断罪エンドを回避していたら、シークレットキャラに捕まってしまいました~強制力により、婚約者様は聖女にとられましたけど~

わん.び.

第1章 全てのことが繋がった 第1話

朝の光が開かれたカーテンを避け、部屋に注ぎ込む。

遠くに私を呼ぶ声が聞こえる気がするけれど、まどろむ夢の中から出たくなくて、起きるのを渋る。

二度寝中に見た夢…だろうな。

その夢で私は何かに夢中になっている。


これ、何だろう?

そして、唐突に見えた小さな箱に書かれた文字。

それって…。


「…ん。

きみわた…。

んぅ…。」

その文字を思い起こすように、自然と口に出していた。

起こしに来たメイドには、寝ぼけ眼の子どもの戯れ言と解釈され、聞き流された。


私は、「夢で見た…、きみわたって何?」って考える。

そんな疑問を持った時だった。


その日、私は運命を知ることになるとは思ってもいなくて、ただ、可愛らしいドレスを着ることを促されていた。

「お嬢様、寝言なんて言っていないで起きて下さいませ。

今日は大事な日とおっしゃっていらっしゃいましたでしょう?

だって、今日は旦那様とお出かけされるのでしょう?」


「わかっているわ。

だけど、あと少しだけ…。」


「なりません。

王宮に行かれるのですから、きちんと御支度しないといけませんので、時間が足りません。

隅々まで完璧にするようにと奥様からの伝言ですもの。

さぁ、お風呂でお肌もたっぷりと磨きましょうね。」


そう言われ、布団を剥がされてしまった。

そしてテキパキと行われる私の支度。

ちゃんと昨日もお風呂に入ったのに、今日も朝っぱらから入れられ、それに、まだ子どもなのに、いい匂いのするオイルをお風呂に入れて準備されてしまった。

メイド達の張り切り具合とは比例し、乗り気にはなれない私。


「お父様がお仕事されている王宮に何しに行くのかな…。」

お父様から一緒に王宮に行くようにと言われている。

でも、何だか嫌な予感がするのよね。

こういうの…自分でも嫌だなって思うくらい当たるんだよね。

私はメイド達によって、一通りの身支度を終えた。

その後、私は軽く朝食を済ませ、父が待つ玄関へと向かった。





私はオフィーリア・ダリア公爵令嬢。


この国の宰相を務める厳格な父。

そして、優しく、時に厳しい母。

最後に、勉学に長け、頼りになる兄。

4人家族の我が家。

ダリア公爵家の娘として生まれ、10歳になった。

誕生日を過ぎたある日、私はプレゼントの数々に心躍らせ、1つずつ開いていこうと、楽しみに眺めていた。


そんな時、お父様が部屋に来られた。

「お父様?

いかがされましたか?」

煮え切らない態度の父。


「お父様?」

父の言葉を待つ娘に、渋ったように話をした。


「近々、フィアを王宮に連れて行きたいのだが。

…いいか?」

私はお父様と一緒にお出かけできるということが嬉しくて、「わかりました。楽しみです。」と答えた。





そして、その日、私は全てのことを思い出した。

それは、父の話から少しして、連れて来られた王宮での出来事だった。

私の横には、ダリア公爵家を取り締まる厳格な父。


って、え?

あれ?

厳格だったけ?

えっと…、そのはずの父と王宮に来ていた私は現実を知らされる。


「王太子殿下、ご機嫌麗しく。

娘のオフィーリアでございます。

フィア、この方がアルフィン様だ。」


アルフィン・ハイドレンジア様。

この国の王太子殿下だ。


そう。

ギュッと私の手を強く握ったままの(厳格なのに手を繋いで下さってるのね、嬉しいわ。)父が紹介した相手は恐れ多くも、この国の王太子だった。

そして彼の婚約者候補となる私は、私がこの世界に来る前にプレイしたゲームの…いわば、そう、悪役令嬢。


ん?

…悪役令嬢?

「悪役…令嬢。」


「悪役?」

私の言葉に王太子殿下が聞き返した時、頭の中が真っ白になった。

ぼやける真っ白な世界へ急にリアルな映像が流れ込んできた。


これは…。

異世界転移…って、本当にそんなことがあるのね。

転移?

