第六話 異次元文化交流
※ 今回の話に含まれるネットゲーム用語が分からない人は以下の用語解説を参照してください。
https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16817330657677848278
§ § §
ゲームの中のキャラクターがゲームの外に出たとして、彼等はどのように振舞うだろうか?
当然、ゲームの中のノリそのまんまだろう。現実の世界でそれが如何に浮いていようとも、彼等はそれを知る由もないのだから。
~消えゆきし世界とそこに住まう数多のアバター達に捧ぐ~
§ § §
「クラン、トリプルエスアールですか?」
俺はそう尋ねるのがやっとだった。あれほどまでに恐れていた大猿はあっさりと息絶え、助けてくれた人物とはまるで話が通じない。ここで起こった事のなにもかもが、俺には信じられず半ば呆けていたのだ。
(この二人は冒険者なのだろうか?)
だが、そのおかしな言動から彼等に冒険者としての常識があるとも思えない。
「あー、つまりクランというのはですね冒険者が集まって作る団体の事です」
東風と名乗った大男の口から発せられる言葉には常にこちらへの気遣いが感じられ、この異様な状況にありながらも俺の心を落ち着かせてくれる。
「冒険者の団体?パーティとは違うのですか?」
ギルド以外に冒険者を管理する組織はない筈だ。”クラン”という言葉も俺は聞いた事がない。
「う~~ん、パーティより大きな単位の冒険者集団って感じかな。
パーティはクエストに応じてクランメンバーから集めてもクラン外の冒険者から募集しても構わないけど、クランメンバー同士なら都合も合わせやすいしお互いの戦力も把握しやすいから便利だぜ。
それにクラン拠点も利用できるし、拠点の倉庫にみんなが預けたアイテムを共有して利用できるんだ」
東風の横からイザ姐が会話に割って入った。丁寧に説明してくれるのはありがたいのだが、布を巻きつけただけの大きな胸が揺れるのが気になり頭に話が入ってこない。
「あ……あのイザ姐さん……」
「イザ姐さん?
あ、そうか。名前が頭上に表示されてないからわかんないのか。イザネでいいぜ」
「あ、ではイザネさん、目のやり場に困るのでその恰好はどうにかなりませんか?」
「ん?」
「いえ、胸とか……結構目のやり場に困るんで……」
俺は彼女の身体をなるべく見ないように少しうつむいて言った。
「そうかぁ?俺なんてまだおとなしい方だと思うけどな。最近じゃこれくらいの恰好した奴、山ほどいるし」
「最近は露出の高い水着系のコスチュームのガチャが多くなりましたからね。こないだ野良でご一緒した人は、ふんどし一丁で戦ってましたよ。男でしたけど」
「ふんどしって、どんな防具なんですか?」
「いえいえ、ふんどしというのは下着です。腰巻の布みたいなものですね。一年ほど前にコスチュームガチャに追加されたんです。」
(下着一枚でモンスターと戦うだって?!そんなバカな冒険者がいてたまるものかっ!)
……と、心中で叫んでみたものの、それをそのまま口に出しても彼等に通用するとは到底思えない。現にイザネの恰好はそれに近いのだから。
ここは少し話を逸らそう。
「あ、でも寒くないですか?」
夏が近いとはいえ季節はまだ春。日も既に沈みかけてるし、そんな恰好で寒くない訳がない。
「いえぜんぜん寒くないですよ」
なぜか東風が答えるが、あんたには聞いてない!
