第十話 ふさわしき者
※ 今回の話に含まれるネットゲーム用語が分からない人は以下の用語解説を参照してください。
https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16817330658093027096
§ § §
力が欲しいか? 無論欲しい。だが力を得たとしても、それで僕が幸せになれる訳ではないと悟っている。
僕に力はないが、小賢しい知恵は少々ある。だから、それを駆使してゲームとか口喧嘩や論争には勝った経験がある。
しかし、ゲームに勝ってもその嬉しさが長続きするでもなく、口喧嘩や論争に至っては、勝っても空しさしか残らない有様だった。だから僕が力で勝利を収めたとしても、結果はやはり同様だろう。
結局は力そのものではなく、それを扱う者が重要ということだ。力を持つ者がみな幸福な訳でもなければ、力が足らずとも幸せな者はいるのだから。
~消えゆきし世界とそこに住まう数多のアバター達に捧ぐ~
§ § §
「イザ姐が寝ててよかったですよ」
切断したイノシシの首を見ながら、東風さんが呟いた。
「あの人、中身は結構お嬢さんですからね。確かに苦手でしょうね、こういうのは」
「やさしい人なんですよ。ルルタニアでも、環境生物を殺すのを嫌がってましたから。
あ、カイルさんここはどう切ればいいんですか?」
俺は東風さんに手本を示すように、イノシシの身体にナイフで切り込みを入れる。
「こうして、この骨のラインに沿うように切ってください」
「なるほど、こう……ですね。
それにしてもカイルさんは手慣れてますね。何度も狩りをされているのですか?」
東風さんには、そう見えてもおかしくないのかもしれないが……。
「俺も狩りは殆どした事ないですけど、町で豚の解体を手伝った事が何度かあるんです。豚もイノシシもあまり変わらないですから」
俺が経験した狩りは、たった一度だけ。ギルドのレンジャー研修の最後で、兎を追ったきりだ。
だが、ゴータルートの街では人手の足りない時に、何度か豚の解体や精肉作業を手伝い、その礼として肉を分けてもらっていた。
街の精肉作業では豚肉でソーセージ作りもやっていたのだが、ここにはそれに必要な道具も揃ってない。イノシシのソーセージが美味いかどうか、できれば試してみたかったのだが、諦めるしかなさそうだ。
俺は解体の続きを東風さんに任せて、庭の片隅に石で簡単なかまどを作り始めた。
『仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空……』
石を積み上げていると、壁の向こうから聞いた事もないような祈りの声が聞こえてくる。
(段が大猿の死体を供養するって言ってたけど、そのための祈りなのか?)
自称(フレーバー設定)密教僧だそうだが、この祈りは果たして本物なのか? 出鱈目なのか? そもそも密教僧がどういうものなのかさえ、俺は知らないのだが……。
「なにを作っとるんじゃ?」
袋を持ったべべ王がやって来て、作りかけのかまどを覗き込む。
「肉を焼くために、かまどを作ってるんだよ」
「かまどならクラフトルームにもあるが……」
べべ王は良く晴れた空を見上げた。今は雲一つない。
「……今日はここで焼いた方が面白そうじゃのう」
クラフトルームというのは鍛冶の設備だと思っていたが、それ以外にもいろいろな道具が揃っているらしい。どういう設備があるのか、後で確認しといた方がいいかもしれない。
「もしクラフトルームに炭と、肉を焼くのに丁度いい鉄板があるなら持ってきて欲しいんだけど?」
「ええよ。それと、こいつを確認しとくれ」
そう言って、べべ王は手に持っていた袋を広げてみせた。櫛・食器・歯ブラシ・鏡……袋の中身は、朝食の後にべべ王に製作を頼んでおいた物だった。
「え? 作るの早すぎない?」
べべ王は、俺に向かってドヤ顔で胸を張っている。
(おや……?)
「持ち手が異様に太い道具が混ざってるけど、なんで?」
「それは東ちゃん用の物じゃよ。あいつは指が太過ぎて、普通のサイズの道具は使うのに一苦労するからのぅ」
俺は思わず目を丸くする。
確かに東風さんは体がデカいから、指のサイズだって並ではない。小さな物や細い物を掴むのは大変だろう。しかし、そんな東風さんにシーフをやらせてて、大丈夫なんだろうか? あれは、手先の器用さも、問われるクラスの筈なのだが。
「ところで、フォークやスプーンは、本当に木製で良かったのじゃろうか?」
べべ王が少し不安そうに、太い眉を下げて尋ねる。
「金属製だと、その金属の味がどうしても食べる時に邪魔になるんだよ。木製の方が風味もいいし、そっちを好む人が殆どだよ……。
あれ? このナイフ銀製じゃないか。こんな高価な素材を使っていいの?」
「銀鉱石なんぞ、このクランの倉庫には山ほど余っとるぞ。
貴族達は銀製の食器を好むというから銀製にしたが、なんならオリハルコン製にした方が良かったかの?」
かつての俺なら、オリハルコンと聞いただけで腰を抜かしていただろうが、もう驚く気にもなれない。なにせイザネが俺のために作ってくれた魔導弓は、あの伝説のオリハルコンやミスリルより遥かに上位の素材で作られているというのだから、感覚がマヒしても仕方がないだろう。
「なんでそんな伝説級の鉱石が、ここにあるんだよ?