転生?


いや、死んでしまった記憶があるから、私は転生して、そして前世を覚えている。

っていうか、私、あの世界で死んでしまったのね。

まだやりたいこともあったのに。

まだやりかけの原稿もあったのに。

それに、やっと壁側に陣地を貰った、栄えあるコミケも、もうすぐだったのに。

渾身の出来のコスプレだってお友達に着て貰う予定だったのに。


でもね、今はそんな細かいことを気にしてはいられないわね。

どうしてこんなことになっているのか。

どうして異世界にいるのか。

どうして…この人なのか。


…まぁ、この世界なら嬉しいんだけれど、でも、どうしてこちら側なのかな。

好きなキャラだからいいんだけれどね。

そして、ここで、この世界で私が私として生きてきた今。


でも。

だけど。

そう…。

この世界に生まれてから今まで、確かに違和感はあった。


何かを間違えそうな時に、こうすればこうなるというような、そんな鮮明な映像が浮かび、それを避けるような行動を取った。

それが前世の記憶によるものだったなんて。


だけど、こういうのって、物語のゲームの主人公であるヒロインの特権じゃないの?

ヒロインに転生、もしくは聖女として召喚されてとかで、それで手当り次第に攻略していくっていうように。


だって、ゲームって、うん、そう…。

このゲームのことを思い出す。





『君の世界に私の花束を』


そんな、くっっっっっさい!タイトルの。

そう、キミワタの世界。

サブタイトルは、たしか…。

「~愛は世界を救う、その奇跡を君に捧げる~」


あぁ…。

ダサい…。

ダサすぎる。

うわぁ、残念なタイトルだなぁって思いながらも、プレイしてみると何だか癖になる内容で、何度も繰り返しプレイしたゲームだった。

そう、私はこの世界をプレイしていた日本人だった。

趣味である乙女ゲームをいくつもクリアして、涙を流す程の名作に出会っては悶え、仕事以外の全ての時間を趣味に捧げていたアラサーの私。

それが貴族の、それも悪役令嬢って…。


悪役令嬢は好きだったけれど、だけど、このゲームの世界はヒロインのもの。

そして、その他の人物である攻略キャラや…。

そうね、特に悪役令嬢にとっては、何をしても嫌われて、疎まれ、最後にはどうやったって断罪される世界。

これは、私がどうにかできることなのだろうか。

私の努力次第でとか、そういう世界なんだろうか。

小説でも漫画でもゲームでも、物語の強制力とかそういうのよく聞くし。


この世界にいるという意識を持ってから、初めてこの物語の成り行きを悟った時、私は、これは詰んだなと思った。

一気に思い出したせいで頭がズキズキと痛む。


「フィア?」

父の問いかけにハッとする。


「あ…、申し訳ございません。

考え事をしておりました。」


父はもう一度、事の成り行きを話した。

どうやら、ちゃんと挨拶しなさいという目で見ながら。


「オフィーリア嬢、は…っ、はじめまして。」

その声に前を見ると、私よりも1つ年上の、誰もが羨むような綺麗な輝く金髪に、鮮やかな碧眼の、頬を赤らめた、はにかむ幼い王太子がいる。


何、この可愛らしい小動物は。

緊張で震えている美少年にヨシヨシしたくなっちゃうじゃん。

だって、前世の私、オタクだしアラサーだから。

あー、これは…尊い。

この状況に急に鼻血を出すこともできず、ただ笑顔を貼り付けた私に、これでもかという笑顔を見せる見目麗しい、はにかんだ笑顔が可愛らしい男の子。


「…王太子殿下、ご機嫌麗しく。

ここに連れてこられて、初めて知りましたが…。」


「…っんんっ!

フィア、ちゃんと挨拶なさい。」

あっ、本音を言うのは違ったわね…。

隣で咳払いをしながら私を窘めている父の目線が突き刺さった。


「えぇっと。

婚約者候補に入れて頂き、嬉しく?思います。

どうぞよろしく?お願い致します。」

疑問符だらけの現実に困惑しながらも、令嬢としての返答を述べるので精一杯だった。

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