「そういえば、ちょっと寒いな。氷魔法をかけられた訳でもないのに妙だな?」
イザネは右手に持っていた丸い盾で体を少し隠す。
「だからっ!そんな薄着じゃ、寒くて当たり前でしょ?!」
俺は当たり前の事を当たり前に主張したつもりだったが、イザネは納得できないらしく首をかしげている。
「え?……服装によってそんなペナルティが付くようになったのか?」
「もしかしたら、あまりにも際どい恰好の冒険者が増えたので運営が対応したのかもしれませんね」
東風はなぜか納得しているようだが、俺は東風の言ってる事に納得ができない。理解もできない。
「自由なコス(コスチューム)で冒険できるのがドラゴン・ザ・ドゥームのウリじゃなかったのかよ~。しょうがねぇ、ちょっと装備を変えてくる」
そう告げてイザネはクラン拠点と呼ばれる建物に何事もなげに入っていった。不思議な事に俺や大猿の侵入を阻んでいた結界も、なぜか彼女には効果を発揮していない様子だ。
「あれ?さっき俺が入ろうとしても駄目だったのに。どうやったんですか今の?」
俺はイザネを見送る東風に尋ねた。
「クラン拠点はクランメンバーにならなければ入れないんですよ」
「?……そのクランメンバーっていうのには、どうすればなれるんですか?」
「おや、クランに興味が出てきたようですね」
「あ、え?えっええ、まぁ、そうです」
俺はこのクラン拠点とかいうこの謎の建物の正体を知りたかっただけなのだが……。
「クランに入団するには、クランマスター、もしくはサブマスターの許可が必要です。
うちのクランは”他の冒険者に迷惑をかけない常識のある人”であれば誰でも歓迎しておりますので、すぐにでも入れると思いますよ」
「は、はぁ……」
俺には東風にもイザネにも”常識”があるようには見えないのだが、なにをもって常識と言っているのだろう?
「なんだお前か?イザネの言っていた入団希望者っていうのは」
不意にクラン拠点の扉が開き、今度はソーサラー風の男が出てきた。
首からは丸い大きなアミュレットをぶら下げ、やたらとツバの大きい平らな帽子を目深に被って4つの小さな輪っかのついた杖を持っている。ソーサラーの中には好んで怪しげな恰好をする奴もいると聞くが、丁度こんな感じなのだろう。背は高く、東風同様に筋肉モリモリのマッチョマンで、魔法を使うより殴り倒した方が早いんじゃないかとすら思えるその体格が怪しさに拍車をかけている。
それにしてもクランに入りたいなんて言った覚えはないのに、いつの間にか話に尾ひれが付いてしまったようだ。
(あれ、もう一人いる)
魔術師風の男の後ろから小さな老人が前に進み出てきた。
金の鎧に赤いローブ、頭には王冠を模したような見慣れぬアミュレットを付けている。貴族の様なカールのかかった白髪に髭を蓄えた口元、眉毛はあまりにも厚く蓄えてしまっているため眼が隠れている。
大きな顔を模した盾を背中に背負い腰から小さな杖を下げているのだが、この人はこの装備でどう戦うつもりなのだろう?
老人は俺の目の前までヒョコヒョコ歩いてくると胸を張って叫んだ。
『王であるっっっ!!』
(は?……え?は?……なに?なんなの?
たしかに王様の恰好を真似ている様に見えなくもないけど?)
俺はどう反応していいかわからず動けなかった。万が一この人が本物の王様ならば、ひれ伏すのが正解なのだろう。が、この爺さんからはパチモノ臭しかしないのだ。
この怪しげなな老人にまず何を話すべきなのか、指摘すべきなのかと頭を回転させてみだが、想定外の出来事を前に考えが空回りするばかりでただただ口をパクパクさせていた。
「このクソジジイがバカやっても相手にしない方がいいぜ」
ソーサラー風の筋肉男がニヤニヤしながら言う。気付くと老人は俺を指さしてクスクスと笑っていた。
「あの……このジイさん何者なんですか?意味がわからないんですけど」
「この人がうちのクランマスターの”べべ王”ですよ」
困った表情で後ろ頭を手でかきながら東風が俺に教えてくれた。
「王?……え?やっぱりこの方は王族なんですか?」
「ぎゃはははははっ!!」
俺の言った事が余程おかしかったのか、べべ王が腹をかかえて笑い出す。
「んな訳あるかよ!このジジイが勝手に名乗ってるだけだ」
魔術師風の男が、笑い転げるべべ王を押しのけて俺の前に立つ。
「俺様は大上=段(ダイジョウ=ダン)ってんだ。
お前は?」
「カイルといいます」
この男には苗字があるが、もしかして名のある家の出身なのだろうか?ダン家などという貴族はこの辺りでは聞いた事がないのだが?まさかべべ王と同様にただ名乗ってるだけなのだろうか?
