馬脚を現す
雑談を挟みながらも安全地帯が近付いてきた。
階層を上がりきって安全地帯特有のエフェクトを確認した事でようやくモンスターが湧かない所で一息つけると安堵した。
モンスターはともかく慣れない対人コミュニケーションに疲れたオレは内心ほっと息を吐いた。
「…生命探知して」
「は?」
「お願い」
オレの耳元に囁いたニーヤの言葉を聞いて素直に【生命探知】したのは別にやっても損はないし、その瞳がこれまでにないくらい真摯だったように見えたからだった。
【生命探知】の灯火はさっと脳裏に広がった。ニーヤの言葉の意味が分からなかったのだろう、不思議そうにこちらを見るロペスさんの位置を灯火で示していた。
ロペスさんから身を隠すようにニーヤが背中に張り付いてるのでそのままロペスさんから視線をそらさずにバックステップで距離を取った。
安全地帯の中央寄りにオレとニーヤ、次の階層の入り口付近にロペスさんが立つ立ち位置になる。
「どうされたんですか?」
「……」
驚いたような顔をしてこちらを見るロペスさんは一見なんてこともない、普通の人に見えた。
だが、【生命探知】で引っかかったということはオレに対して敵意があることが確定している。
水鳥さんの【神眼】で解析してもらった【生命探知】の効果は、「オレに対して敵意のある存在を灯火として示す」ということ。
前からたまに人間相手でも反応したりしなかったりしていた本当の理由を知って心底ショックを受けたスキル内容だったが、今それが役に立った。
相手が人間である限り脅しにしかならないが【魔剣製生】で剣を出した。
武器を見て流石にオレがロペスさんに対して臨戦態勢に入ったことがわかったのだろう。顔色が変わった。
「……糞餓鬼、どうして解った」
「……」
「その後ろの糞女のせいか?さっき翻訳されない言葉で何か言ってたがその時俺についてチクりやがったな糞が」
「……」
「手配書から顔も声も名前もスキルで変えたのに気付いたってことは……特殊ジョブか。糞異常者め。これだから糞嫌いなんだよ」
あえて何かを話して情報を与えるような事をするつもりはなかった。相手は何故かやけに余裕そうでペラペラと喋っているが、何か秘策でもあるのだろうか。
姿形を変えるスキルなんて聞いたことがない。基本的にモンスターと戦うために不要なジョブは既存の職業を反映されたもので、その中に自分をの姿形を変える物は知らない。【マジシャン】で一時的な変化はあったがそれはあくまで一時的だし全てを同時に変えられなかったはずだ。
ということは……。
「……貴方も特殊ジョブじゃないんですか」
「おっ、解ってるねぇ。冥土の土産に覚えていきな。アビスに【犯罪王】が出たってダンジョンアウトから回復したら言っていいぜぇ」
「【犯罪王】……」
【犯罪王】。とんでもない有名どころに流石に驚いた。
その名の通り犯罪を犯して【犯罪者】になりながらも捕まることがなく何年も犯罪を繰り返した超級犯罪者だ。
この現代で【犯罪者】落ちした人間が捕まらないなんてありえないと言われていたが、そのあまりの知名度の高さについに呼ばれ始めた呼び名が犯罪王。まさか【勇者】やオレの【死神】のように大衆認知で特殊ジョブに至っていたのか。
特殊ジョブのジョブ名からして明らかに犯罪に特化した対人特殊ジョブだろう。
どんなスキルが生えてるか解らないな……。
というか、明確に敵対行動が取られていない今オレから先に攻撃したらこちらが【犯罪者】落ちする可能性があるのがヤバい。
【犯罪者】に対してはスキルを使っても問題ないという都市伝説があるが、それはジョブ【警官】だけの可能性もあるから下手を打てない。
「【犯罪王】なんて呼ばれちゃあいるが、【俺は無罪だ】」
何かが変わった。
肌で感じる圧というか微細な違いでしかないのだが、先程までの【犯罪王】と何かが変わった。
もしかして何かスキルを使われた?
水鳥さんの勧誘のスキルのように特殊ジョブのスキル名は基本の名付けルールからそれたスキル名になっていることがありえる。
「【死神】くん、今君から攻撃しちゃ駄目だよ」
「ニーヤ」
「おいおい、どーした?ビビってんのか?」
「今その男は無罪判定だから君から攻撃したら君が犯罪者になっちゃう」
「……つくづくうるせぇ餓鬼だな、まずはお前から殺してやろうか」
【犯罪王】の反応からニーヤの言う通りらしい。無罪判定……厄介なスキルだ。道理で捕まらない訳だ。ダンジョンルールによって【犯罪者】の認定制度が出来てからダンジョンのもたらした【善悪の線】を信用しきっている。【善悪の線】を超えられるからこの人は【犯罪者】のはずがない、そういった思い込みを利用して逃げおおせてきたのだろう。
無罪判定の相手を攻撃することも出来ないオレと睨み合いになる【犯罪王】。
【犯罪王】がどんなスキルを持ってるのか解らないせいで下手にこちらからアクションが取りづらい。
このまま千日手になるかと思われた時、【犯罪王】が動いた。
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