もしも、異世界に「武器屋」がなかったら?

ちびまるフォイ

冒険者というよく訓練された家畜

「冒険者ギルドへようこそ!

 ここでは様々な依頼を受けることができます!」


「よ、よろしくお願いします」


「おや? あなたはまだ初めてですね。

 それに装備もない。こちらをどうぞ。

 初めての冒険者さんに初回サービスで渡してます」


冒険者はギルド受付からいくらかのお金をもらった。


「そちらで装備を整えてください」


「ありがとうございます! 武器屋に行ってきます!」



「え? そんなものないですよ……?」


キョトンとした受付の顔を振り返ることなく、

冒険者は意気揚々と街の商店街通りに向かった。


「いらっしゃい、いらっしゃい! 新鮮な魚だよ!」

「こっちには薬草を揃えてる! 買った買った!」

「冒険の疲れはぜひうちの宿屋で!」


威勢のいい声はするが武器屋は見つからない。


「あの、武器屋はどこですか?

 武器と防具を買いたいんですが」


「はあ? 武器屋? そんなものないよ」


「えっ。そんなはずないですよ。

 街にくるとき、鎧を着た冒険者とすれ違いました!」


「……ああ、それがほしいのかい。

 だったらギルドの裏手に回るといい」


「裏手……?」


冒険者は来た道を戻り、ギルドの裏へと回った。

近づくにつれ獣の唸り声のような、断末魔のような声も聞こえてくる。


「ア゛ア゛ア゛!!!」

「クソがぁぁぁぁ!!!」

「もうやめてくれぇぇぇーー!!」


まだ武器も防具もない冒険者がモンスターに鉢合わせしたら……。

びくびくしながら裏手に回ると、そこには1台の機械の前にたくさんの冒険者がひざまづいていた。


機械に手をのばし、とってを回すとカプセルに入った武器や防具が出てきた。

冒険者たちはカプセルを開けて中身を確認し一喜一憂する。


まるで何かに取り憑かれたようにその行為を繰り返していた。


「あ、あの……なにをしているんですか」


「なにって。見てわかるだろ。装備ガチャだよ」


「ガチャ……?」


「金を入れて装備をゲットするのさ」


「なんでこんなことを? 普通に買えばいいじゃないですか」


「ここでしか装備手に入らないんだよ」


「ええ……!?」


いつまでも丸腰でいるわけにもいかず、

冒険者はギルドから支給されたガチャ1回ぶんのお金を入れてガチャを回した。


出てきたカプセルを開けると、

中には金色のアーマーが入っていた。


「すっげえ!! ゴールド・アルティメット・アーマーだ!!」


周りの爆死勢が歓声をあげる。

どうやらすごい装備らしい。


「よかったなぁ、新入り!」


「いやいきなりこんな強い装備もらっても……」


冒険して、お金をコツコツためて、ついに手が届く。

そんな達成感や冒険を期待してきたのに、秒で努力工程をすっとばしてしまった。


嬉しいは嬉しいが、達成感やワクワクはない。


ギルドに戻ると受付がにこやかに迎えてくれた。


「おかえりなさい。あ、いい装備あたったんですね。おめでとうございます」


「ありがとうございます……。あのガチャはギルドが置いたんですか?」


「ええ。冒険に出ても死んじゃう冒険者が多かったので。

 ギルドの横に装備が獲得できるようにしたんです」


「だったら普通に武器屋を併設すればいいじゃないですか。

 なんでガチャなんかにしたんです?」


「チャレンジ回数がぜんぜん違うんですよ」


「……はい?」


ギルド受付はどこからか黒板を引っ張り出した。


「武器屋で強い武器を売ったとします。

 それを買うためにはあと何回クエストが必要か逆算できますよね?」


「え、ええ……」


「でも、同じ武器をガチャで出るとしたら

 それを手に入れるためには何回クエストが必要ですか?」


「そんなことわからないですよ。

 だってガチャは確率。いつ出るかわからない」


「そこがいいんです。

 ゴールが見えないから、冒険者はずっと頑張ってくれる。

 いい装備を手に入れて満足されては困るんです」


「どのみち、ガチャでいい装備出たら結果は同じじゃないですか!」


「いいえ、だからガチャがいいんです」


「なんで……!」


「ガチャは中身がわかりませんよね?

