04 単体と化合物






「タングステン~~!! 聞いてたなら早く、声かけてよぉ!」

「すまん。

 説明書を読まないタイプの人間かもしれないと思って……」


 ネオンは、オオカミの鼻先に抱きついた。


原子げんし番号 74の《タングステン》!

 顔はコワイけどやさしいよ〜っ」


 ネオンはそう言ったが、理玖りくまどかはタングステンの迫力に圧倒されていた。


 どうやら、タングステンも元素獣エレメンタムらしい。

 理玖も円も、《タングステン》なんていう元素の名前は知らなかったけど。






 タングステンは、カード化してファイルにおさまっていたようだ。

 いったんカード化すれば、みずからの意思で実体化じったいかしたりカード化したりできるらしい。


 タングステンの言う通り、周期表盤ペリオディック・ボードの裏面には説明書がはさまっていた。

 なんで気付かなかったんだ、と理玖はがっくりとうなだれた。


 ともかく理玖は、説明書を読んでみることにした。

 説明書も、ゲームの『ブレイブ・エレメンター』の遊び方説明書にそっくりだった。


「なるほど……バッジの数を増やすには、ステッキを使えばいいのか」


 理玖は、【複製】のステッキを取り出した。


 そして説明書のとおりに、〚H水素〛バッジをコンッとたたく。

 するとポンッと音をたて、〚H水素〛バッジが2つにわかれた。


「すげーっ!!」

「それから、〚H水素〛バッジを2つ、〚O酸素〛バッジを1つつなげて……」


 3つのバッジをくっつけて並べ、こんどは【化合かごう】のステッキでバッジをたたくと。


 バッジがパンッとはじけたように消えたかと思うと、なにもない地面からジャバジャバと水がき出てきた。


「ま、魔法じゃねえか!!」

「科学だよ。……いや、魔法か?」

「どっちでもいいよ! スゲー!!」


 10秒ほどすると、水のいきおいはだんだん弱まって止まった。


「あれ、バッジもなくなっちゃった」

「使うとなくなるんだな。

 えーと、バッジを新しく作るには……

 『【バッジ化】のステッキを使うことで、単体たんたいをバッジに変えることができる』だって」


 理玖が言うと、円は首をかしげる。


「単体って、なんだ?」

「さっきの〔H₂O〕は『化合物かごうぶつ』だったろ。

 化合物とはちがって、1種類の原子からつくられる物質が『単体たんたい』」


 円に説明しながら、理玖は【バッジ化】のステッキを手に取った。


「〚O酸素〛をバッジ化!!」


 そう言いながら空中でステッキを振ると、〚O酸素〛バッジがコロンと地面にころがった。


「うおー! すげぇ!!」

「どういうこと? どうやったの!?」


 円とネオンは、一斉に感激の声をあげる。


「大気中には酸素Oがあるんだよ。あとは……」


 理玖は【バッジ化】のステッキを振りながら、〚N窒素〛、〚Arアルゴン〛をバッジ化していく。


 大気の組成そせいは、中学で習ったばかりだった。


 バッジがコロンコロンと転がるたびに、3人は大きな歓声をあげた。


「いやはや、予想以上だな……!!」

「マドカ、本当に救世主を連れてきてくれたのね!」


 タングステンとネオンはおどろきの声をあげる。


(これくらい中学生ならふつうだけど……)


 そう思いながらも、なぜか円がほこらしげだったので、理玖はなにも言わなかった。





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