断罪エンドを回避していたら、シークレットキャラに捕まってしまいました~強制力により、婚約者様は聖女にとられましたけど~
わん.び.
第1章 全てのことが繋がった 第1話
朝の光が開かれたカーテンを避け、部屋に注ぎ込む。
遠くに私を呼ぶ声が聞こえる気がするけれど、まどろむ夢の中から出たくなくて、起きるのを渋る。
二度寝中に見た夢…だろうな。
その夢で私は何かに夢中になっている。
これ、何だろう?
そして、唐突に見えた小さな箱に書かれた文字。
それって…。
「…ん。
きみわた…。
んぅ…。」
その文字を思い起こすように、自然と口に出していた。
起こしに来たメイドには、寝ぼけ眼の子どもの戯れ言と解釈され、聞き流された。
私は、「夢で見た…、きみわたって何?」って考える。
そんな疑問を持った時だった。
その日、私は運命を知ることになるとは思ってもいなくて、ただ、可愛らしいドレスを着ることを促されていた。
「お嬢様、寝言なんて言っていないで起きて下さいませ。
今日は大事な日とおっしゃっていらっしゃいましたでしょう?
だって、今日は旦那様とお出かけされるのでしょう?」
「わかっているわ。
だけど、あと少しだけ…。」
「なりません。
王宮に行かれるのですから、きちんと御支度しないといけませんので、時間が足りません。
隅々まで完璧にするようにと奥様からの伝言ですもの。
さぁ、お風呂でお肌もたっぷりと磨きましょうね。」
そう言われ、布団を剥がされてしまった。
そしてテキパキと行われる私の支度。
ちゃんと昨日もお風呂に入ったのに、今日も朝っぱらから入れられ、それに、まだ子どもなのに、いい匂いのするオイルをお風呂に入れて準備されてしまった。
メイド達の張り切り具合とは比例し、乗り気にはなれない私。
「お父様がお仕事されている王宮に何しに行くのかな…。」
お父様から一緒に王宮に行くようにと言われている。
でも、何だか嫌な予感がするのよね。
こういうの…自分でも嫌だなって思うくらい当たるんだよね。
私はメイド達によって、一通りの身支度を終えた。
その後、私は軽く朝食を済ませ、父が待つ玄関へと向かった。
◇
私はオフィーリア・ダリア公爵令嬢。
この国の宰相を務める厳格な父。
そして、優しく、時に厳しい母。
最後に、勉学に長け、頼りになる兄。
4人家族の我が家。
ダリア公爵家の娘として生まれ、10歳になった。
誕生日を過ぎたある日、私はプレゼントの数々に心躍らせ、1つずつ開いていこうと、楽しみに眺めていた。
そんな時、お父様が部屋に来られた。
「お父様?
いかがされましたか?」
煮え切らない態度の父。
「お父様?」
父の言葉を待つ娘に、渋ったように話をした。
「近々、フィアを王宮に連れて行きたいのだが。
…いいか?」
私はお父様と一緒にお出かけできるということが嬉しくて、「わかりました。楽しみです。」と答えた。
◇
そして、その日、私は全てのことを思い出した。
それは、父の話から少しして、連れて来られた王宮での出来事だった。
私の横には、ダリア公爵家を取り締まる厳格な父。
って、え?
あれ?
厳格だったけ?
えっと…、そのはずの父と王宮に来ていた私は現実を知らされる。
「王太子殿下、ご機嫌麗しく。
娘のオフィーリアでございます。
フィア、この方がアルフィン様だ。」
アルフィン・ハイドレンジア様。
この国の王太子殿下だ。
そう。
ギュッと私の手を強く握ったままの(厳格なのに手を繋いで下さってるのね、嬉しいわ。)父が紹介した相手は恐れ多くも、この国の王太子だった。
そして彼の婚約者候補となる私は、私がこの世界に来る前にプレイしたゲームの…いわば、そう、悪役令嬢。
ん?
…悪役令嬢?
「悪役…令嬢。」
「悪役?」
私の言葉に王太子殿下が聞き返した時、頭の中が真っ白になった。
ぼやける真っ白な世界へ急にリアルな映像が流れ込んできた。
これは…。
異世界転移…って、本当にそんなことがあるのね。
転移?
