配信4回目


 ショート動画のバズを活かす為にもそろそろ配信4回目をしようと思う。

 今回はついに普通の草刈り依頼となった。

 草刈り依頼は単調で飽きが来やすいがそれでも今までの配信についてきてくれた視聴者なら多少はマシだと信じて配信に乗せることにした。


 配信設定、一人称視点、容姿非表示、音声オン、前回の反省から視界不良オフ、酔い防止、配信タイトル「【食事中✕】五得市19番ダンジョン草刈り依頼」で配信予約を設定。

 フィールドの対策として前回のダンジョン調査の時に使っていた装備を一式着込んでいる。あのときのガスマスクと手袋とブーツは実質この五得市のダンジョンの草刈り依頼用に集めたものだった。


 ダンジョンの入口も見るからに、といった禍々しい見た目をしていて何度か依頼を受けて慣れていてもテンションは落ちる。

 ダンジョンに一歩踏み込んだだけでぬかるんだ地面の感触が伝わってきた。


「前回も見てくださっている方も今回からの方もこんにちは、塩漬けちゃんねるです」


 配信通知を設定してくれている人がポツポツと現れた。

 しかし真っ先に全面に写ったダンジョンに全てを察する人が続出する。

 五得市19番ダンジョンで草、食事後でよかった、タイトルで察してた、罰ゲームじゃないのに来たんですか!?とまぁ負の意味での知名度の高さに苦笑いしてしまう。


「はい、コメント欄も察している方が沢山居ますが臭い、汚い、キツイの3Kで有名なあのD級ダンジョンの草刈り依頼です」


 五得市19番ダンジョン、その特徴を端的に示すなら毒沼となる。

 耐性スキルが無いと継続的に毒の状態異常にかかり、足元はぬかるんだ毒沼なせいで踏ん張りも効かないし泥はねしまくる。

 ドロップについては逆に良い部類なのだがこのダンジョンに入った人は10メートル離れてても解ると言われるほどの悪臭にダンジョンに入ること自体をドブさらいと呼ばれる程の嫌われ具合で余程金銭的に切羽詰まっていないと来ないダンジョンとして有名だ。


「今日は五得市から依頼を受けて討伐作業を行います。五得市19番ダンジョンにつきましてはいつでも視聴者の皆様の来訪をお待ちしています」


 固定コメントを作ると同時にもう草刈り依頼を出されなくなってくれないかと無理は承知でコメント欄に呼びかけてみる。

 案の定コメント欄は、無理です、ちょっとそれは…、頑張れ!の合唱だった。

 万が一このダンジョンがスタンピードを起こしたときの被害が尋常ではないが誰も草刈り依頼を受けたがらないせいで、市からの依頼なのに通常より依頼料が少し盛られている位には不人気依頼かつ不人気ダンジョンだ。


「ところで皆様は草刈り依頼のやり方をご存知ですか?」


 存在を知っていても受けたことがある人は少ないのではないだろうかと思い聞いてみればやはり具体的な作業は知らない人が多そうだった。


「大きく分けて二通りのやり方があります。まず1つ目は現れるモンスターを手当たり次第に狩り続ける事です。どの程度かは何度もこの手の依頼をやっていけばわかるようになるのですが、明らかにモンスターのリポップが遅くなる位です。そしてもう一つの方法が……ボスマラソンです」


 ポイズントードの群れを横目に魔力で作った足場を使って下層へと向かう。

 一応すれ違いざまに始末できるものは始末して行くがボスマラソンの方が効率がいいので適当だ。


「ボスはボスエリアに居続けると15分程でリポップしますが、そのリポップ感覚が30分を超える位になると達成です。なのでまずボスエリアに向かいます」


 走って、走って、走って、ボスエリアに到達したのが配信開始から20分後。


「魔力操作で足場を作れないうちは浮遊が付与されたブーツなどが必須です。このダンジョンは本当に沼なのでうっかり対策なしに入ると永遠に溺れて死に戻りになるので」


 このダンジョンは基本的に足場が悪く普通に歩いたときは倍以上の時間を取られるからか広さは通常の石壁タイプのダンジョンに比べると狭めになっている。

 正直この後のボスマラソンで使う魔力よりも一度もまともに地面を歩かない為に消費した魔力の方が圧倒的に多い。

 低級の頃、初めてこのダンジョンの草刈り依頼を受けたときは今ほど魔力の活用に慣れておらず、魔力を足場にするという発想も無かった。

 しかし絶対にこの毒沼には落ちたくないという意思だけでスキル外スキルをめちゃめちゃ練習した苦い思い出が頭をよぎる。擬似的な足場を作れたという成功体験から魔力を消費して発動するスキルと同じ事がスキル外スキルで出来ないはずがないという思い込みで割と何でもスキル外スキルで解決するようにし始めたのもその頃だ。

 今現在も強敵相手ではスキル外スキルに頼りっぱなしのオレからしたら必要な経験だったがS級になっても嫌なものは嫌なので全力で沼を避ける。


 そうしてたどり着いたボスエリアは救済策のつもりか、中央にある毒沼以外は少し柔らかいがちゃんとした地面になっている。


「エリアボス、キングポイズントードです」


 沼の中から現れた巨大なカエルがじろりとこちらを見てきた。

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