「で、カイルよ。ここは一体どこなんだ?」
「リラルルの村の近くの森ですけど?」
俺の返答に納得できなかったのか段は目を細める。
「べべ王さんがクラン拠点の場所を移動させたのではないのですか?」
「そんな訳ないじゃろう。拠点の移動ができる程、クランポイントは残っておらんかったわい」
どうやら東風とべべ王も状況を把握できていない様子だ。
だがこのクラン拠点という建物が移動するというのなら、先ほど森が光ったのはクラン拠点がここに移動したのが原因なのであろうか……?
バタンッ!
その時、不意にクラン拠点の門が勢いよく開き、着替え終わったイザネが顔を出した。
「おまたせ。なんかわかったか?」
イザネは赤いハチマキやブーツや手袋はそのままに、白いシャツと白いズボンの姿に変わっていた。普通に町中で見かかるような服装と重そうなメイスが不釣り合いで、違和感を禁じ得ない。ファイターであれナイトであれ、前線でメイスを振るうクラスであれば鎧くらいまとうのが普通なのだ。
「こいつの名前がカイルっていうのと、この近くに村がある事くらいだな」
段が俺を指差してそっけなくイザネに答えると、べべ王は点呼を取るかのように集まった3人を見回してから俺の方に向き直った。
「さてカイル君。
クランSSSRに入団希望だそうじゃが、うちのクランは他の冒険者に迷惑を掛けるような真似をしないのであれば、それ以外に特に規則はない。なにか質問があるのなら入団前に相談してくれ」
べべ王がさっきとはうってかわり、真面目な口調でクランに勧誘してくる。
断るのは簡単だが、俺はこの人達の正体も、この建物についてもまだ殆どわかっていない。このまま手ぶらでデニム達の元に帰ってもどうやってこの状況を説明をしたものか……。
「あの、仲間と相談してから決めたいのですが」
俺は別にクランとやらに入りたい訳ではないが、今の状況を理解するためにこの4人の事をもっと知る必要がある。しかし俺一人でいくら話をしても拉致が空かない以上、うまく誘導してデニム達の所に連れていこう考えたのだ。それに大猿が死んだ事も一刻も早くデニム達に知らせたかった。きっと心配しているだろうから。
「ん?ああ、フレンドと一緒にログインしておったのか。構わんよ」
「じゃあ、仲間の所まで案内するのでついて来て下さい」
快諾したべべ王達を引き連れ、俺はデニム達と別れた方向に歩き出す。
「まいったな、周辺マップすら表示されないぞ」
俺のすぐ後ろでイザネがぼやいている。
(周辺マップってなんだ?こんな田舎の森の地図など、どこの物好きがわざわざ作るんだ?)
”サービス終了””運営””ガチャ””ドラゴン・ザ・ドゥーム”そして”周辺マップ”意味のわからない言葉があまりに多く、脳が理解しようとする事を放棄している。
いったいこの人達はどこから来たのだろう?遠い国から来た人達と考えても、おかしな事だらけだ。
ふと気付くと俺の魔導弓を、ぼやくのを止めたイザネが珍しそうに眺めている。
「あの、なんですか?」
「なぁ、カイルのジョブって狩人なのか?随分変わった弓を持ってるけど」
イザネはおれの魔導弓を軽く指でつつく。
(ジョブ?クラスの事かな?)
