大王のンダイン
オーガキングの起き上がった姿は思ったよりも損傷が少ない。
ただ、頭の真上に置いた課金砲が爆発したというのに一番近い位置の瞼や耳の部位欠損が無いのは流石におかしい。
これは恐らく何らかの装備効果か変異の影響だろう。
オーガキングは起爆時にズレたオーガの牙で作られた王冠(推定大王の証)を被り直して周囲を警戒した様子で彷徨く。
目があまり良くないオーガ系故、しきりに鼻をひくつかせて周囲を確認して居たが漂う死臭にようやく異常に気が付いたようだ。
中央の高台から飛び降りるとコミュニティの家を覗き込むオーガキング。
ぐるりと一周して、自分以外誰も生存していない事を理解したオーガキングは天に向かって怒りの咆哮を上げた。
「グォォォォォォォォッ!!!!」
そして、当然そんな隙を見逃すことはない。
魔力で強化した脚力とサイレントブーツで背後から足音を立てずに一気に距離を詰めると振りかぶった剣をあえて横にしてオーガキングの肩辺りに向けて全力でスイングした。
「グギッ!」
衝撃で地面にめり込む勢いで下がる上体をなんとか踏ん張ろうと下半身に力を入れるのを横目にオーガキングの頭へ手を伸ばして大王の証を奪い駆け抜ける。
奪い取った大王の証は再度装備されると厄介なので駆け抜けた先で海側に蹴り飛ばした。ナイスシュート。
モンスターが所有権を持っている装備をアイテムボックスに入れることはできないが物理的に奪い、手が届かない所にやることは出来る。
鑑定出来ないオレは効果の詳細まで解らないが、オーガキングにしても異常な耐久の元があの装備の可能性があったのでダメージよりも優先して剥ぎ取った。
「グガァァァッ!」
流石にこれだけ好き放題すれば流石に検知能力の低いオーガ系であってもバレる。
オレの姿を発見したオーガキングは怒りに血走った目をギョロつかせ唸り声を上げる牙の間からは赤い泡が吹き出している。
暴力の塊が怒りの衝動に身を任せ飛び掛かってきた。
触れるもの全てを砕く剛腕がオレを掴もうと蠢く。
S+++もある筋力で掴まれたら間違いなく触れただけでバラバラにされるので間違っても触れられてはならない。
即座に反転したオーガキングは理性の欠片も残って居ないのか高台そのものを破壊しながらも遮二無二オレに向かって手を伸ばす。
「ガァァァァァァァッ」
伸ばされる腕に向けて魔力を込めた一太刀をお返し。
課金砲でろくな傷がつかなかった腕から血が出る事を確認すると素早さでは勝るオレは砕けそうな足場を蹴って再度距離を取る。
完全に高台を破壊し尽くしたオーガキングと更地になりかけているコミュニティの跡地で向かい合う形で距離をリセットした。
いくら夜とはいえこの調子で騒がれると他のコミュニティのオーガも気付いてしまうかもしれない。迅速に始末する必要があった。
再度こちらに向けて直進の兆しを見せるオーガキングの足元に【インスタントトラップ_沼】を投げつける。
完全に理性を失ったオーガキングは足元の変化なんて気にもしないで沼に自ら踏み込んで行く。
巨体相応の重みでズブズブと足を取られるが並外れた力で無理やり動けてしまうオーガキングは問題として認識出来ないのか尚も愚直にオレに向かってくる。
追い打ちで【瞬間氷結剤】を沼に向かって投げ込めば、一時的に下半身を沼に飲まれたオーガキングの簡易的な拘束具になった。
勿論その程度の拘束が完全に効く訳ないが、氷を砕ききって再度動き出すまでの僅かな時間こそが今欲しかった。
【盛者の理】で一時的なバフを掛けて増加させた力を【力の代償】で更に一点特化させて、今この瞬間だけ普段の倍近い出力を得た状態になる。
その状態で全力で練った魔力を剣に集中。
ビキビキとひび割れるような音がする剣が崩壊する直前、氷から脱出したばかりのオーガキングに向けて水平に薙ぎ払った。
「はぁっ!!」
胴体付近が消失して音もなく両断されたオーガキングが動こうとしてようやく寸断された事に気付いた。
腕だけで尚もにじり寄ろうとするオーガキングの首を砕けかけの剣で切り飛ばしてようやくドロップアイテムが入ってきた事により絶命を確認した。
ちょっとしぶと過ぎる……。
こんなんが後2体最低残ってる可能性があるとかマジ?
【盛者の理】と【力の代償】のデメリット効果で急速に抜けていく力に立っていられなくなって地面に座り込んだ。
デメリットキツイって……。まともに活動できて10秒の瞬間的な強化の為にその後30分動けなくなるのは明らかに釣り合ってない……。
突然座り込んだオレに心配するコメント欄に一言だけ告げる。
「とりあえず一勝です。30分休んだら移動します」
万が一に備えて【安全地帯】の杭を地面に差して仰向けになる。
街灯も何もない島から見る星空はとても綺麗だった。
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