豚の恋 3人用台本

ちぃねぇ

第1話 豚の恋

【登場人物】

昇:恋する男

橘:昇を応援する女上司

妹:橘の妹。昇の恋の相手



0:会社の昼休憩中、昇が橘のところにすっ飛んできた。


昇:橘さん!俺の相談に乗ってください!

橘:うおっ!…昇君?どうしたの、そんなに鼻息荒くブヒブヒしちゃって

昇:ブヒブヒってなんですか!?いつもいつも俺を豚扱いして!

橘:だって……あなたね?そろそろ本気でダイエット考えたほうがいいわよ?今体重いくつ?3桁行ってるわよね?

昇:ギリギリ2桁です!

橘:そんなばれる嘘つかなくていいから。……別に体型いじりがしたいわけじゃなくて…健康面でそろそろ、考えないとマズいわよ?これからどんどん歳を取って代謝も落ちて行くんだから

昇:うぅ……

橘:…まあいいや。んで?相談って何?

昇:あ、そうでした。橘さん…俺…あのぅ…

橘:なによブヒブヒして

昇:モジモジしてるんです!

橘:ごめんごめん、間違えた

昇:わざとでしょう!?いじる気ないって嘘でしょう!?

橘:バレた?

昇:話を止めないでください!

橘:ならさっさと話してくれる?昼休憩無くなっちゃうじゃない。…あ、お昼食べながら聞くからね?

昇:勿論です。……あの、俺……好きな人が出来たんです

橘:んぐっ!?

昇:なんです橘さん、カエルが潰れたような声出して

橘:昇君が突拍子もないこと言うからよ!あーもう!きんぴらが変なとこ入ってったじゃないの

昇:すみません…?

橘:昇君、あなた…好きな人って言った?恋でもしちゃったの?フォーリンラブなの?

昇:はい、俺……フォーリンラブしちゃいました

橘:あら…28歳童貞のあなたが…そう

昇:ちょっ!童貞って

橘:あれ、違うの?

昇:違わないですけど…セクハラです!日頃の暴言と合わせて課長にチクりますよ!?

橘:いいけど…そしたらあなたのミス、さり気なーくフォローしてくれる優しい先輩が飛ばされるけど、いい?

昇:うっ…!……ま、まあ僕は寛大な心の持ち主なので許してあげます

橘:ありがとう♪…で?誰に恋しちゃったのよチェリーボーイ

昇:やっぱりチクろうかなぁ?つか橘さん、古いですよ!?

橘:あら、私あなたと5つしか違わないのにそれは無くない?私が古いならあなたも古い人間よ

昇:巻き込まないでください!あと全然話が進みません!

橘:あなた、ほんとスルースキルが無いわね。そんな真っすぐでよく今まで生きてこられたわね?

昇:あーもうっ!いいから僕の話を聞いてください!いいですか、今から橘さんお口チャックですからね!わかりましたか!

橘:んーんー

昇:……で、話を戻しますと…僕その、実は…恋というものが人生初なので…どうしたらいいか分からなくて…

橘:んーんー

昇:相手は近所のコンビニに最近入ったバイトの人なんですけど…

橘:んーんー

昇:その…お釣りを渡されるときに「いつも来てくださってありがとうございます」って言ってくれて…僕に笑いかけてくれて…それで僕…

橘:んーんー

昇:ちょっと橘さん?聞いてますか?

橘:んーんー

昇:ふざけてます?何ですかさっきからその相槌はっ!

橘:…なによ、もう。お口ミッフィーしてろって言ったのは昇君じゃないの

昇:そういう意味じゃないことくらいわかってますよね!?

橘:さーあ?私お馬鹿さんだからわかんないなぁ?

昇:殴っていいですか?あとで缶コーヒー奢るんで殴らせてもらえます?

橘:残念、私お子ちゃまだからコーヒー牛乳しか飲めないの。…あと昇君?女性に手をあげる男なんて絶対モテないわよ。そのコンビニ店員さんが知ったらドン引きすると思うけど

昇:しっかり聞いてくださってるみたいでありがとうございますっ!(怒)

橘:で、昇君は一言声を掛けてくれただけの店員さんに恋しちゃったと……簡単な男ねぇ

昇:仕方ないでしょう!?僕みたいな豚に笑いかけてくれる女性なんて今までいなかったんですから!

橘:自分で豚って言っちゃったよ

昇:僕、どうしたらいいでしょう?どうしたら付き合ってもらえますか?

橘:ええ…?あなた豚の分際で人間と付き合おうとしてるの?あわよくば突き合えると思ってるの?

昇:今下ネタにしましたよね?漢字変換しましたよね?

橘:私あなたのそういう賢いところ、好きよ

昇:橘さんに好かれても嬉しくも何ともありません

橘:え~私傷ついちゃったからデザート買いに行っていい?

昇:ああああ!嘘ですごめんなさい僕の相談に乗ってくださいいなくならないで!あとデザート僕の分も買ってきて欲しいです

橘:あんたは買い物に行かせたいのか残ってほしいのかどっちなのよ。……まあ、恋しちゃったならそうね…とりあえずやんなきゃいけないことは一つよね

昇:な、なんですか!?やっぱりいかにさり気なくラインのID渡せるかの研究とかですか?

