06 作戦実行






「ダイヤモンドって、炭素Cなんだって!

 教科書で見たことある気がしてたんだ」


 まどかは、教科書のコラムのページを理玖りくに見せた。


同素体どうそたいか……!!」

「それ!」


 同素体どうそたいとは、同じ元素のみでつくられる単体だけど、性質が異なるもの。


 炭素Cの同素体として、黒鉛こくえんやダイヤモンド等が紹介されている。

 それらはいずれも炭素Cのみで構成されているけど、原子げんし同士の結合のしかたや結晶の形が異なるのだ。


 ただ、理玖はそれよりも気になることがあった。


「それ、本当にダイヤモンドだったの……?」

「だからそう言ったじゃん」


 しまった、と思った。

 円のピアスをニセモノだなんて決めつけて、あんな言い方をするなんて。


「ニセモノなんて言って、ごめん」

「気にすんなよ。ほら、使ってくれ」


 理玖があやまっても、円はまったく気にしていない様子だった。

 耳からピアスを外し、理玖にさしだす。


「せっかくもらったものなのに、いいのか?」

「いい、いい。

 そもそも俺がお前のこと巻き込んじゃったんだし」


 円は円で、理玖をここに連れてきたことに責任を感じていたのだ。


 理玖はうなずきながら、円のピアスを受け取った。






 


「できた! 〚C炭素〛バッジだ」

「なくなると困るから、量産しとこうぜ」


 円は【複製】のステッキを使い、〚C炭素〛バッジを20個ほど増やした。


「実験だと、〔CuO酸化銅〕に炭素Cを混ぜて燃やすと、炭素C酸素Oをうばってただの〔Cu〕になる」

「燃やすの!? あいつ、熱くて死んじゃうんじゃないか……!?」


 円が心配して言うと、タングステンとネオンはそろって首を横に振った。


元素獣エレメンタムは、痛みや熱さを感じて苦しむことはない」

「そもそも元素げんそだし、燃やすも冷やすも好きにしてダイジョーブ!」


 ネオンはグッと親指をたてた。


 4人は作戦をたてた。

 いよいよ、29番目の元素獣エレメンタム・《キュプラム》の救出作戦、スタートだ。


「いっくぜ~っ!!」

「ヨッシャー!!」

「おいマドカ、落ちるなよ」


 作戦は、こうだ。


⑴ ネオンが飛んで《キュプラム》に近づき、〚C炭素〛バッジをくっつける。

⑵ 円がタングステンに乗って近づき、【熱分解】のステッキをあてる。

⑶ 〚C炭素〛バッジが、《キュプラム》に結合している酸素化合かごうし、《キュプラム》は単体となる。


 理玖は離れたところで、作戦の動向を見守ることとなった。


 まずはネオンが羽をはばたかせ、《キュプラム》に近付き〚C炭素〛バッジを投げた。


「〚C炭素〛、くっついたよ!!」

「オッケー! タングステン、GOゴー!!」

「おうっ」


 タングステンは洞窟の壁をけって駆け上がり、円は大きく身体を傾けながら《キュプラム》に向かって腕をのばす。


(うまくいけば、〚C炭素〛と酸素がくっついて……)


 理玖は考えながら、あれ? と思う。


(〚C炭素〛と酸素がくっついて、発生する気体は……)


 ヤバイ、とすぐに気が付いた。


「円!! 作戦中止だ!!」

「え、なっ……!!」

「杖をあてるな!! 毒が発生するかもしれない!!」

「えぇっ!? ……って、うわぁ!!」


 理玖の言葉に、円とタングステンは動きをとめた。


 しかし同じタイミングで、《キュプラム》がその脚をふりおろす。

 《キュプラム》の太く大きな脚が、円の身体に直撃した。


 タングステンから振り落とされる、と思ったが、ネオンが円の身体をキャッチした。


「あ……っぶねーーー……!!!」

「いったん洞窟を出るぞ!」


 タングステンの言葉で、4人は《キュプラム》から逃げるように再び洞窟を出た。


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