第2話 クーリングオフは、出来かねます。

拝啓、俺を育ててくれた兄上様。



貴方の弟は、今、人生最大の危機を迎えています。



貴方の弟は、


弊社会社の社長、エドワード・アルバーンと言う男性に夫となって欲しいと言われました。


弟は困惑しています。



たった一度です。



彼女に振られて、自棄酒して酔っ払っていた時にたまたま出会っただけなのです。



まさかそこから結婚を迫られるなど思いもしませんでした。



あの時は本当にどうかしていました。



後悔してもしきれません。



一夜の過ちだったのです。



本当にそれだけだったのです。


兄上もありますよね?



そんな経験ありませんか?



それなのに……、なんで、なんで……なんでなんですかぁあ! あぁぁぁぁぁあ!


何で!自分の会社に勤めてる社長と一夜の過ちを犯してしまったのかぁぁあ!


うあぁぁぁぁぁぁあ!


あぁぁぁぁぁぁぁあ!


あぁぁぁぁ!


やばい!


もうやだ!


やだよ! もう会社辞めたい!


家に帰って引き籠りたい!


いやいやいや! 無理だから!


家賃どうすんだよ!


食費と光熱費と水道代と電話料金とネット料金と税金と保険と年金と住民税と国民健康保険料と国保と介護保険料と後期高齢者医療制度と雇用保険料と所得税と消費税と固定資産税と自動車税とその他もろもろ……!


辞めたら全部支払えないじゃん!


貯金なんて無いんだから! もうやだぁぁぁ!


兄上様、助けてください!


哀れな弟をお救いください。


敬具



お願いします。



助けて下さい。



神様仏様!


何でも致します。


ですので、どうか……どうか……!



あぁぁぁぁ!


なんで!?


なんでこんなことになるの!?


あれ以来、他の社員の、特に女性社員からの視線が痛いです。


なんてたって!


エドワード・アルバーンという男は、


金髪に青い眼に、少しウェーブのかかった髪。


身長は高く、顔も整っている。


おまけに仕事も出来て、


性格も完璧なんですよ!


優しくて紳士的で、いやもう!


完璧すぎるんですってば!


あのプロポーズから、毎日のように俺に会いに来るんです。


あ、あと、俺のどこが気に入ったのか?


その度に俺は逃げてます!


だって怖いんですもん!


あんなイケメンが自分に夢中になって追いかけてくるとか!


ありえないから!


ありえちゃダメでしょ!?


俺には、彼女がいたんだよ? なんで俺なんだよ……。


それに、なんで俺なんかと結婚しようとするんだよ……。


絶対におかしいだろ!


俺、あいつに何もしてないぞ?


むしろ俺がされた側なんですけど……。


座るたびに尻が痛い。


仕方なく、病院に行きましたよ!そしたら、「臀部打撲症」だってさ。


そんな病気があるの? 知らなかったんですけど……。


とりあえず湿布を貰って、今も貼っています。


あの夜からだよ! 


どんだけ!運動したんだよ!


やべ!


また来たよ!


「カイ!待って!」

「いやいやいや!待ちませんよ!てか、なんで毎回俺を追いかけるの!?」


「プロポーズしてるじゃないか!」


「いやいやいやいや!俺、了承してないからね!?」


「僕の夫になるのは嫌かい?」


「嫌ですよ!!丁重にお断りさせて頂きます!!」


「お断りは受け付けておりません!」


「どこで!覚えたんですか!?そんな言葉!!」


逃げねば!とにかく逃げるんだ! 捕まったら最後、きっと俺は……!


隗 頎弘 


27歳 黒髪、普通体型、独身、仕事営業。


社会人四年目!


プロポーズにクーリングオフは無いことを知った。

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