だいたい銀でももったいないくらいなのに、ナイフをそれ以上豪華にしたって仕方ないだろ。バカ言ってないで、早く鉄板と炭を取ってきてよ」
が、べべ王は俺の話も上の空で、その視線は既にある方向に釘付けになっていた。
(まさか、このジジイ……)
「ヒャホッーイ!」
イノシシの首を頭上に掲げて上機嫌ではしゃぎ、そこら中を駆け回るべべ王。ガキっぽいジジイではあったが、これではクソガキどころか蛮族だ……。
「コラッ! 罰当たりなジジイだな!」
段が庭に入って来るなり、イノシシの頭をべべ王から取り上げた。大猿の供養は、どうやら終わったようだ。
「ごめんなさい」
いつものように何の反省もせずに条件反射的にべべ王が頭を下げ、段はそれをさも当たり前のように無視をする。
「後で、こいつの供養も後でしてやらねーとな」
段はなぜか楽しそうに、両手で持ったイノシシの首を見つめている。
「ルルタニアでは、念仏を唱える機会なんてありませんでしたからね」
その東風さんの一言で、なぜ段がやけに楽しそうなのか理解できた。要するにこいつも、罰当たりな事を考えてやがるだけなのだ。
「この世界は面倒な事ばかりだと思ってたんだがよ、ルルタニアと違って坊主らしい事ができるってのは新鮮でいいよな」
(それはもう既に、坊主が言っていいセリフじゃないんだぜ。性根はともかく、やってる事は間違ってないから、あえて反対はしないけど)
俺は段がこれ以上不謹慎な事を言いだす前に、仕事を押し付ける事にした。それだけ筋肉ムキムキなんだから、力仕事はお手の物だろう。
「手が空いてるなら、かまどを作るの手伝って欲しいんだけど。
あと、倉庫に調味料が余ってたりしない? 俺が持っている調味料は塩しかないんだ」
手持ちの調味料は俺のカバンの中にある塩一袋だけだった。
デニムに”なにかと役に立つことが多いから”と持たされていたのだが、今のところは、討伐の証として持ち帰る大猿の指を、腐らないよう塩漬けにしたきりだった。
「調味料という素材の種別は、聞いた事がないのぉ。
塩ならば”怨嗟の岩塩”という素材があるが、それでいいじゃろうか? 呪いの島でしか手に入れられない、ランクの高い貴重な素材じゃぞ」
「絶対それ持ってくんなよジジイ」
石のかまど作りを段に任せた俺は、東風さんが先ほど採取した木の実やキノコの選別に入る。
東風さんが袋に集めた採取物は殆どが食べられない物だったが、少し酸っぱいが食べれる木の実が少々と、野生のハーブがいくつか混ざっていた。
肉を焼く時にハーブを敷いて風味をつければ、塩のみの味付けでも、ちょっとは乙な味になるだろう。
食べれるキノコも選別しようと思ったのだが、それは無理だった。知ってる種類のキノコなら判別できると思っていたのだが、それと似たような形のモノが多く混ざっていて、正確に見分けられそうもない。
「おーい、肉の焼く準備ができたぞー!」
段が俺を呼んでいる。想像以上に仕事が早いのは、この色黒ハゲの元気が有り余っているからだろう。既にべべ王はクラフトルームから調理器具を持ち帰り、東風さんも肉を切り終えている。
俺はハーブと塩袋を持って、三人の待つ石のかまどの前へと向かう。
(そろそろイザネを起こしてこないとな……)
日の高さから察するに、時刻は既に昼を過ぎているようだ。俺は日差しに目を細めながら、額に浮かんだ汗を腕で拭った。
* * *
「イザネさん起きてる?」
ドアを叩きながら、俺は声をかけた。
「んん~っ!」
ドアの中から寝ぼけた声が聞こえる。
(大丈夫かな……)
ドアを開けると、イザネはベットの上に座りボーッっとしていた。
「おぃ、服っ!」
俺は思わず叫んで目を逸らす。
イザネは初めて会った時同様、胸に布を巻き、下着のような面積の布地の赤いパンツの姿だった。腰の太いベルトは寝る時にきつかったのか、前を外して下に垂らしている。