橘:違うわよ豚

昇:罵りがストレート!

橘:あのねぇ…昇君がやらなきゃならないことはまず!人に戻ることよ!

昇:僕人間なんですけど

橘:その3桁オーバーの醜い体で恋しただのなんだの…おこがましい。恥を知りなさい、恥を

昇:そんなに言う!?

橘:あなたはまず、自分の体を平均の成人男性のそれに戻しなさい。豚から人へ戻る。アタックなんてその次よ

昇:でも……もしコンビニの君がデブ専だったら?そのぅ…僕に気があって微笑んでくれたんだとしたら

橘:うわぁ…デブな上にナルシストの妄想癖とか、やめてよね。豚じゃなくて妖怪にでもなるつもり?

昇:辛辣すぎません!?

橘:デブ専の可能性って、「こ、これ僕の連絡先ですブヒィ」ってID渡して彼女にドン引かれる可能性とどっちが高い?

昇:それは…

橘:いっちょ前に恋がしたいなら、まずは相手に好かれる自分になりなさい。あなたは店員さんの可愛い笑顔にほだされたんでしょう?なのにあなた自身は「顔は関係なく中身を好きになってほしい」なんて馬鹿な事言わないわよね?

昇:ううう…ド正論でぶん殴ってくる…

橘:なによ、私に相談してきた時点で甘い言葉なんて要らないでしょう?あなたが欲しいのは確実な手段、だから私に頼った。……違うって言うなら今までの20分返して

昇:その通りですすみません

橘:まずは豚のくせに食事にデザートをつけようとするその根性から叩き直しなさい

昇:……う………でも…

橘:でもじゃない

昇:だってぇ…

橘:表現変えてもダメ。大体あなたね、お昼いっつもカップ麺とおにぎり2個、さらに菓子パンをデザート代わりって…なにデブの代名詞みたいな食事取ってるのよ

昇:よく見てますね…

橘:野菜を取りなさい野菜を。あとカップ麺禁止

昇:えええ……

橘:昇君、あなた自炊を覚えたほうがいいわよ?

昇:わかっちゃいるんですが…時間が無くて…

橘:まぁ、ここんところ特に立て込んでるからわかんなくもないけど

昇:……橘さんはいつもお弁当ですよね。自分で作ってるんですか?

橘:週末に一気に作って冷凍してるの。朝は詰めるだけ

昇:賢い…

橘:いきなりこんなことやれとは言わないからさ、コンビニで買うのせめてサラダとか、具沢山の味噌汁とかに変えてみたら?

昇:うぅ……はい……

橘:好きなんでしょ?コンビニの君のこと。初恋なんでしょ?

昇:はい…

橘:じゃあ腹を括りなさい。とりあえず1か月でマイナス3キロ。大丈夫、あなたのわがままボディなら余裕でクリアできるわ

昇:はい…

橘:あと当然だけど、運動も取り入れてよね。腹筋背筋腕立て伏せ。そうね…まずは30回ずつ、いってみようか

昇:ひゃい……


0:3日後。


橘:昇君、調子どう?人に戻れそう?

昇:聞き方の癖がすごい

橘:ってあなた……それなによ

昇:なにって

橘:それよ、それ。あなたの目の前にどーんと置いてある黒い液体のことよ

昇:コーラですが…

橘:何普通に答えてんのよ。ダイエッターがコーラ?ダイエットコーラじゃなくて普通のコーラ?しかもℓで?

昇:500mlじゃ足りなくて

橘:足りないも何も……没収です

昇:ええ?なんで!?

橘:当たり前でしょうが!痩せたい人間がこんな糖分の塊を飲むんじゃありません!

昇:…でも液体ですよ?

橘:は?

昇:液体は水なんですよ?水にカロリーなんてあるわけないじゃないですか

橘:…え?あなたそれ本気で言ってるの?ふざけてるわけじゃなくて?

昇:え?

橘:…もしかしてこの1週間、ジュースとか飲んでた?

昇:はい!野菜ジュースなら野菜も取れるしゼロカロリーだし一石二鳥ですよね!

橘:黙れ豚

昇:ひどっ!

橘:…わかった。こうなったら私があなたを人に戻してあげる

昇:へっ!?

橘:これから毎食、私の決めた献立を取って。コンビニで買えるメニューにしてあげるから

昇:えぇ…?

橘:それと飲んでいいのはお茶か水のみ。野菜ジュースは禁止。コーラは論外

昇:そんなぁ…

橘:人に戻りたくないの?

昇:言い方!……それに、野菜って高いじゃないですか

橘:え?

昇:三食コンビニで野菜買うの、流石に厳しいです…なんで草のくせにカップ麺より高いんですか

橘:今すぐ農家に土下座してこい。………まあ、言わんとしてることはわかる

昇:ですよね!

橘:…じゃあ、朝晩だけでいいから献立通り過ごして

昇:朝晩だけ?じゃあお昼は?

橘:抜いても死なないでしょ?

