ちゃんねる登録者数1000人記念ショート動画

 前回の配信にて配信者としてやってはならない事を連発したショックで凹んでいたが、いつの間にか配信者としての一つの関門であるちゃんねる登録者数1000人超えを達成していた。

 前回の謝罪と感謝も兼ねて、今回の配信はちゃんねる登録者数1000人記念として短いが感謝の場にしようと思う。

 といっても視聴者は何をしたら喜んでもらえるだろうか。

 配信者から視聴者へと返すことができるのは基本的に配信のみ。アイドル売りをしているパーティなどは歌やダンスで感謝を伝えたりしていたがオレはそういったクリエイティブな特技はない。

 何かヒントが無いか、なんとなくステータスからダンチューブを開いて配信欄を眺めていたところ莫大な視聴者数を集めているちゃんねるが目に入った。

 配信タイトルは、「【フロストドラゴンスケイル】ガチャ回50連目〜」というシンプルなタイトル。

 あの人だろうなと思いながら開いてみたら、配信していたのはやっぱりサラマンダー田中さんだった。


『はぁっ……!はぁっ!あと一回分の素材しかない……もう剣も盾もサークレットもブーツもガントレットも出ないでくれ……頼むっ!!!』


 案の定沼っているようで、配信画面のガチャカウントは68を示しているが未だに目的のアイテムが出ていないようだった。

 もはやプライドも保てないのかサラマンダー田中さんはガチャに土下座をしてなんとかフロストドラゴンスケイルを願っている。


『あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!』


 しかし現実は無情、泣きの一回もフロストドラゴンソードの排出で終わったようで悲痛な声を上げ倒れ伏すサラマンダー田中さん。

 コメントは沼るサラマンダー田中さんに喜ぶメシウマ民と本気で心配している層とで二分されている。

 視聴者として見ていると麻痺してしまうが、ガチャ68回分の素材ドロップの為にどれだけダンジョンアタックしたのかを考えると正直ゾッとする。

 マジ泣きする成人男性を見続けるのがあまりに居た堪れないのでそっと配信画面を閉じた。


 配信画面を閉じたあとふと自分のステータス欄に表示されているアイテムボックスに視線をやった。

 最近換金すると税金が発生して面倒だからとドロップアイテムを溜め込んでいた。

 だが先日のように泊まり込みでのダンジョンアタックをしているとドロップアイテムはそれなりに貯まる。


「1000人記念にドロップアイテム1000個ガチャ配信でもするか……?」


 溜まりに溜まったドロップアイテムはゆうに100を超えているし、どうせならみんな大好きガチャ配信と1000人記念でちょっとしたお祝いにはなるだろう。

 思い立ったが吉日、ガチャをしに行こうと七門市のギルドに向かった。



 地元のギルドなこともあり顔見知りの職員さんが沢山いるのでリアルタイムの配信はできない。

 最強さんのような度胸がないので独り言状態の配信はダンジョン以外でやる勇気はない。

 そのため、今回は音声は後付で動画の撮影とした。


 配信予約ではなく動画撮影の選択にしていつもの一人称視点、身バレ防止、音声オン状態で撮影開始する。

 装備変換器は特定のアイテムを狙って回す単発モード(必ずドロップ素材を使用した装備がでる)と何が出るか完全にランダムな複数投入モードがある。

 サラマンダー田中さんが爆死していたのは単発モードで、今回オレがやろうとしているのは複数投入モードだ。


 装備変換器にアイテム欄のドロップ品を適当に投入して、投入表示が1000になったタイミングでストップする。

 複数投入モードは俗説だが投入品の量や質に影響されるとされているが、これだけ大量に投入すればハズレポーション一個なんてオチにはならないだろう。

 投入完了のボタンを押して、点滅する装備変換器の排出口に視線を向ける。


 チカチカと点滅したあとに(こういう演出があるせいでガチャ呼ばわりされる)、排出口に現れたのは光も吸収するような不気味な輝きを放つ真っ黒なピアスだった。


 どうもそれなりに当たりっぽいので動画としてはまぁ良かったのではないだろうか。


 ところで今更だけどオレ、【鑑定】使えないからこの装備が何なのか全く解らないんだが……。

 面倒だがそのまま適当なドロップ品と一緒に買取カウンターに持っていって秘技、売ろうと思ってたけどこのピアスだけはやっぱ辞めまーすをするしかない。

 自力で【鑑定】もできないクソ客で本当に申し訳ない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る