「俺のクラスはマジックアーチャーですよ」
「マジックアーチャー?新シーズンで追加されたジョブかな?どういう事ができるのか少しスキルを見せてくんない」
(スキル?聞きなれない言葉だが、要は何かやってみせろって事か?)
大猿も既におらず、もう魔力を温存する意味もない。ちょっとくらい魔法を無駄撃ちしても構わないだろう。
「じゃあ、少しだけ」
俺は魔文字を空中に描き、生成したサンダーアローを魔道弓につがえる。
「ほぉ、かっこいいのぉ。早くジョブ開放をしたいわい」
べべ王がまた訳の分からぬ事を言う。チャチャを入れて集中力を乱させないでくれ……。
(標的はあれでいいかな?)
俺は緑の実を付けた木の枝に狙いを定めてサンダーアローを放った。
ヒュンッ……バチバチィ
放たれた雷の矢は木の枝をへし折り、実を地面に落とす。段がなぜか驚いた様子で駆け寄り、落ちてきた実の付いた枝を拾いあげた。
「おお、こいつはすげえな」
たいした魔法じゃないのにリアクションが大袈裟すぎじゃないか?マジックアーチャーが珍しいクラスとはいえ、いくらなんでも不自然だ。
「これは……。私もちょっと試してみますね」
東風は近くにあった一本の大木の前に立つと、目にも止まらぬ速さで腰から下げていた二本のナイフを振るう。
シュッ……
再びナイフが彼の腰に戻ったと思うと幹は真一文字に裂かれ、大きな鈍い音を響かせて大木がスライドしながら傾いていく。
メキメキメキギギギギギ……ズドォォォ……ン
「な!?なにやってんですか東風さん?」
大猿を一撃で倒したイザネも化け物だと思ったが、この東風という男もやはり見掛け倒しではない。出来上がったばかりの果てしなく平らな切り株は、俺の背筋を凍らせるに充分過ぎた。
今更気づく事でもないが、化け物じみた力を持つ人間達がすぐ隣にいて、そいつ等が次に何をするかわからない、何を考えているのか想像もできないというのは本当に恐ろしい。
気持ちの整理すらつかずあっけに取られる俺をよそに、東風はなぜか目を輝かせている。
「ちょっと確認してみたんですよ!
凄いですね、地形や障害物にちゃんと破壊判定が追加されてますよ!以前のバーションでは樽とか木箱しか壊せなかったのに!!」
東風は切断した木の年輪を手で撫でながら、感動した様子で僅かに震えている。
「まさか新シーズンになってここまで進化しているとはっ!
やり過ぎると地形が変わりそうで怖いですが、でもこれで冒険の幅が格段に広がりますよ!」
「そういえば、さっきジジイと二人で試してみたんだがFF(フレンドリファイア)判定も追加されてたぜ。不具合もかなり出てるみたいだが、気合入ってるぜ今シーズンは!」
段が拾った木の枝を放りながら言う。
「マジかよ!」
今度はイザネが目を輝かせた。
「FFありって事はPvP(プレイヤーVSプレイヤー)もできるって事だよな!一度やってみたかったんだあれ」
「PvPとか、そういう乱暴なのは私は嫌いなんですけどねぇ」
東風はイザネとは対照的に肩を落とす。
”FF”も”PvP”も何のことかさっぱりわからないが、”乱暴なのは嫌い”とは意外だった。お試しで大木を切断する大男の言うセリフとは到底思えない。
「カイル!