昇:なぁ!?

橘:ってのは冗談。……私が作ってあげる

昇:え?橘さんが?

橘:あ、もちろん材料費はもらうわよ。それでも二人で割ったら一食500円以下でいけるんじゃない?あ、だから私の弁当とおんなじメニューになるからね。文句は聞きません

昇:弁当、作ってくれるんですか…?

橘:一人分も二人分の大して手間増えないし、私も最近ちょっと太っちゃったからダイエットメニューちょうどいいのよね

昇:橘さんのどこが太ってるんですか。そんなこと言ったら俺、豚じゃないですか

橘:え?だから豚でしょう?

昇:違いますっ!…違わないけど!

橘:とにかく!やるわよ、二人でダイエット!コンビニの君に人間の姿で会いに行きましょう!

昇:っ…はいっ!


0:2日後。


昇:腹減った……

橘:お疲れ、昇君

昇:橘さぁん!待ってました女神さまっ!

橘:はいはい、お待ちどうさま、はいこれ今日のお弁当

昇:ありがとうございますっ…!俺腹減って腹減って死にそうで…!

橘:その贅肉があなたを守るわよ

昇:太ってたって胃袋の中は空っぽです!

橘:なによ、朝ごはんは好きなだけ食べていいって言ったでしょ。好きな野菜を手あたり次第ぶっこんでコンソメ君に任せれば、ほーら簡単、美味しいスープ爆誕でしょう?

昇:好きな野菜とか…俺野菜苦手なのに…

橘:何子供みたいなこと言ってるの

昇:だって全然味しねぇですもん。あと高いし

橘:…大丈夫、初めはあなたの舌が野菜の旨味に気づかないくらいバグってるだけよ。毎日カップ麺食ってたらバカにもなるわ

昇:そうっすか…?

橘:あと、鶏肉は入れてもいいっていったでしょ?あ、食べるときは必ず野菜からね。野菜、スープ、鶏。ちゃんと守んなさいよ?

昇:順番に何の意味が

橘:血糖値の急激な上昇を防ぐ……って、豚に詳しい説明しても意味ないか

昇:ひっど!

橘:文句は人に戻ってからどうぞ?

昇:ぐぬぬ…


0:3日後、橘の家で。


妹:お姉ちゃーん、遊びに来たよーん

橘:芽衣。連絡もなしにあんた…あれ、里香ちゃんはどうしたの?連れて来てないの?

妹:里香は旦那と遊園地

橘:遊園地?あんたも一緒に行かなくてよかったの?

妹:里香についてくるなって言われたの

橘:なんで?喧嘩でもした?

妹:喧嘩って…5歳の娘と対等に喧嘩なんか出来ないわよ

橘:じゃあどうして

妹:「今日は~パパとデートするからママついてこないで!」…だって

橘:あら、おませさん

妹:ほんと、誰に似たのかしら

橘:そりゃ、幼稚園の頃3人の男の子はべらせて毎日毎日旦那役とっ変えて【ままごと】してた誰かさんじゃない?

妹:あら~悪い女もいたもんね~

橘:でも悪いわね、せっかく来てもらっても私、今日はちょっと忙しいのよ

妹:なんで?どっか出かけるの?日曜日に用事って……まさかお姉ちゃん、彼氏?

橘:そんなのいません。あと、出かけるんじゃなくて家で一日籠って作業すんの

妹:え?何すんの?

橘:お弁当作り

妹:ええ?……ああ、そういえば一週間分のお弁当の作り置きしてるんだっけ

橘:そそ

妹:でも、そんなに1日掛かりで作ってたっけ?土日泊めてもらったこととかあるけど…もしかして、無理に時間作ってくれてたの?

橘:違う違う、あんた相手にそんな気遣いしないわよ

妹:ええ?じゃあなんで

橘:そりゃ、自分の食べる分だけなら適当に作るけど……流石に人に食べさせるのはねぇ?

妹:えっ…!お姉ちゃん、誰かの為にお弁当作ってるの?

橘:まーね

妹:誰!?彼氏だよね!?いたんじゃん!

橘:だからいないわよ

妹:じゃあ誰の為に?彼氏でもない人にお弁当とか、普通作らないよ?

橘:豚に

妹:豚ぁ!?

橘:そ。私今飼育ゲームしてるの

妹:はぁ?全く意味がわかんない

橘:ま、成り行きよ

妹:どんな成り行きよ

橘:…あ、そうだ。里香ちゃんって好き嫌いある?

妹:え?…あるよ、めちゃくちゃ激しくて困ってる。ピーマン人参辺りはギャン泣き必須だね

橘:どうやって食べさせてる?

妹:そうねぇ…わかんないくらい細かく刻んでハンバーグにしたり、溶けるまで煮込んでデミグラスソース作ったり…

橘:やっぱりハンバーグは外せないわね。……でも全部肉で作るのはなぁ…豆腐でかさましするか…

妹:おねえ……なんか楽しそうだね?

橘:……そう?


0:5日後。


橘:はいこれ、今日の弁当

昇:ありがとうございますっ!

橘:どういたしまして。…ゆっくり時間かけて食べてよね。早食い禁止よ?