※ 挿絵
https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16817330658092975010
「なんだよ、大げさだなぁ。
そんなに意識されると、こっちも恥ずかしくなってくるじゃないか……」
「胸の布がズレかかってるからっ!」
「あ、ほんとだ」
イザネは慌てて、そのふくよかな胸からずり落ちそうな布の位置を直し、ベットに脱ぎ捨てていたシャツを被り、ズボンに足を通す。
俺は逸らしていた視線を、足元から、彼女の上半身に戻した。
「昼飯できてるよ。
それから、俺の魔導弓を返してくれないかな」
「なんでだよ? 強い弓が手に入ったんだから、もういいじゃないか」
イザネはきょとんとした顔で答える。
「前にイザネさんも言ってたろ、”装備レベル制限がないのはチートだ”って」
「ん、まぁそうだけど」
「俺もそうなんじゃないか、と思いはじめたんだよ。
イザネさんの作ってくれた弓は強いし、作ってくれた事は感謝してるし、その、嬉しかったんだけど、俺が使いこなせないっていうか、身の丈に合わないっていうか……」
上手く思ってる事を言葉にできない。俺は息をゆっくり吐いて間を置き、もう一度考えをまとめる。
「今日、試しに使ってみたんだけど威力が強すぎて、俺にはこの弓を扱いきれなかったんだよ。
だから、俺がこの弓にふさわしい力を身に着けるまで、イザネさんに預けておきたいんだ。それまでは元の魔導弓を使う事にするよ」
俺は思い切って本音を吐露したのだが、イザネは困ったような驚いたような微妙な表情を浮かべている。
「おまえの魔導弓の事なんだけどさ……」
そう言ってイザネは愛用の丸盾の裏側を見せる。そこには、どこかで見覚えのある魔石がはめ込まれていた。
「え? おまえ、その魔石は……」
あれは、俺の魔導弓に付いてた魔石じゃないのか?
「え、ええっと……」
イザネはポイっと丸盾を部屋の窓の外に放る。
『ロドゥムエィガリル! ポチ! 戻ってこーい!』
イザネが呪文を唱えると、丸盾がイザネの手元に飛んでくる。
「な!?」
イザネは丸盾を両手で持ってこっちに向き直る。
(は?
はぁーーーっ?
はあああああぁぁぁぁぁーーーーーっ!?)
「お、おまっ。
たしか”用が済んだら返す”っつってたよな!?
”な!?”じゃねーよっ! なんで勝手に分解して利用してんだよ!」
思わずどもる俺に、イザネは誤魔化すように目を逸らしながら笑う。
「悪い悪い、忘れてたぜ。
ま、まあ、武器は強いに越したことはないんだしよ。おまえが早くその弓にふさわしいレベルになれば済む話だろ。
さ、飯を食いに行こうぜ」
イザネはあっけに取られる俺の脇をすり抜け、逃げるように階段を降りていく。
(なんてこった……)
俺はイザネの作った魔導弓を入れたカバンを、背から降ろして眺める。
(今の俺が、この弓にふさわしい冒険者でないのは確かだ。このまま使っていても、武器の強さに振り回されて、俺はどんな失敗をするかもしれない。
いっそ、弱い魔導弓をクラフトルームとやらで作って貰った方がいいのだろうか……)
いや、それは何かがおかしい。そこまでするのは、いくらなんでも違和感がある……。
(……そうか、この弓から俺が逃げ回ってるんだ)
俺のような未熟者が、この規格外の武器を扱うにはやはり問題があると思う。だが、そこから逃げ回っていては前進もない。
いっそイザネの言うように、俺が早くこの魔導弓にふさわしい冒険者になれるよう、努力をするべきなんじゃないのか?
だが、それにも大きなリスクが付きまとう。あんな強い魔導弓を俺が制御できる訳がないし、すぐに強くなれる訳でもない。何かあってからでは手遅れなのだ。
リスクを考え止めるべきか、力を求め前に進むべきか、俺のなかでぐるぐると思考がループし始める。どうする……?
