、心臓が止まりそうになった。なんとそれは殿下からのものだったからだ。私との婚約を一方的に破棄しておきながら一体どういうことだろうと思いながら中身を読んでみると、そこには信じられないことが書かれていた。その内容とはこうである――。


『突然のお手紙失礼いたします。この度、私たちは結婚することとなりましたことをご報告させて頂きます。本来であれば直接お会いしてお伝えしたかったのですが、事情によりそれが叶わずこのような形になってしまい大変申し訳ありません。ですが、これも全て貴女の為を思ってのことですのでどうかお許しください。

 さて、本題に入りますが、単刀直入に申し上げますと貴女にはこの国を出ていって頂きたいのです。もちろんタダでとは言いません。それなりの支度金を用意しますので是非ともお願い致します』


 そこまで読んで思わず手紙を放り投げたくなったが何とか堪えることができた。何故ならまだ続きがあるからだ。私は深呼吸してから読み進めることにしたのだが、またしても驚かされることになってしまった。


『それから最後に一つだけ忠告しておきますが、今後は二度とあの男と関わらないようにしてください。もし約束を破った場合はそれ相応の報いを受けて頂くことになりますのでくれぐれも注意するようにお願いします。では、良い返事を期待しております。敬具』


 あの男とはウィルの事だろうか。最後まで読んだ後で考えるよりも先に体が動いていた。急いで部屋を出て行こうとしたのだが、何故か扉の前に立っていた女性に行く手を阻まれてしまった。彼女は無言のままこちらを睨みつけていたが、やがて諦めたのか道を開けてくれたのでそのまま通り過ぎた後、勢いよく扉を閉めたのだった――。

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