昇:わかってますよぉ

橘:最近どう?筋トレちゃんとしてる?

昇:はい。最近は30回楽に出来てきたので2セットずつやってます

橘:おお、えらいえらい。あ、終わった後はプロテインね?なるべく高たんぱくで甘くないやつ

昇:それもわかってます。…やっぱ今日も美味いっすね、橘さんのお弁当

橘:…そう?

昇:はい!この豆腐のハンバーグとかめちゃくちゃ旨くて。…できたらあと3個くらい入れてほしいくらい

橘:黙れ豚

昇:ひょっ

橘:(可愛らしく)ふっ…なにその声

昇:あ……

橘:ん?どしたの?変な顔して

昇:あ、ああいや…一瞬橘さんが可愛く見えて…俺疲れてんのかな…それか毒でも盛りました?

橘:殴っていい?嫌なら食べなくていいんだけど?

昇:だ、ダメです!これは俺の弁当です!

橘:……あっそ


0:2週間後、橘の家を訪ねた妹。


妹:お姉ちゃん、おひさー

橘:いらっしゃい

妹:頼まれてたの持ってきたよ

橘:助かるわ

妹:でも料理の本なんて今更おねえに要る?こういうの見るのめんどくさいって、読んだことなかったじゃん

妹:お母さんに「実家の料理本おねえが貸してって言ってる」って言ったら不思議そうな顔してたよ。「ぱぱっと作れるのに何で今更?」って

橘:ぱぱっと作れるのは簡単なやつだけよ。味も似てきちゃうし、新規開拓したかったのよね

妹:ネットで検索すればいいのに

橘:情報が多すぎて溺れるのよ。あと信ぴょう性に欠けるし。こういうのは昔ながらの本には勝てないのよ、結局

妹:そうかなぁ?

橘:里香ちゃんってどんなおかずが好き?

妹:え、里香?えっと…オムライスとか唐揚げとか

橘:ふむ。……オムライスは高カロリーなんだよなぁ。きのこオムレツとか?むね肉のから揚げ…いややっぱ、ささみの揚げ焼きくらいにしとこうかしら

妹:おねえって…そんなに食に興味あったっけ?

橘:ん?あー……そうね、最近結構楽しいかも。前より食べることに頓着してる気がするわ

妹:ふぅん?でもなんでヘルシー志向?おねえ全然太ってないじゃん

橘:あら、30超えたら努力止めた瞬間すぐに…ボンっ、よ

妹:怖いこと言わないでよ

橘:食べて飲んでも翌日ストンと元に戻っていたあの頃…ああ、懐かしい

妹:やめてってばっ!


0:3日後。


昇:(息荒く)橘さん!橘さん!!

橘:はいはいわかったから、落ち着いて豚。餌の時間よ

昇:ナチュラルにひどい!……じゃなくて!体重!減りました!なんと8キロも

橘:おおっ…流石豚、貯金が違うわね

昇:橘さんのディスりも今の僕には全く効きませ~ん!

橘:ったく。……でも、よく頑張ってると思うわ。とりあえず、この一か月お疲れ様

昇:橘さん……飴と鞭の使い方、上手すぎません?

橘:はぁ?

昇:このままいけばあと半年で標準体型に戻れますかね?

橘:調子に乗んな。…このままのペースで落ち続けるわけないでしょう。ダイエットは長期戦。ちょっと痩せたくらいで成功したと思わないの

昇:でも俺、この一か月めっちゃ調子いいんです。体がすっごく軽くて

橘:そりゃ、物理的に8キロの肉塊取り払ったら軽くもなるわよ。子供一人抱っこしてたようなものなんだから

昇:子供って…

橘:8キロって言うと…生後7か月くらいかしら?

昇:橘さん詳しいっすね

橘:しょっちゅう妹の子供抱いてたからね。…見る?里香ちゃんって言うんだけど…めっちゃ可愛かったのよ~この頃。まあ今も可愛いんだけど

昇:へぇ…見てみたいです

橘:おっけ。(携帯を差し出し)…この頃かな?はいどうぞ

昇:……え…

橘:…ん?どうかした?可愛いでしょー里香ちゃん!

昇:あ、はい……あの、この隣の女性って

橘:ああ、妹の芽衣。里香ちゃんのママ

昇:そう、ですか…

橘:こーんな小さかった子が今じゃ5歳ですって、時の流れは早いわぁ~おそろしっ!この間なんて、「パパとデートするからママついて来ないで」って妹のこと追い出したらしいわよ

昇:へ、へぇ…

橘:私は姪が産まれた瞬間をついこの間のように感じてるのに…子供の成長はすごいよね。…あーでもよく考えてみたら…芽衣の娘が姪って…ぷっ

昇:……それ、親父ギャグっすよ橘さん


0:3日後、コンビニにて。レジ列にいる昇に声を掛ける妹。


妹:お次の方よければどうぞ?今レジ空けますね

昇:あ、どうも…

妹:(会計しながら)レジ袋はご入用ですか?

昇:あ、はい…

妹:小さいサイズでよかったですか?