(例えば、子供の頃に俺が憧れていた物語の英雄ならば、こんな時にどうするのだろうか……)
……逃げるな……留まるな……
「あの英雄のように……」
そう呟くと、なぜか足に力が篭った。俺はイザネを追うように、そのまま肉の焼ける臭いの漂う庭へと駆け下りた。
* * *
庭に戻ると、肉に勢いよくかじり付いてるイザネの姿が、まず目に入った。
(そういえばアイツ、朝も食べてなかったんだっけ。フォークの持ち方が、やけに不器用だけど……そうか、食器を使うのも初めてなのか)
俺も東風さんに皿を渡され、略式で食前の祈りを済ませると、盛られた肉をかじる。
塩のみの味付けだから大味ではあるのだが、新鮮な焼きたての肉の美味さは、やはり格別だ。腹が減っていた事もあり、そのひと皿を俺が平らげるのは、あっという間だった。
「もう一切れください」
かまどで肉を仕切っていた東風さんが、丁度良く焼けた肉を選んで俺の皿に盛ってくれる。
パチパチと炭の焼ける音と、かまどから吹く熱風が、肉を前にした俺に奇妙な高揚感を与える。俺はそれに突き動かされるまま、香ばしい肉を頬張り、イザネのところへ向かった。
「さっきの魔導弓のことなんだけどさ……」
「なんだよ、まだ怒ってるのかよ」
イザネが首をすくめる。
「違うよ。
イザネの言ったとおり、早く新しい魔導弓にふさわしい冒険者になりたいんだよ。だから鍛えてくれないか、俺を」
この魔導弓で放った魔法の矢は、威力が何倍にも跳ね上がっていて、俺は制御できる気が全くしない。
であれば、この弓の両端の槍状の部分を使って接近戦で戦う術(すべ)を、まずは学ぶべきではないのか、と俺は考えていた。恐らくこいつは、刺突武器としても優秀な筈だ。だから俺の上達次第では、制御の効かない魔法を無理に頼らなくても済むようになるかもしれないのだ。
それに、武器にふさわしい冒険者になれと俺に言うくらいなのだから、イザネには俺を手っ取り早く鍛える算段があるのだとも期待していた。
「お、やっとやる気になったか。じゃあ、まずは初心者用のクエストを周回してだな……」
「ちょっと待て!」
嬉しそうに語りはじめるイザネを、俺は慌てて止めた。
「それ無理だって。初心者冒険者にこなせる依頼なんて、そんなに多いわけないだろ」
「なら、俺が手伝ってやるから適当な難易度のクエストを選んで……」
「いや、そもそもお前ら依頼を受けられないし」
「えぇぇ!?」
「は?」
「え?」
「なんじゃそりゃあっ!」
四人の驚きの声が被る
「だって、まだ冒険者ギルドに登録してないんだから、ギルドに来た依頼を受けられる訳がないじゃないか」
「カイル! テメーは、なんでそんな肝心な事を先に言わないんだよ!」
「もっと肝心な事を、お前らが知らなかったからだよジョーダン! 全部一度に言ったって、理解できなかっただろ?!」
「ま、まぁ、そういう事なら早速冒険者ギルドに登録を……」
「ギルドはゴータルートの街にありますが、どうやって街に入る気ですか東風さん」
「街なんてものは、行けばすぐに入れるじゃろ?」
「身元もハッキリしない人間をそう簡単に入れる訳がないだろ、じいさん」
「じゃあ、どうすればいいんだ? 忍び込むのか?」
「お尋ね者にでもなりたいのイザネは?
街に入るのなら、街への出入りが許されている旅の行商人の一行に加わって入るのが、いいと思うよ」
「で、行商人てのはどこを探せばいるんだ? すぐに探しに行こうぜ!」
「いつ、どこを旅しているかもわからない商人達を、どこへ行って探せと言うんだよジョーダン?」
「探すのが難しいのであれば、どうすればよろしいのでしょう」
「行商の立ち寄りそうな村で待ってれば、そのうち向こうからやって来ますよ東風さん。
幸い、ここの近くにリラルルの村がありますし」
この際だ。まだ不安はあるが、リラルルの村への移住も勧めてみるとしよう。今の流れなら、問題なくその方向に話を持っていける筈だ。
「なるほど、村で待っておれば旅の商人のパーティに参加できるのじゃな?」
「だから慌てるなって。どんな商人だって信用のない人間を仲間に入れる訳ないだろ、じいさん。
まずは村人の信用を得て、村と付き合いのある商人に紹介してもらえばいいんだよ」
「お前もそうやって街に入ったのか?」
「俺は元々ゴータルートの街の住人だから、関係ないんだよイザネ。
あ、東風さん肉が焦げそうですよ」
「あっ、すいません」
東風さんが慌てて焦げそうな肉を、空いた皿に移す。
「でもさ、今すぐクエストを受けれないなら、どうやってお前を鍛えるんだ?」
「いや、普通に訓練してくれよ」
「そうだ! この世界はFF(フレンドリファイア)があるからPvP(プレイヤーVSプレイヤー)で対戦もできるのか! それで鍛えよう!」
イザネはノリノリだが、その対戦とやらで俺は死ぬんじゃないのか普通に? あの大猿を一撃で粉砕したメイスが俺に向かって飛んでくると思うと、生きた心地がしない。
「お、俺を殺す気じゃないよな?」
「加減はするさ、勝負になんないからな。そういえば、この世界のデスぺナルディってなんだ?」
「デスぺナルディ?」
「死んだときに課せられるペナルティだよ。
ルルタニアでは自動的に神殿で生き返ってリスタートさせられたけど、ここではどうなるんだ?」
やっぱりイザネは、俺を殺す気だったのか?!