どこ行ってたのよカイルっ!」
不意に名前を呼ばれて声をした方を振り返ると、ルルがこっちに駆け寄って来る。ここはデニムと別れた場所からまだ距離がある筈だが、恐らくは先ほど東風が大木を倒した音を聞きつけて俺を発見したのだろう。
が、ルルの様子は尋常ではなかった。手にしていたショートソードをその場に落とし、血まみれの手をぶんぶん振るって走り、顔には泣きはらした跡がある。
「デニムに何かあったんですか?!!」
「早く!早く来てっ!」
俺が駆け寄ると、ルルはUターンをして走り出した。余程必死なのだろう、俺の案内してきた怪しい四人組さえ眼中にないようだ。
俺はルルと共にデニムの元へ急いだ。
(!!!!!!ッ)
必死に走って再会を果たした時、デニムは既に死にかけていた。
デニムの鎧は切り裂かれ、胸に付けられた大きな傷がら流れた血が池を作り、ヒュッ……ヒューとかすれるような息が聞こえて来る。また彼の左腕に目をやると、それはあらぬ方向へと折れ曲がっていた。
血だまりの上に降り注ぐピンクの花びらだけが数刻前の美しい光景をどうにか保とうとあがいてはいたが、それに逆らうように足元に転がるヒールポーションの空き瓶達は夕日を反射して周囲を赤く染めるのに一役買っていた。
「ありったけのポーションで治療したのに、血がっ……血が止まらないの!
ここに……大猿がここに来て、デニムは戦ったんだけど……
と、とにかく早くヒールアローを!」
もう完全に冷静さを失っているのだろう。ルルは両手で傷口を塞いでデニムから流れる血を止めようとしていた。デニムが背を預ける大木の幹には大きな爪痕が刻まれていて、大猿が彼女に与えた恐怖と絶望を俺に訴えかけてくる。
俺は急いで魔文字を描きヒールアローを生成した。
「うわっ、傷の表現までエグくなってる……」
後から来たイザネがデニムの傷を見て顔を背けたが、それに構っている暇はない。俺はヒールアローをデニムの胸の傷にめがけて放った。
「なによっ!
全然治らないじゃない!」
ルルが悲鳴を上げる。
「落ち着いて下さいっ!
ヒールアローの効果は長時間持続します。傷が深いと目に見えた効果が出るまで少し時間が掛かる事もあるんです」
「本当だ傷が塞がって来た……」
安堵したルルは笑みで顔を緩めたが、俺の内心は湧き上がる不安に握りつぶされそうになっていた。
(傷の治りが遅すぎる……)
想像してたよりデニムの傷が深いのか?生命力が弱り過ぎて治療魔法の効果が薄くなっているのか?とてもヒールアロー一本では足りない。いや、今の俺の魔力全てをヒールアローに変えて治療してもデニムの一命をとりとめる事ができるかどうかわからないのだ。
俺はさっきサンダーアローを無駄撃ちしてしまった事を悔いていた。
(くそっ、こうなると知っていれば!)
俺は急いで二本目のヒールアローを放とうとしたが、横からひょいとべべ王が腕を伸ばし手に持った瓶の中身をデニムの胸にかける。
チョロロロロ……
「うそ!血が止まってる……デニムッ!デニム!」
その液体は強力なヒールポーションなのだろう。べべ王はデニムの傷が塞がった事を確認すると、残った瓶の中身を今度はデニムの左腕にかける。
シュウウウゥゥ……
湯気が上がり、折れ曲がっていた筈のデニムの腕がまっすぐに戻って行く。
(そんなバカな……)
俺は目を疑った。これ程の回復力のあるポーションは噂にも聞いた事がない。一体どれほど高価なポーションを使ったのだろうか?
