ダンジョンアウト



 草刈り開始から9日経った。

 今回はとにかく作業効率のみを重視して睡眠休憩なしのぶっ続けなので正直ダンジョンアウト後のフィードバックが怖い。

 エナジーバーだけは食べているので空腹は大丈夫だと思うが、きっと死ぬほど眠くなるだろうな……。

 まぁどちらにせよダンジョンアウトした場合は全身から力が抜けて何も出来なくなる。兄貴に連絡して迎えに来て貰う予定だ。


 現在地は845階層。

 200階層辺りから出てくるモンスターにスキルが通らなくなってきてスキル外スキルとか【強者の振る舞い】系の数少ない相手を問わずに発動可能なスキルを使ってやってきた。

 スキル外スキルを多用するということはそれだけ魔力を消費するということで、もう何回発動したか覚えていないがそろそろ体内魔力が限界に近付いている実感がある。

 活動限界でのダンジョンアウトは初めてなので、正直少し不安だ。


「グォォォッ!」


 845階層に出現するモンスター、キマイラの尾を切り飛ばす。

 再生能力が半端ではないのでそのまま返す刀で腕、足と切り飛ばしてから瞬間的に出力を上げて胴体を両断。

 再生しようと一瞬蠢いた後、限界を迎えたキマイラのドロップがアイテムボックスに入る。

 ちょっと一息休憩を、なんて思っても即座に別のキマイラとエンカウントする。しかも今度は2頭同時ときた。

 腕を噛みちぎろうと飛びかかってくるキマイラをいなしながらも右手側のもう一体の位置を警戒して背後を取らせない。

 800層までは他のS級の方々が草刈りをしてくれていたのでここまでの頻度で襲われる事はなかった。敵の強さが上がれば上がるほど独力の限界を感じる。


「クソっ」


 3体目のキマイラが真後ろにリポップした。深層になればなるほどリポップ速度が尋常じゃなくなっている。

 一重にキマイラと言っても同じキマイラでも混ざり具合が違うせいで安易に同じ対応ができないのも厄介だ。

 これ以上の増援が来る前にロスは承知の上で魔力を練る。

 剣を起点にするのが一番効率がいいのだが、囲まれている現状剣ではなく周囲に広がる刃をイメージする。

 杖などの触媒もなしにスキル外スキルでの魔法(魔力の塊で無理やり物理現象を起こす)は本当に効率が悪いのでオススメしない。

 3体が示し合わせたように飛びかかってきた瞬間、針千本をイメージして周囲に槍状の魔力現象を発生させる。

 串刺しになって宙に浮いたキマイラの首を落としてようやく落ち着けた。


「……そろそろ限界が来そうですね」


 9日ぶっ通しの配信のせいでアクティブが減っているがまだ視聴者はそれなりにいる。

 さっきの魔法(偽)のせいで殆どすっからかんだ。

 これ以上の継戦は不可能だろう。


「ダンジョンアウトまで、と配信タイトルにありますがもう魔力が殆ど無いのでこのまま時間経過するだけで活動限界が来ると思います。ただ、今のリポップペースだとその前に接敵してしまうでしょう」


 戦闘を回避しようにもぶち抜き型のダンジョンなせいで隠れる場所もない。 

 プライバシーテントでの緩やかな自殺をしてもいいが、とにかくモンスターによって倒されることだけは回避しないといけない。


「皆さんもご存知だと思いますが、モンスターに倒されて名前付きネームドモンスターの発生原因になってはならないので迅速に自殺する必要があります」


 旧東京1番ダンジョンの845階層で生まれる名前付きなんて悪夢でしかない。

 ガーディアン並の化け物が生まれてしまったなんて洒落にならないので絶対に倒されてはいけない。


「ということで最後の味噌っかす食らえっ!」


 真横にリポップしたキマイラに向けて残された魔力全部を使った一撃が入った。

 爆発するキマイラとオレ。

 シュールすぎる絵面だが一人称視点なので映らないことだけが救いだ。




 ーーーけー




 気がつけばそこは渋谷のスクランブル交差点跡地だった。

 9日分のフィードバックとダンジョンアウトによる全身の衰弱のダブルコンボで身体がピクリとも動かない。


「……、えー、ダンジョンアウトしました。長時間の配信にお付き合い頂きありがとうございました。もしよろしければなんか色々登録よろしくお願いします……」


 疲労困憊のまま挨拶をなんとかして思念操作で配信を切った。

 久々のダンジョンアウトきちぃ……。

 リターン無いからダンジョンアウトで帰ろう、くらいの安易な考えだったけどこれだけ反動が来るとダンジョンアウトしたくなくなるな……。

 とりあえず兄貴に連絡したので迎えが来るまで空でも眺めていよう……。



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