転生?
いや、死んでしまった記憶があるから、私は転生して、そして前世を覚えている。
っていうか、私、あの世界で死んでしまったのね。
まだやりたいこともあったのに。
まだやりかけの原稿もあったのに。
それに、やっと壁側に陣地を貰った、栄えあるコミケも、もうすぐだったのに。
渾身の出来のコスプレだってお友達に着て貰う予定だったのに。
でもね、今はそんな細かいことを気にしてはいられないわね。
どうしてこんなことになっているのか。
どうして異世界にいるのか。
どうして…この人なのか。
…まぁ、この世界なら嬉しいんだけれど、でも、どうしてこちら側なのかな。
好きなキャラだからいいんだけれどね。
そして、ここで、この世界で私が私として生きてきた今。
でも。
だけど。
そう…。
この世界に生まれてから今まで、確かに違和感はあった。
何かを間違えそうな時に、こうすればこうなるというような、そんな鮮明な映像が浮かび、それを避けるような行動を取った。
それが前世の記憶によるものだったなんて。
だけど、こういうのって、物語のゲームの主人公であるヒロインの特権じゃないの?
ヒロインに転生、もしくは聖女として召喚されてとかで、それで手当り次第に攻略していくっていうように。
だって、ゲームって、うん、そう…。
このゲームのことを思い出す。
◇
『君の世界に私の花束を』
そんな、くっっっっっさい!タイトルの。
そう、キミワタの世界。
サブタイトルは、たしか…。
「~愛は世界を救う、その奇跡を君に捧げる~」
あぁ…。
ダサい…。
ダサすぎる。
うわぁ、残念なタイトルだなぁって思いながらも、プレイしてみると何だか癖になる内容で、何度も繰り返しプレイしたゲームだった。
そう、私はこの世界をプレイしていた日本人だった。
趣味である乙女ゲームをいくつもクリアして、涙を流す程の名作に出会っては悶え、仕事以外の全ての時間を趣味に捧げていたアラサーの私。
それが貴族の、それも悪役令嬢って…。
悪役令嬢は好きだったけれど、だけど、このゲームの世界はヒロインのもの。
そして、その他の人物である攻略キャラや…。
そうね、特に悪役令嬢にとっては、何をしても嫌われて、疎まれ、最後にはどうやったって断罪される世界。
これは、私がどうにかできることなのだろうか。
私の努力次第でとか、そういう世界なんだろうか。
小説でも漫画でもゲームでも、物語の強制力とかそういうのよく聞くし。
この世界にいるという意識を持ってから、初めてこの物語の成り行きを悟った時、私は、これは詰んだなと思った。
一気に思い出したせいで頭がズキズキと痛む。
「フィア?」
父の問いかけにハッとする。
「あ…、申し訳ございません。
考え事をしておりました。」
父はもう一度、事の成り行きを話した。
どうやら、ちゃんと挨拶しなさいという目で見ながら。
「オフィーリア嬢、は…っ、はじめまして。」
その声に前を見ると、私よりも1つ年上の、誰もが羨むような綺麗な輝く金髪に、鮮やかな碧眼の、頬を赤らめた、はにかむ幼い王太子がいる。
何、この可愛らしい小動物は。
緊張で震えている美少年にヨシヨシしたくなっちゃうじゃん。
だって、前世の私、オタクだしアラサーだから。
あー、これは…尊い。
この状況に急に鼻血を出すこともできず、ただ笑顔を貼り付けた私に、これでもかという笑顔を見せる見目麗しい、はにかんだ笑顔が可愛らしい男の子。
「…王太子殿下、ご機嫌麗しく。
ここに連れてこられて、初めて知りましたが…。」
「…っんんっ!
フィア、ちゃんと挨拶なさい。」
あっ、本音を言うのは違ったわね…。
隣で咳払いをしながら私を窘めている父の目線が突き刺さった。
「えぇっと。
婚約者候補に入れて頂き、嬉しく?思います。
どうぞよろしく?お願い致します。」
疑問符だらけの現実に困惑しながらも、令嬢としての返答を述べるので精一杯だった。
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