昇:はい

妹:463円お願いします

昇:あ、クレジットで…

妹:こちらに差し込みお願いします

昇:はい…

妹:お取りいただいて大丈夫です、いつもありがとうございます

昇:……あ、あの…

妹:はい?……ああごめんなさい、お箸ですよね

昇:それもそうなんですが…

妹:ん?

昇:あの、あなた…橘さんの妹さん、ですか?

妹:……え?

昇:あ、いえ、何でもないですすみません

妹:…確かに私の旧姓は橘ですが…え、妹って…お姉ちゃんのお知り合いの方ですか…?

昇:あ、ああ、はい

妹:よくわかりましたね。私と姉、あんまり似てないでしょう?

昇:あ、はい

妹:姉妹揃ってお世話になります。またいらしてくださいね

昇:……はい


0:1週間後。


橘:はいこれ、今日のお弁当

昇:ありがとうございます

橘:調子はどう?

昇:順調です

橘:ほんと?私に隠れて甘いもの食べてない?

昇:しませんよそんなこと

橘:ほんとにぃ?

昇:なんでそんなに疑うんですか

橘:確認よ確認。じゃあそんな頑張ってる豚さんには…はいこれ

昇:豚さんって…え、これ…カップケーキ?

橘:そう、橘さん特製チーズ風ヨーグルトケーキ

昇:え…

橘:ヨーグルトって不思議なのよー水切って卵混ぜてあれこれしてたらいつの間にかチーズの味してくるのよ?あ、ラカント使ってるし今日のお弁当、少し量減らしてるから怯えなくてもいいわ

昇:作ってくれたんですか?

橘:ええ、私も誰かさんに付き合ってダイエット生活中だからね…甘いものが食べたくなったのよ。あ、これは材料費取らないから安心して。おまけよおまけ

昇:ありがとうございます

橘:……最近、順調じゃないんでしょ?

昇:え?

橘:暗い顔してるもの。…どーせ?思うように体重減らなくなってきたんでしょ

昇:あ、いや…

橘:言ったでしょ?ダイエットは長期戦なんだから一喜一憂してたら続かないわよ?

昇:は、い…

橘:そうだ!ダイエット完遂したらご褒美あげるわ

昇:ご褒美…?

橘:そう!目標体重まで落ちたら…ズタバ奢るわ。ほぅら、想像してごらん?ズタバの新作フラペチーノ…甘いわよぉ~美味しいわよぉ~

昇:…頑張ったら、連れてってくれるんですか

橘:もちろん!女に二言は無いわ。これでもあなたより給料もらってるんだから

昇:…分かりました。俺、頑張ります

橘:うんうん、その意気!

昇:…橘さん

橘:ん?

昇:…ありがとうございます

橘:なによ改まって。…そういうのは、豚から戻ってから言ってちょうだい

昇:ひっでー


0:1か月後。


昇:橘さん…どうしましょう

橘:…どうしたの?

昇:…俺、着られる服がなくなっちゃって

橘:え?

昇:順調に体重落ちてて嬉しいんですけど…ズボンとかベルトで止めてもずり落ちてきちゃって

橘:あー…嬉しい悲鳴ね。随分痩せたもんねぇ

昇:やっぱ服買うべきっすよね。もう何年も服とかまともに選んでないから…どこに売ってるのかすら忘れました

橘:あなたね…いくら豚でもせめて身綺麗な豚でいなさいよ

昇:身綺麗な豚ってなんですか

橘:まーでも……確かに今服買うの、悔しいわよねぇ。昇君今体重いくつ?トータル13キロくらい落ちたんだっけ?

昇:今朝測ったら91キロでした

橘:ん~…2桁になったのは喜ばしいけど…あと最低15は落としたいわよね…今服買ってもどうせすぐサイズダウンするし…もったいないわねぇ

昇:予定ではですけど

橘:何弱気なこと言ってんの。…あ、そーだ。うちにある男物でよければあげよっか?

昇:え、いいんですか?

橘:いいよいいよ、むしろ引き取ってほしいくらい

昇:誰の服ですか?お父さんの?

橘:んーん、元カレ

昇:元カレ…

橘:そうなのよーあいついきなり私のマンションに転がり込んできて半強制的に同棲して…別れた時も身ぃ一つで出てっちゃってさ…勝手よね~

昇:…捨てなかったんですか?

橘:捨てるのめんどくさかったんだよね

昇:ほんとに?

橘:なによぉ、もしかして「捨てられなかった」とか阿呆なこと言わないでしょうね

昇:あ、いや

橘:…んで?もらってってくれるの?

昇:はい、いただきます

橘:んじゃ来週渡すわ。多分どっかの押し入れに押し込んだと思うんだよねーあいつも結構太ってたからさ、着れると思うんだ~

昇:はは…


0:5日後、橘の家。


妹:おねえって昔から掃除できないよねー

橘:出来ないんじゃなくてしないだけよ

妹:余計に性質(たち)が悪いんだけど?んもー、珍しくおねえから呼ばれて来てみれば…なんでこんなに物で溢れかえってるのよ!掃除手伝ってって!子供かっ!