「死んだらそれで終わり! 自動的に生き返るとかありえないから!!
状態のいい死体なら、街の神殿にもって行けば蘇生できるだろうけど、莫大な金を要求されるし、名の知れた冒険者でもなければ門前払いだよ」
「うわ、デスペナルティが重すぎだろ。それじゃクソゲーじゃねーか!」
イザネが心底呆れたように、すっとんきょうな声を上げた。
「おまえ、そんなデスペナあんのに、よく冒険者になろうと思ったなぁ」
続いて段がしみじみと感心した様子で、俺の肩にその分厚い手を置く。けれど、命がけだからこそ、勇気が要る仕事だからこそ、冒険者にはその価値があるんじゃないのか?
「カイルの以前のパーティメンバーが、なぜポーション一つであんなに大袈裟だったのか、やっとわかったわい。
じゃが、デスペナがそんなに重いなら、FFを利用したPvP対戦でも、危う過ぎるのぅ。どうやって鍛えればいいんじゃ?」
べべ王は真面目に言っているつもりなのかもしれないが、俺にはボケをかましているようにしかみえない。
「いや、普通に訓練なり稽古なりをしてくれよ! なんでいきなり実戦からなんだよ? ちゃんと訓練してからの、実戦だろ」
「要するに訓練所や、各ジョブのチュートリアルクエストみたいな事をすればいいのか。面倒だなぁ……」
イザネはぼやくけどさ、これが普通なんだよ。わかってくれ。
訓練でできない事が、実戦でいきなりできる訳がない。だからこそ、冒険者志願者の殆どが、ギルドで厳しい戦闘訓練を受けているのだ。
「ともかく、これで我々が次にすべき事が、だいぶはっきりしましたね」
そう言いながら東風さんは、焦げかけた肉を口に運ぶ。
「そうじゃのう、まずは村人の信用を得るためにも、リラルルの村に行かねばならんようじゃ。
いずれ、村にも様子を伺いに行くつもりじゃったし、丁度いいかもしれん」
「どうせなら、村に住んだらどうだい? あの村は空き家が多いし、用心棒をやってくれる冒険者も求めているよ」
「おいおい待てよ。このクラン拠点はどうするんだよ?
住むならここでも構わないだろ?」
どうやら俺の案に段は乗り気じゃないようだけど、それは現状をちゃんと把握して言っているのかい?
「ここに住むとして、例えば調味料はどうするんだい? 塩もあと数食分しかないぜ」
昼食に使ってだいぶ軽くなった塩袋を、俺は目の前で振ってみせた。
「む、そうだな。それは如何ともしがたい」
段が渋々意見を引っ込める。
「俺は、カイルの提案どおりでいいと思うぜ。
この世界の村にも興味あるしな」
「そうですね。
村にいつ行商人が来るのかもわかりませんし、そこに住むのならタイミングを逃す恐れもありません」
段とは対照的にイザネと東風さんが賛同したのを見て、べべ王が頷く。
「では食事が終わりしだい、村へ移住するための準備をするとしよう。
わしは、クラフトルームでカイルの分の防具を用意しておくつもりじゃ」
「私は倉庫の整理をしましょう。
クリスマスチキンも含め、腐りそうな素材は村に移住する前に片づけとかないとまずいですから」
「じゃあ俺は、カイルに稽古をつけとくぜ」
イザネの特訓内容が非常に気になるものの、三人は乗り気になってくれた。
(残るは……)
まだ煮え切らぬ様子で座り込む段を、三人が注目する。
「ま、しゃーねーか」
皆の視線を浴び、段は何かを吹っ切るかのように両手で膝を叩いた。
「俺様は、こいつの供養をしてから、カイルの魔法の稽古でもしてみるか」
最後に、イノシシの頭を抱えて腰を上げる段を見て、イザネが今まで見た事のない様な渋い顔をしていた。
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