第二形態

 砕いた魔王のシルエットがぐにゃりと歪む。

 今のうちにもう一度攻撃が通るのか試しに攻撃してみたが剣はすり抜けてしまった。これは変身中は無敵ってやつか。


「形態変化ってこんな感じなんですね……」


 そういえば配信してたなと思い出したオレは申し訳程度でも視聴者に向けて話しかけた。

 目を離したら何が起こるかが怖いので到底コメントなんて読むことは出来ないので、今コメント欄がどうなっているかは分からないが、忘れてないアピールだけはしておく。


 魔王のシルエットは幼児のこねる粘土のようにぐにゃぐにゃとシルエットが歪んでこねてを繰り返していたが、ほんの瞬きの間に一瞬縮小したと思ったら、あっという間に膨張する。

 そうして、気がつけば眼の前に巨大な闇色のドラゴンが居た。西洋系の二足歩行もできるドラゴンは巨体を起こした状態でこちらを睨みつけている。

【王眼】で見たがステータスに大きな変動はない。速度のみ図体の変化で落ちているが、装備がなくなっても同じステータスなのがある意味変動かもしれない。相変わらず魔力が∞表記なのでこれはブレス系統の攻撃を絶対に撃たせてはならないということだ。

 形態変化中ずっと練っていた魔力で挨拶代わりに顔面に一撃剣閃を放ったが、見えない壁に阻まれるように魔力がかき消えた。


「ドラゴン系特有の対魔力までしっかりある、と」


 965階のエンシェントドラゴンくらいなら対魔力貫通して輪切りに出来る威力だったのだがこうもあっさり無効化されるとは。

 人型というサイズ的ハンデのあった第1形態とバカデカ対魔力ドラゴンどっちのがいいかと聞かれたら、正直どっちもどっちだ。

 人型の時は攻撃スピードと手数が厄介でオレが魔力を練るスピードが足りてない分手間だったが、逆にバカデカ対魔力ドラゴンは図体の関係で動きが少し遅くなるでかい的ともいえる。だがこちらが放つ遠距離からの魔力攻撃は対魔力に掻き消されるので、結局近接戦闘が必要になるのにデカすぎてこちらの一撃が相対的に小さくなる。

 斬撃とかの遠距離で対魔力の鱗を貫通出来ない場合とにかく魔力で全身強化して剣という名の鈍器を叩きつけて衝撃で身体の内側から破壊するくらいしか手がない。

 体外に魔力放出しなくていいならより効率よく体内魔力の運用ができるし、身体強化のみならかなり楽なのでスキル外スキルの操作という面では時間はかかるけどある程度のラインまである種楽なモンスターでもある。しかもオレの武器はスキルで生み出した、完全な魔力の産物だ。

 普通の探索者なら魔力を剣の外側に纏わせることしか出来ないだろうが、この剣なら全てが魔力次第で直接剣自体の強化ができるというアドバンテージがある。

 オーガキング戦で過剰放出した魔力でひび割れるくらい強化が出来たのも、剣自体がオレの魔力産だからだ。

 あの時と比べ物にならないスキル外スキルの効率で強化を行える今、昔は苦手だったフィジカルゴリラステータスゴリ押しモンスターも多少楽になった。


 まぁ当然このドラゴンが大人しくサンドバッグになってくれるはずもないのでそんな簡単な話ではないが。

 眼の前のドラゴンがこちらに向けて手を振り下ろす。到底受ける事ができない面での攻撃が振られ、直撃を横に飛んで避けたが耐え難い風圧という副次効果がワンテンポ遅れてやってきた。

 結局デカくて強いモンスターが最強理論の体現というわけだ。


 直撃を食らわずにかつ相手にダメージが入る程度の魔力を練って攻撃する、言葉にすれば簡単そうにも思えるが相手が巨体の割に素早く動く山のようなものだと思うと途端にげんなりしてくる。


「まぁ、根気よく行きましょう」


 ドラゴン撲殺作業に必要なのは根気だ。とにかく根気で攻撃する必要がある。

 活動限界が来る前に倒せるといいのだが……。


 巨体を振り回されて到底近付けなくなったり、こちらに向けて無限のブレスを撃ってきたり、思い出したように全体魔法をぶっ放されて焼け焦げた身体を治すためにポーションを飲まされたり……。

 とにかく地味で根気のいる戦いだった。

 だが散々塩漬け依頼で鍛えた根気がこの程度で負けない事をオレは証明しきった。

 時間にして5時間くらいぶっ通しでドラゴン叩きを繰り返していたが、途中で足の骨を砕ききってからはあっという間に進んだと思う。

 足を使えなくなったドラゴンは踏ん張りが効かなくなり素早さが半減したので魔法攻撃偏重になったが、ポーションがぶ飲みで耐えきった。


「ドラゴン叩き、完了です」


 全身粉々になるまで叩き潰した元ドラゴンが形態変化の前兆を見せたことで勝利宣言。


 次は問題の第3形態。

 勇者唯一の汚点とされる魔王討伐戦の元凶にお目見え頂こう。

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