橘:いいじゃないほら、後でご飯奢ってあげるからさ

妹:もー…デザート付きだからね

橘:はいはい

妹:んで?どうして急に掃除なんか始めたのさ

橘:いやぁ、人にあげるものができて押し入れ掘り返したんだけど…想像以上に物があって、こりゃ一度断捨離しようかと

妹:人にあげるもの?こんな押し入れの奥底の…何をあげる気よ

橘:んー…お、あったあったこれこれ

妹:何この箱

橘:この中に…ビンゴ。やっぱ残ってたか

妹:あれ、これって…もしかして、圭吾さんの服?

橘:あんたよく覚えてたわね

妹:そりゃね…一度は私のお兄ちゃんになるかもって思った人だもの

橘:あー……そんな話も出てたか…ま、本格的に婚約の話出る前に浮気してふら~っと出てっちゃったんだけどねぇ~あー痛い痛い。懐かしすぎて痛い

妹:結構残ってたんだね、服。……捨てられなかったんでしょう?

橘:違うわよ

妹:ふぅん?…おねえ嘘吐くとき髪の毛、耳に掛ける癖あるの気づいてる?

橘:な

妹:でもよかったじゃん?これでようやく、スッキリできるね

橘:…そうね

妹:どういう心境の変化?

橘:別に?…さ、さっさと終わらせてご飯行くわよ

妹:はいはい


0:2週間後、コンビニにて。入店してきた昇に声を掛けた妹。


妹:いらっしゃいませ…あ…

昇:こんにちわ

妹:あ…こんにちわ

昇:…?どうかしましたか

妹:あ、いえ……その服

昇:服?……これがどうかしましたか?

妹:あー……最近それに似た服を見たので驚いちゃって。そういう感じも着られるんですね

昇:…そうですね。正直僕の好みじゃないですけど

妹:え?

昇:でも、引き取らないとずっと置いておかれると思ったので…それはものすごく嫌だなぁって…

妹:はい?

昇:あ、いえ…何でもないです

妹:…そういえばお客さん、姉のお知り合いの方なんですよね?

昇:あ、はい

妹:同級生とか?

昇:いえ、ちょっと…仕事でお世話になっていて

妹:そうなんですね。私のことは姉から聞いたんですか?

昇:前に一度、写真を見せてもらったことがあって、もしかしたらって

妹:なるほど

昇:あの…妹さん、お願いがあるんですが

妹:はい、なんでしょう?

昇:僕がここに来てること、橘さんには内緒にしてもらえませんか?

妹:え?

昇:あ、いや…職場関係の人と外で会うのは苦手で

妹:なるほど。ではお口ミッフィーで通しますね

昇:はい、お願いします


0:1か月後。


橘:ところでさ

昇:なんですか?

橘:昇君の通ってるコンビニってどこ?

昇:え?

橘:いや、もう脱豚化計画も4か月を過ぎたじゃない?ここいらでそろそろコンビニの君の姿を確認しておこうかなって

昇:あ、いや

橘:ラインのID渡すにしてもタイミングがあると思うのよ。忙しい時に来られたって迷惑だろうし…その子のシフトってわかってるの?

昇:あ、いえ…いたりいなかったりするので

橘:どこのコンビニ?

昇:え

橘:…何よ、教えてくれないの?こんなに散々協力してきたのに?

昇:あ…ええと…

橘:…そっかぁ…昇君はこんなに協力してきた私のこと、信用してないのね?

昇:え

橘:どうせ、私がからかう目的で聞いてるんだって思ってるんでしょう

昇:そんなことは

橘:…私ね、真剣にあなたの応援をしてるのよ?あなた、私の予想をはるかに超えて人間に戻ってきてるわ

昇:言い方!

橘:…めちゃくちゃ頑張ってきたじゃない

昇:橘さん…

橘:だからね、私…すっごく応援してるの。本心よ?……まあ、あなたがこんなにも頑張れた原動力の「コンビニの君」を見てみたいってのもあるんだけど

昇:……はい

橘:場所…聞いちゃダメ?

昇:……3丁目の駅前のところです


0:5日後。


妹:いらっしゃいま…あ

橘:…え?芽衣?

妹:いらっしゃいませ~

橘:え、なんで芽衣がここに

妹:なんでって…ここ私の職場だもん

橘:職場?

妹:言ってなかったけど、私ここで半年くらい前からアルバイトしてるんだよねぇ

橘:えっ…そうなの?

妹:うん

橘:なんで言わなかったのよ。私あんたが働き出したことすら知らなかったんだけど

妹:里香が手が掛からなくなってきたから気晴らしも兼ねて働きたくて。…でもほら、私飽き性じゃん

妹:コンビニバイトって長続きしなさそうじゃん?どうせ続かないこと報告してもな~と思って。…まあ、意外に続いてるんだけど

橘:ふぅん?まあいいわ、手間が省けたわ

妹:手間?

橘:ここのコンビニの従業員で20代から40代くらいの女性って何人いる?

妹:何その刑事ドラマっぽい質問

橘:いいから答えて

妹:そんなの……一人しかいないわよ

橘:マ!?

