異形物対策庁〜死神少女と半霊の巫女
@coco8958
第1話
東京某所ーー。
「これが首都。夜なのに明るいし、人も沢山。田舎じゃお祭りでもこんな人いないし......」
そう田舎から来たのだろうと察させる発言した少女の名は、
鍛錬な顔立ちで美人なのだが、どこか都会に馴染めないほのかな地方の香りを感じさせる。
それもそのはずで、彼女は東北の田舎も田舎、それも寂れた神社を営む一族の一人娘だ。
神職者の血縁ということもあり、彼女は霊的なものが見えたり祓ったりする能力がある。
案外見えてるだけの人間は結構多い、しかし祓う事ができる人間はそう多くはない。
彼女の持つ特異な能力を買われて、南雲家の多額の借金をチャラにする代わり、ある組織の一員として迎え入れたいーーという交換条件の元送り出された。
ミナトはスマホの画面を開き、目的の集合場所を確認する。
「時間ギリギリかな......これ」
辺りの景色に見惚れている暇はなさそうだ。
ミナトは、空高くまで聳え立つビル群に目を奪われながらも、集合場所まで歩みを進める。
「痛っ、す、すいません......」
だが歩き出して暫くして、湊は人を肩をぶつけてしまう。
この人混みの中で上を向いて歩いていれば、それはぶつかるというものだ。
ミナトがぶつかったのは、中学生くらいの外見の黒髪の少女だった。
ミナトよりは確実に年下と思われる。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません......」
その少女はそう言い残すと、湊の横を通り過ぎていく。
少女の正気のない死んだ目、季節外れな長袖の隙間から微かに古傷が見えた。
一瞬ではあったが、それが嫌なほどに目に焼きついた。
声をかけようと思ったが、その時にはもう人混みの中に消えていってしまう。
「いや、東京闇深っ......」
東京は治安が悪い、なんていうのはよくある田舎側の偏見の一つだ。
ミナトはそれが本当のことなのかもしれない、と思いながらも目的地へと足を運んだ。
目的の場所は、駅近の駐車場だ。
田舎者目線からすると、法外な価格が表示された看板を横目に駐車場の中へと踏み入れる。
「ナグモちゃん、こっちこっち」
その時だった。
自分より一回り年上の女性が声をかけてくる。
「シノノメさん!」
東雲と呼ばれた彼女は、湊を"組織"へと勧誘した張本人だ。
「早速だけど夜遅いし、行こうか」
シノノメはそういうと、自身の車を指差す。
そこにあったのは、車に関して全く無知の湊でもわかる高級そうな車だ。
「いいでしょ、うち結構給与高いから1000万くらいの車なら全然買えちゃうんだ」
シノノメは随分とそれが気に入っているのか、和かな笑みを浮かべた。
車に微塵の興味もない湊から言わせれば、乗り物に1000万も出す意味が理解できないのだが。
助手席に乗り込むと程なくして車は発進する。
「これから対策本部まで案内するね。本部は寮も兼ねてて、ナグモちゃんの部屋も用意してあるからそこで休んでね」
「シノノメさん、ありがとう......わざわざ迎えに来てくれて」
「いいんだよ。歩くと結構時間かかるし、建物分かりずらいし、夜も遅いし」
本当は昼前には到着する予定だったのだが、電車は遅延するし、道には迷うしで結局この時間だ。
その旨を東雲に伝えたら、わざわざ迎えに来てくれたのだ。
「東京はどう? ナグモちゃん」
「夜なのに明るくてびっくりだよ。地元なんて夜の8時過ぎたら店なんてどこもやってないし、そもそも日が沈んだら真っ暗なのにさ」
「でしょ! 東京は良いよ。遊ぶところも沢山あるし、田舎で若い時を過ごすなんて勿体無いよ」
彼女はそういうが、湊的には田舎の地元が好きだ。
別に都会が嫌いなわけではない。ただ借金だけ無ければ、慣れ親しんだ地元にはいたであろう。
こうして、当たり障りない会話をして車に揺られ30分程度経った頃だろうか。
「ついた、ここだよ」
車が停止する。
彼女の指差す方には、周囲の建物よりもやや大きい程度の真新しいビルがあった。
そのビルには、ミラ・トレード株式会社ーーと言う社名が掘られたプレートが代々と張られていた。
「ミラ・トレード株式会社......表向きには、貿易会社を装ってるんだ、一応フロント企業として装備品の調達もしてる」
湊が所属することになった組織は、あくまで非公開の国家機関だ。
このくらいの偽装は当然だろう。
「科学的に立証できない霊的存在、異常な生物に呪物。放っておけば一般市民に重篤な被害を及ぼしかねない怪異を未然に駆除する秘密機関ーー」
そう言った彼女は手を差し出してくる。
「異形物対策庁掃討部。私はナグモちゃんを歓迎するよ」
そう言い、もう一度和かな笑みを浮かべた。
「お金の為だし、私は頑張るよ」
湊は差し出された手を取る。
「まぁお金面の待遇は期待していいよ。でもね......」
その時、笑みを浮かべていた東雲の顔付きが少し暗くなるのを感じた。
「ここの上層部、まじっーーで腐ってるから、覚悟はしといてね」
湊は言葉の意味を理解でき無かった。
しかし、ミナトはそう遠くないうちにその言葉の意味を理解することとなる。
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