七門市28番ダンジョン
ダンジョンは何処に生えて来るのか、正確なルールは未判明だが概ね人通りの多いこところに出来やすいという推察はされている。
実際地方都市と比べると都会と呼べる街にはどんどんダンジョンが生えてくる。
しかしどこに生えるのかは結局ダンジョン次第というわけで、生えてほしくない場所にも生えたりするのだ。
七門市28番ダンジョンもまたその生えてほしくない所に生えた空気の読めないダンジョンである。
モンスターが消えたダンジョンを全力疾走する事約10分後、楽想市14番ダンジョンから抜けたオレは市役所の人に駆除報告をして依頼料の振り込みについて話をしたら帰宅する。
ダンジョン崩壊まで時差があるせいで即日即金で払ってもらうことはできないが、後日完全崩壊を確認した後に振り込まれる契約だ。
交通網が発展した現代、泊まるほどの距離ではない為地元に向かう電車に乗って揺られること5分、地元七門市に帰り着いた。
何度も歩いた帰り道を何事もなく辿る。
住み慣れた我が家が視認出来る程に近づいた頃、馴染み深い黒い渦が見えてテンションが落ちた。
「……クソダンジョン滅べ」
オレの家の玄関の真横にぽっかりと開いた門型のダンジョンの入口。いつ見ても忌々しいそれを睨みつけるも、睨みつけただけでは消えてくれないのは当然のこと。
七門市28番ダンジョンは人通りの多い住宅街に突如湧いたダンジョンで、オレが日常的に潜る中ではかなり旨い部類のダンジョンだ。
その旨さから、明らかに邪魔な位置に生えているというのに駆除させてもらえないクソダンジョン。昔から七門市28番ダンジョンに入りたい探索者の騒音や廃棄されたゴミに悩まされてきた我が家からしたら本当に忌々しいダンジョンだ。
オレが探索資格を得るまではそれなりに旨いダンジョンの一つとして探索者掲示板にも乗っていた。
今は全く
「今日も日課、やってくか」
黒い渦に飛び込むとまず【生命探知】。
楽想市14番ダンジョンと同じ石壁タイプの迷宮型であまり広くないダンジョンにポツリポツリと命の灯火が灯っているのを感じる。
脳内のマップに従ってそのまま全力疾走し接敵すると、灯火を根こそぎ刈り取っていく。
七門市28番ダンジョンは複数種類のモンスターが出現するが、まるで実家のように慣れ親しんだオレは灯火のサイズや揺れ具合でどのモンスターか解る。
フロア内に反応が湧かなくなるまで作業を繰り返すと下の階層に移り以下省略。
全てのフロアでモンスターが湧かなくなった事を確認すると最後の締めにボスエリアに入ってエリアボスが湧くのを待つ。
「オオオオオォォォォ………」
おどろおどろしい異形の剣士が現れるが、もう何百回も戦った相手だ。もはや目を瞑っても倒すことができる。
一応難易度としては楽想市14番ダンジョンと同じ C 級だが、慣れきったオレはスキルすら発動せずに駆除した。
まだダンジョンに余力があるのか確かめるためにそのままエリアボスのフロアでリポップを待つ。
15分経っても異形の剣士が現れない事を確認するとようやくダンジョンから出て、すぐ真横にある自宅の玄関に入った。
「ただいまー」
「おかえり」
今日の夕飯はカレーのようだ。
先日潜ったダンジョンのドロップ品のお土産、七不思議のカレー粉を使っているのだろうカレーとは思えない複雑な香りがする。
美味しそうかと聞かれると微妙な気分になりそうだが高ランクダンジョンのドロップなのできっと美味しいはずだ。
「これ、今日の迷惑料ね」
「またぁ?最近めっきり探索者も来なくなったしもう良いのに」
「いや、弱らせるの辞めるとまた探索者が来るようになっちゃうから今更辞められないよ」
七門市第28ダンジョンでドロップしたドロップ品を丸ごと渡すとすっかり呆れたような顔をされる。
母さんはもう気にしてないと言うが、全盛期は夜中でも探索の成果に騒ぐ探索者に睡眠妨害されたり適当に捨てられたポーションの瓶に残っていた液体を吸った雑草の大繁殖など数々の迷惑を被ったのだ。
駆除出来ないなら駆除寸前まで搾り取って、わざわざ行く価値の無いダンジョンにするくらい当然の報いだろう。
自己研鑽と塩漬け依頼以外で行く数少ないダンジョンだが、行くたびに枯れるまで搾り取って迷惑料として両親に渡している。
いい加減オレも兄貴も大きくなったし、今度ドロップ品を売った金で旅行に行ってくれと伝えてある。
オレは飛行機に乗れない(ステータスオープンが必要になる為)が、結婚して子供が出来てから行けてない二人には海外旅行にでも行ってほしい。
元々旅行好きの両親だったのでオレの出来る数少ない親孝行だ。
家族全員での旅行はまともなジョブになってからの楽しみとして取っておく。
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