妹:マ。

橘:やった!名前聞くの忘れてたけど特定楽勝じゃない!

妹:どったの?お姉ちゃん

橘:えっと、その人ってどんな人?芽衣、会ったことある?

妹:会ったことも何も…今目の前にいるじゃない

橘:え

妹:…ここの店舗、私以外みんなおばちゃんとおじちゃんしかいないわよ?…ああ最近、10代のベトナム国籍の男の子入ってきたけど

橘:えっ………マ?

妹:マ。…っていうかお姉ちゃん、マの一文字で感嘆詞全部さらうのよくないよ?ベトナムの子、「日本人言葉を変な略し方するから困る」ってよく嘆いてるんだよね

橘:マァァァ…!?

妹:いや伸ばせばいいってもんじゃ…

橘:嘘でしょ待って?彼氏がいる可能性は考えてたけど…子持ち!子持ちの主婦!というか妹!?嘘ぉ…昇君ここまで頑張ってきてこれって…えええ…?

妹:よくわかんないけど…買い物しないなら帰ってくれる?


0:3日後。


橘:(ブツブツと)ああ、どうしよう…昇君になんて言えばいいの…コンビニの君がまさかの妹…既婚者だったなんて…

昇:橘さーん?お昼ですよー?

橘:うおっ昇君!?

昇:どうしたんです?机に突っ伏して………もしかして、どこか痛いんですか?具合悪いんですか?

橘:え、あ…いや

昇:早上がりしますか?俺送っていきましょうか?

橘:いや、大丈夫…元気

昇:そうは見えませんけど

橘:いやいやホントに大丈夫。それより、お昼よね。はいこれお弁当

昇:ありがとう…ございます

橘:はぁぁぁぁ…

昇:なんですか、その長い溜息は

橘:ちょっと世の理不尽を呪ってるのよ

昇:なんですのそれ。……あ、今日のおかずも美味っ

橘:……美味しい?

昇:はい、めちゃくちゃ。俺もうすっかり橘さんに胃袋捕まれちゃってますよ

橘:…そ、よかった……………いや、ごめん

昇:ん?何がっすか?

橘:昇君まだまだ標準体型とは言えないけど…だいぶスラっとしたよね?

昇:そう…ですね。スラって言うか…鍛えたおかげかちょっと身体厚くなってきた気がします

橘:だよね…仕上がりかけてるよね……うう

昇:なんなんすか一体

橘:……怒らないで聞いてほしいんだけど

昇:なんすか。毒でも盛りました?

橘:盛ってないわよ。…ああでも今から精神的に攻撃するかも

昇:なんすかそれ

橘:あー……ここじゃなんだから…今日夜、時間取れる?

昇:え?

橘:奢るから飲みに行こ

昇:え、でも「痩せるまでは飲み会禁止」って

橘:うん、まあそうなんだけど……飲まなきゃやってらんない日もあるでしょ、生きてると

昇:なんかあったんですか

橘:なんかあるのはあなたの方なのよ

昇:はい?……まあいいや。じゃあ俺、今日は絶対定時で上がりますから、橘さんも上がってくださいね。絶対っすよ?

橘:あーうん、頑張る…

昇:んで?どこ行きます?橘さんに言われて俺最近めっちゃ食事に気を遣ってるせいで、居酒屋とかハメ外しそうで怖いんですけど

橘:今日くらい飲んで食っても怒らないわよ

昇:いやいや、俺が嫌なんです。せっかく今日まで頑張ってきたのに…また豚に戻りそうで怖いんです

橘:ごめんねぇ…ごめんねぇ…

昇:今更豚呼びに傷ついたりしませんよ

橘:そうじゃなくて…

昇:あ、そうだ。…じゃあ、橘さんの手料理、食べさせてもらえませんか

橘:……は?

昇:俺、橘さんにディナー振舞ってもらいたいです

橘:なっ

昇:あ、もちろん金は俺が出しますよ。最近は朝晩自炊…っぽいことしてるんで、野菜くらいは切れますし

橘:ぽいって

昇:ジャガイモの皮剥けるようになりました

橘:…戦力外通告出すわ。あんたキッチンに入ってくるの禁止

昇:了解っす。じゃあくつろいで待ってるんで、手料理お願いします

橘:なっ…あのねぇ…

昇:…ダメですか?

橘:っ…!そ、そんな甘えた声出すなぁ!

昇:ですよねーやっぱ男がぶってもキモいっすよね

橘:キモくは…なかったけど…

昇:え?

橘:あーっもう!わかったわよ!どんなゲテモノ出されても文句言わずに食べなさいよ!?

昇:橘さんの料理が不味いわけないじゃないですか。期待してまーす

橘:こんにゃろ…


0:数時間後。


昇:うんまっ

橘:…そう?

昇:うまっ…え、やばうまっ!…お弁当ももちろん美味しいなと思ってましたけど、温かいだけで更にうまいんですね…やば…

橘:…まあ、罪滅ぼしもかねて作ったからね

昇:え?罪滅ぼし?

橘:…いや、私は一切悪くないんだけど…こう…

昇:なんすか?仕事でやらかしました?

