第2話 初戦闘

 僕と星咲すずこが草原を西に進んでいくとツノを生やしたウサギ型モンスターを見かけた。モンスターの頭上にはツノウサギと表記されている。


「少年、戦闘だ!」

「エンカウントしてませんよ?」

「もう! ノリが悪いな」

「すみません」

「チュートリアルしてないんでしょ? だったら私が戦闘を教えてあげるわ」


(推しに!? これは願っても叶ったり!)


「お願いします」

「まかせなさい。少年は剣士タイプなので剣で攻撃よ」

「僕って剣士なんですか? でも剣を持ってませんよ」

「たぶん収納されてるんじゃない? 視界右上端に四角いマークがあるでしょ。そこを指でタップするの? こんな風に」


 星咲すずこは指で右上の虚空をタップするように動かす。

 すると星咲すずこの前面にクリアブルーの板が現れた。


「これはメニューボードと言って、武器やアイテムの取り出しや収納、その他設定機能を持っているの。やってみて」

「はい」


 僕は視界右上端の四角いマークに指を……。


「あ、あれ? 逃げる?」


 視線を動かしてしまうので四角いマークが右上へと移動してしまう。


「初心者あるあるだね。目線は前に。そしてさっと指を動かしてみて」

「はい」


 なんとか四角いマークをタップすることに成功。クリアブルーの板が僕の目の前に現れる。


「次はメニューボードから装備をタップしてごらん」


 言われた通りにタップすると画面が変わり、僕の全身像とその隣に武器、防具、アクセサリー、スティグマの欄がある。


「武器をタップすると所有している武器が現れるわ」

「はい。鉄の剣があります」

「それをタップして装備するの」


 鉄の剣をタップすると『YES/NO』が現れ、『イエス』をタップ。


 すると左腰に鞘に収められた剣が装着された。


(重っ)


「さあ、それであのツノウサギを倒すんだよ」

「分かりました」


 僕は剣を鞘から抜いて構える。


「どうしたの? フラフラだよ?」

「これ結構重いですよ」

「何言ってるのよ」


 なんか呆れたように言われるけど、本当に剣が重い。


 フルダイブ型VRMMOってこんなにリアル感があるのか。それとも初心者だからステータスが低くてなのかな?

 そんなことを思いつつ、僕はよろよろとツノウサギに近づいて剣を叩きつけるように振るう。


 ガツン!


 残念にツノウサギが避けてしまい、剣は地面にぶつかった。


「こらー、マーサーヒーロー! ちゃんとやれー!」

「やってますぅー」


 その後、もう一度剣を振るうがなかなか当たらず、逆にツノウサギに右脚の脛をツノで突かれてしまった。


「いったー!」


 僕は剣の柄を離して、両手で突かれた右脚の脛を押さえながら地面をゴロゴロする。


「何痛がってるのよ!」

「だって痛いんだもん」

「そんなに痛くないでしょ! 大袈裟!」

「いやいや、痛いですよ。まじで」

「ほら早く!」


 ガブリッ!


「痛っ! 噛まれた! 離れろ!」


 次は右のブーツ先をツノウサギに噛まれた。


 僕は脚を振って、ツノウサギを振り払う。

 振り払われたツノウサギはコロコロと転がり、仰向けになる。


「チャンスよ!」

「はい」


 僕は急いで剣の柄を掴んで、ツノウサギの腹に剣先を突き刺す。


 ズブッ!


(うっわー。この感触、えげつな)


 肉を、内臓を剣で突き刺していく感触がなまじリアルすぎて気持ち悪い。


 そしてツノウサギは死んだ。黒い灰となり、散り散りなって虚空に消える。


 最後に赤い石が残った。


「これは?」


 僕は赤い石を摘んで星咲すずこに聞く。


「店でゴールドに変換するの」

「へえ……あっ、消えた」

「リュックの中に自動に入ったのよ」

「リュック……メニューボードですか?」


 確かメニューボードにリュックという項目があった。


「そうそれ……って! いったー!」


 ツノウサギの別の個体が星咲すずこの左ふくらはぎを噛んでいた。


「ちょっと! 痛いだろ! どけ!」


 星咲すずこはツノウサギを掴んで無理矢理引き離し、地面に叩きつける。


「マサヒロ!」

「はい!」


 僕は剣でツノウサギを叩き切りました。

 そしてまた赤い石を残してツノウサギは消えました。


「いったー……って、嘘! 血が出てる? なんで? ありえないでしょ?」

「そりゃあ、噛まれたら血は出ますよ」

「いやいや、ゲームだよ。血なんて出ないよ。それにめっちゃ痛いし。何これ? え? どういうこと?」

「と、言われても自分は初めてのゲームなので」

「そう。……やっぱり、おかしいわ。アバターはいつもと違うし。妙に生々しいし」

「生々しい?」

「うん。実感があるみたいな」


 星咲すずこは拳を握ったり、開いたりする。


「あと配信もできないのよね」

「配信してたんですか?」


 うっかり忘れていた。彼女はVtuberでこのゲームも配信していたんだ。


「だーかーら、配信ができないの」

「できてないんですか。良かった」


 危うく自分の情けない姿を世界中にお披露目されていたところだった。


「なぜか撮影できないのよね。それにログアウトもできないし」

「え?」

「始めた時にアクシデントと思って、一度ログアウトしようとしたらできなかったのよ」

「それは本当にアクシデントですね?」

「でしょうね。本当、アクシデント多すぎて困るわー。運営もさっさと復旧しなさいって感じね」


 星咲すずこは溜め息交じり言う。

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