 今装備しているよりもいい装備が手に入るかもしれない。

 

 そんな期待感があるから人は装備ガチャから離れられない。

 そして、半永久的にクエストを受け続けてくれるんです」


「そんな……そんなことって……」


「悪いことじゃないです。他の冒険者の顔を見てください。

 みんなガチャをモチベーションに冒険しているでしょう?

 お互いにいい関係なんですよ、これは」


ギルドの受付には大事な部分が抜けていた。

冒険をしていれば命を落とすという点。


必死にお金をためたのに弱い装備しか引けず、

軍資金がなくなった冒険者は貧弱装備のままクエストを受けるしか無い。


そのまま命を失ったら元も子もない。


「やっぱりこんなの間違ってる……! 俺が変えなくちゃ!」


冒険者はまた装備ガチャのもとへやってきた。

シンプルにガチャを破壊しようと思ったが、できなかった。


ガチャの爆死で八つ当たりする冒険者が後をたたないのか、

非常に堅牢な作りになっていて傷ひとつつけられない。


ガチャ機周辺にはハズレの装備や、

職種違いの武器が転がっていてさながら不法投棄の現場のよう。


それを見て冒険者はひらめいた。


「そうだ。これを使えばいいじゃないか!」


冒険者は捨てられたハズレ装備を必死に集めだした。


ハズレ装備をきれいに並べると、

なんとガチャ機の横でフリーマーケットを始めた。


「あはは。なにやってんだあいつ。あんなの誰も買うわけ無いじゃん」


上級の冒険者はゴミ装備を並べたフリーマーケットを見て笑った。

けれど予想に反してフリーマーケットは意外なにぎわいをみせた。


「ヒーラー用の靴が欲しくてずっとガチャしてたんだ。

 ピンポイントで手に入るのは助かる!」


「ガチャを引いて失敗するくらいなら、

 弱くても必ず欲しいものが手に入るほうがいい!」


「ガチャ引いてお金ないんだけど……。

 この装備とそっちの装備を交換してもらえるか?」


「もちろん、いいですよ!」


冒険者のマーケットの品揃えはどんどん充実していった。


お金のない冒険者や、初心者はもちろん。

ミスマッチした装備の物々交換でどんどん品数が増えていく。


たまったお金でガチャを回し、またその装備を並べていく。

いつしか冒険者はわらしべ長者のように大成功していった。



その後、ほどなくして装備ガチャはつぶれてしまった。


フリーマーケットの存在で、

誰もがガチャを引いて失敗する恐怖を意識してしまった。


冒険者はギルドの受付に戻っていった。


「冒険者ギルドにようこそ。

 フリーマーケット、大成功みたいですね」


「はい。装備にギャンブル要素は不要ですから。

 ただモチベーションを失わせるかもしれないですが……」


「いえいえ、そんなことはないですよ」


「そうですか? それならいいんですが」


「それで今日はどうしますか? クエストを受けますか?」


「はい。やっと装備も整ったんでクエストを受けます」


「わかりました。お待ち下さい」


ギルドの受付は四角い箱を取り出した。

中央には腕を入れる穴が空いてある。


「この中に手を入れて紙を引いてください」


「……?」


冒険者は紙を引き抜いた。

ギルドの受付は番号を確認した。


「100番ですね! SSランククエスト受注、ありがとうございます!」


「え、えええ!? 自分でクエスト指定できないんですか!?」


冒険者の驚きの顔にギルドの受付はにこやかに答えた。



「だって自分で選ばせたら、誰も貧乏くじひかないじゃないですか♪」



その後、このギルドが世界で最も死人を出してることを知った。

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