第8話 まりさんの位置情報とぼく
僕とまりさんは大学に着いた。
それぞれが講義を受けてお昼も一緒に食べる。
今日からまりさんとずっと一緒だ。
「おい、あいつ星野まりと一緒だぞ。
彼氏か?」
「いやいや、あんな芋みたいなやつが彼氏なわけないだろ」
「そりゃそうだな。やっぱ実物はかわいいなー」
近くで昼食を食べている男の会話が耳に聞こえてくる。
それだけではない。アイドル星野まりへの視線がすごい。盗撮もバンバンされてる。
そしてその巻き添えをくらうのが僕だ。
「なんだあいつ」
「まりちゃんに近づくなよ、クズが」
「まりちゃんの近くで息吸うな」
散々な言葉が僕の耳に浴びせられる。
「まりさん、僕がいるとまりさんの邪魔になりませんか?」
「あんなの気にしちゃダメ。相手にした瞬間に次から次へと図に乗るから」
まりさんは全く表情を変えずに淡々としている。
気にしなくていいと言われても僕は気になってしまう。
特に男の視線は嫌でも感じてしまう。
まりさんは気づいていないのか気にしていないのかわからないが同じ視線が何度も僕たちに向けられている。
まりさんのルールを思い出す。
『ルール4:私を守って』
僕がまりさんの立場なら気が狂いそうだ。
インドア派な僕は四六時中視線を浴びせられた経験はない。まさに今日は視線の嵐だ。その視線のせいで吐きそうだ。
突然見知らぬ男に襲われることも実際に起こりえそうだ。
まりさんが守ってと言いたくなる気持ちが身にしみてわかる。
「ねえ、ここでイチローくんに抱きついたらどうなるかな」
とんでもないことを考える小悪魔がここにいた。
「僕が殺されます。それはやめてほしいです………まさか、ルール1ですか?それは」
「ふふっ、そんな意地悪なことしないよおー、うそうそ」
まりさんはたまに心臓に悪いことを言う。
「ぼくで遊ぶのやめてくださいよ...」
「ふふっ。ここは学生じゃない人も紛れ込んでるから気をつけてね」
「まりさん、何かあったらすぐに僕の携帯鳴らしてくださいね」
「何かあったら電話してる余裕ないんじゃない?」
たしかにそうだ。それができたら助けを求めることができる。
「ごめんなさい。なにもできなくて」
「そうだ。アプリ入れあいっこしようよ」
「アプリ?」
「そうそう、お互いの位置がわかるアプリ」
「なるほど。それならどこにいるかわかりますね!あっ!!
でも、まりさんのプライバシーが………」
「これからずっと一緒じゃん。気にしないよ。
それともイチローくんが困る?」
なんてかわいい聞き方をするお姉さんなんだ。僕なんか口説いてもいいことないのに最高の口説き文句が僕に飛んでくる。
「僕は困りません。もし僕が他の女性で気絶して動けなくなってたら助けたくださいね」
「他の女の子の匂い嗅いでたらちょっとやきもち妬くかな」
まりさんは本気なのか、からかっているのか、僕にはわからない表情をしている。
でもその表情がかわいい。さすがアイドルだ。
「……………」
うぶな僕は何も答えられない。答え方がわからない
「じゃあ、アプリ入れよっ!」
僕とまりさんはお互いの携帯で位置情報がわかるようになった。
「あっ!もうこんな時間。行かなきゃ。旧棟で講義だから遠いんだよね」
お昼を食べた後はまりさんは慌てて講義に向かった。
たしかに旧棟は気味が悪い。うわさでは戦前から建っていて第二次世界大戦の時の病棟だったと聞いたことがある。講義が無い限り普段は誰も近づかない。
僕は同じタイミングでの講義がなかった。まりさんの講義が終わるのを待っていた。
(あれ??まりさんからLINが来ない)
午前中は講義が終わるとすぐに連絡があった。それなのに連絡が来ない。
次は二人とも講義が無いし、まりさんは寄り道でもしてるのかなとおもう程度だった。
「おい。おまえは星野まりのなんだ?」
考え事をしていたらいきなり見知らぬ男に声を掛けられる。
(オタクだ!ぜったいにオタクだ。デブでデニムの上下に紙袋。まりさんのファンにしか見えない)
ぼくは関わりたくなかった。
「あっ!星野まり!」
オタクの後ろを指さして大声を上げる。
オタクは見事に引っかかる。まりさんを探してキョロキョロしまくっている。
僕は旧棟の方へ猛ダッシュをする。
相手はデブだ。追いつかれるわけがない。
僕は振り返らずにひたすら走った。
追いかけられていないようだ。
僕は旧棟の入り口に着いた。
「はあ、はあ、はあ」
僕は初めて人から逃げ出した。
無我夢中で走ったから息を切らしている。
追いかけられたらどうしようというドキドキと
人から逃げるという初めての行為にもドキドキした。
「まりさんから連絡が無いなぁ」
ぼそっと独り言を言った後に回りに誰もいないことを確認する。
ふと背筋がぞーっとする。
僕でさえさっきオタクに声を掛けられて恐怖した。
まりさん本人ならもっと声を掛けられていてもおかしくない。
僕は一気に不安になる。
プルル、プルル、プルル..........
まりさんは電話に出ない。
不安がさらに増す。
(アプリだ!)
なんて良いタイミングだ。
僕は急いでアプリを見る。
光っている!もっと奥だ。
僕は走り出す。
(まりさん、まりさん、まりさん)
頭の中はまりさんへの心配でいっぱいだ。
こんなにも人のことを心配したことはない。
無事でいて欲しい。何事も無くて欲しい。
ぼくはひたすら走る。
旧棟の一番奥のエリアに到着する。
(この辺だ。この辺で光っている。どこだ)
辺りを見回すがまりさんはいない。
アプリは正確な位置情報では無い。
この辺りにいるのは確実だが1階なのか2階なのか3階なのか
わからない。
1階にある講義室4部屋をすべて見て回る。
まりさんはいない。
階段を駆け上がり2階の講義室を見て回る。
まりさんはいない。
まりさんが見つからない。
ぼくはますます不安になる。
僕の顔は引きつっていたに違いない。
最後の階段を駆け上がる。
講義室を見て回る。
いない......
(なんで。どうすれば......)
ぼくは少しやけになった。講義室はもう無いのに周りを見渡した。
キラッ
何か落ちてる!
イチゴのヘアピンだ。
まりさんのだ。
目の前は女子トイレ。
ここだ。ここにまりさんがいる。
(トイレか。そうかおなかの調子がわるかったのか。女性だもんな。
トイレが長いとは言いづらいだろう)
僕は安心して一気に身体の力が抜ける。
勝手な妄想が膨らみすぎた。
ここでまりさんを待ってたらまりさんが恥ずかしい思いをするかもしれない。
僕はその場を離れようとした。
ドン!
女子トイレの中から鈍い音がする。
「おい!おとなしくしろ!」
女子トイレの中から男の声がかすかに聞こえた。
…………………………………………………………………
あとがき
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