……みるみるうちに青ざめていたデニムの頬に赤みが差し、うっすらと瞼が開く。
「デニムっ……あぁ、良かったぁ……」
泣きつかれたルルの声はすっかり枯れてしまっていた。薄目を開けたデニムが、ゆっくりと指で彼女の涙を拭う。
「ありがとうございますべべ王さん!よくこんな高価なポーションを……」
俺はべべ王に礼を言おうとしたのだが、べべ王は俺を無視してデニムとルルの前に立ち胸を張る。
『王であるっ!!』
「は?」
あっけに取られるデニム達を見ると、べべ王はコソコソと俺の後ろに後ずさって距離を開けてから二人を指差す。
「ぷ~クックックックックッ」
※ 挿絵
https://kakuyomu.jp/users/tekitokun/news/16817330657677790969
このジジイは初対面の相手全員にこんな下らない事をやっているのだろうか?もしそうだとしたら完全に病気じゃないか。
段はべべ王のすぐそばで含み笑いを浮かべているが、対照的にイザネと東風は二人からちょっと距離を開けている。やはり恥ずかしいのだろう。
「あ、ありがとうございます」
「あ、あの……ありがとう!ありがとうございます!!」
少し間を開け、ようやく我に返ったルルとデニムが交互に礼を口にする。ルルはやっと俺の連れてきた四人の異様さに気づく余裕ができたらしく、今ごろ目をしばたたかせている。
「……この人達は誰なのカイル?」
「その事についてちょっと二人に相談が……」
俺はそこで言葉を区切ると、ひとまず四人組の方を振り向いて声を掛けた。
「クランへの入団についてパーティで相談したいのですが」
「ええよ。よく分からない事があるなら説明したげるから聞いとくれ」
一通りやりたい事をやり通したべべ王がスッキリした表情で俺に答える。
「はいっ」
俺はデニムとルルの方を向き、大急ぎで相談を開始する。
「あ、あの”クラン”とか”ドラゴン・ザ・ドゥーム”とか”FF”とか”PvP”とか”運営”とか、そういう言葉を聞いた事ありますか?
あの四人は信じられないくらい実力者……というかむしろ化け物じみた冒険者なんですが、言ってる事の意味がまるでわからなくて」
「ねぇ!そんな事よりまだ大猿がうろついてるのよ!あいつここにも来たんだから!
多分3メートルを超える大きさで、爪も牙も鋭くて……デニムを……。
い……今のあたしたちじゃ、どうやったって勝てないわ!早く逃げましょう!」
「あの大猿なら死にましたよ……」
ルルをなだめるように俺はそう告げた。
「あの四人の中の、白い服を着た女の戦士です。一撃で仕留めたの確かに見ました」
「あの人が?あんなに小さいのに……。ほんとに……本当に殺したの?」
「死体は向こうに転がってますよ。頭が完全に潰されてます」
ルルは信じられないというようなポカンとした表情で目を見開いている。無理もない。
「俺が全力で剣を振るっても、あいつの顔に小さな傷を付けるのがせいぜいだったのにな……凄いものだ」
彼の全力でも大猿を追い払うのが精一杯だったのだろう。デニムも複雑な表情を浮かべている。今となっては落とし穴で村人達が負わせたのも軽傷だったと考えるのが妥当だ。
「で、さっきの言葉はなんなんだ?”クラン”とか”PvP”とか俺も聞いた事がない」
「聞き返されても困りますよ。”クラン”っていうのが冒険者の集団の事らしいってくらいはかろうじて理解できましたけど……とにかくさっきから知らない言葉だらけで全然話にならないんです。
あと、クラン拠点と呼ばれる建物がなぜか大猿の縄張りだった場所にあって……」
「それが、森が光った原因なの?」
ルルがデニムとの会話に割って入った。彼女の声からはいつもの張りがすっかり消え去り、か細いその声のせいで儚げな女の子と話しているかのような錯覚に襲われる。
「わかりません。普通の建物ではないのだけは確かなんですが」
「俺にもわからない事だらけだが、彼らが何者なのか見当はついたよ」
そう言ってデニムは俺達を待っているべべ王の前に歩み出た。
「相談は終わったのかの?
で、どうじゃ?わしも無理に勧誘するつもりはないから、断りたければ断っても構わんよ」
「いえ、その前に確認したい事が……」
デニムは四人に向かって問いかける。
「あなた方は、異世界からこの地に召喚された勇者様なのでしょうか?」
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