橘:それはあんたでしょ。私が今までどんだけリカバーしたと

昇:あーあー聞こえないぃ

橘:ったく!…仕事のことは置いといて!

昇:じゃあなんです?

橘:……コンビニの君よ

昇:え

橘:あなたの想い人

昇:……その人がどうかしたんですか

橘:会ってきた

昇:……………

橘:……………ごめ

昇:(遮って)ごめんなさいっ

橘:……え?

昇:ずっと黙っててすみませんでした!言ったらもう二度と飯作ってくれないと思って…!

橘:え…?

昇:あの人が…橘さんの妹さんだって…既婚者だって知ってたけど…でも俺どうしても言い出せなくて…

橘:…ん?ちょっと待って?昇君あなた…芽衣のこと知ってたの?

昇:え?妹さんと話したんじゃ?

橘:話したって…何を…

昇:え、俺墓穴掘った感じですか?

橘:……どういうこと?

昇:やーん笑顔が怖いですぅ

橘:…なによ…なによぉ…知ってたんなら…さっさと言いなさいよぉ!

昇:橘さん?

橘:散々ひどいこと言って焚きつけて結果出させて、それで相手が既婚者でしたって…あなたの苦労全部水の泡かと思って焦ってたのに…!

昇:ええ?

橘:体重20キロ減らすって…いくらスタートが豚だからって並大抵のことじゃないのに…それなのに惚れた相手が既婚者って…いくらなんでもあんまりじゃない

昇:橘さん…

橘:ごめん…妹夫婦は心底仲良いから脈無いと思う

昇:いやいや、俺既婚者には手ぇ出しませんけど!?

橘:だって…相手が芽衣だって知ってなお今日まで頑張ってきたじゃない。あなたには横恋慕する資格がある気がする

昇:ないですよ、あるわけないでしょう!ちょっと橘さん、酔ってます?料理作りながら飲みました?

橘:だって…あなたがあまりにも報われなくて…

昇:…橘さん、怒らないで聞いてくれます?

橘:何?

昇:俺、あの人が橘さんの妹だって知ったの3か月くらい前です

橘:…え?

昇:ほら、姪の…里香ちゃんでしたっけ?その子の写真を見せてもらった時に遠目だったけどはっきり見ましたもん、妹さんの姿。あ、終わったわって思いましたもん

橘:…そんな前からわかっててどうして人に戻ろうと

昇:こんな時まで辛辣ですね。……ぶっちゃけ健康に良くない食生活なのは自負してたし、どっかで変わるきっかけも欲しかったし……

昇:何より、今ここで橘さんにホントのこと言っちゃったら…あの弁当、二度と食えなくなるなって思って……気づかないふりすることに決めました

橘:な…なんで…?私のご飯を気に入ってくれたのは嬉しいけど、正直ダイエット弁当だし…物足りないでしょう?味付けだって特に変わったことしてないし

昇:…橘さん、言いましたよね俺に。「簡単な男ね」って

橘:え?

昇:俺が妹さんに惹かれた経緯を話したら「簡単だ」って。…そりゃそうですよ、俺魔法使い一歩手前の交際経験0人男ですよ?

昇:そんなやつ、笑っただけでイチコロだし……餌付けなんてされた日にゃ、懐きまくるに決まってるでしょ。俺の為にデザート作ってくれるとか…惚れるしかないじゃないですか

橘:え…

昇:黙ってごめんなさい。騙しててごめんなさい。……俺はもうとっくに、橘さんに落ちてます

橘:なあっ!?

昇:あなたが作ってくれる弁当とか、気に掛けてあれこれしてくれることとか…元カレの服まだ持ってたこととか…全部全部、気になってました

橘:服って

昇:端的に言えば…妬いたんです

橘:妬いた!?

昇:橘さんの過去に。あと…今も気持ちがあるのかなって不安になって…

橘:そんなの…

昇:なので、減量成功してとっとと燃やしてやろうと頑張りました。あんな服、さっさと脱ぎ棄てたかったので

橘:な……そんなこと思ってたの!?

昇:はい

橘:あなたね…

昇:まだまだぽっちゃり体型なので告る気は無かったんですけど……あと5キロ絞ったら、俺のこと見てくれませんか?10キロくらい絞ったら…できれば名前で呼びたいです

橘:なっ

昇:橘さん、さっきから「なっ」ばっかりですね

橘:誰のせいだと!

昇:俺のせいですね

橘:……言うようになったじゃない、豚が

昇:そんなに罵って、俺の性癖が捻じ曲がったらどうしてくれるんですか

橘:……責任、とればいいんでしょう?

昇:え

橘:とりあえず…ぽっちゃり体型のあなたを頂いとこうか

昇:えっ

橘:豚から人への進化の過程…見てるだけなんてもったいないじゃない?

昇:橘さん、目がなんか………えちぃです

橘:デザート、買い忘れたの

昇:ん?

橘:デザートになって

昇:そ、れは…

橘:……今夜は帰さないって、私のセリフで合ってる?

昇:……お手柔らかに、お願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

豚の恋 3人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