幼馴染がアイドルやめた

桜井正宗

アイドル辞めてきた

「アイドル辞めてきた」


 授業中、安楽島あらしま かえではそんなことを口にした。


「え……」


 驚くと、教室中のみんなも驚いていた。



「えええええええええ!?」「嘘だろ!!」「安楽島さん、アイドル辞めたの?!」「なんでさー!!」「応援してたのに~」「もう引退かよぉぉ」「うわあああああああああああ」



 騒然となる教室内。

 今、安楽島さんは俺に向けて言っていたような気がする。


「飽きたから」


 って、そんな理由!?

 しかも、俺の目を見てハッキリと。

 やっぱり俺に言ってるよね。


 てか、俺と安楽島さんは初めて会話するはずなのだが、なぜ俺をジロジロ見る!


「あ、あの……俺に何か?」

「わたしと付き合って欲しい」

「なんの脈略もなく告白かよ!! 段階すっ飛ばし過ぎだろ!」


 これドッキリじゃないだろうな……。

 アイドルにして美少女の安楽島さんが俺に告白? ありえんだろ。

 しかも、クラス中が大混乱だ。



「ば、馬鹿なあああああああああああああ!!」「あの東山のどこがいいんだよ!!」「そうだよ、あの根暗でアニメオタクでウ●コ野郎の!!」「ふざけんな!! あんなヤツを選ぶくらいなら俺を選べよ!!」「東山ァ!! あとで体育館裏来いやあああああああ!!」「ぶっ殺してやる!!」「うああああああ、うああああああああああ!!」



 同じクラスの男子が大発狂してるぞ。

 まて、これ俺、殺される!?


 教室内が地獄みたいにカオスだ。

 主に男共が俺に殺意を向けてきていた。そんなにらまないでくれよ。俺だって意味が分からないんだからな!

 焦っていると、教壇に立つ筋肉ムキムキマッチョマンの体育会系の担任・古村こむら先生が黒板を強く叩いた。


「静まれ馬鹿共!!」


 その瞬間、教室内はしんと静まり返った。


「…………」


 そりゃ怒られる。

 今は授業中なのだから。

 このまま説教タイムかと思いきや――古村は俺を名指して、とんでもないことを言いやがった。


「東山。東山ひがしやま みなと……先生も安楽島のファンなんだ。お前を許さあああああああああああああん!!!」


「なにいいいィ!?」


「先生も!?」「な、なんだと……古村も安楽島のファンだったのかよ」「そういえば、古村は安楽島ガチ勢だって噂が」「ライブも全国追い掛けていたらしい」「やべぇヤツだな!!」「東山は、裁判なしで死刑にするべきだ!」


 おいおい!!

 俺の周り、敵だらけじゃないか。味方は誰もいないのかよ。どうしてこうなった!!


 完全に孤立し、俺は絶体絶命のピンチを迎えていた。このままでは山のどこかに埋められるか、海に沈められかねん。

 弁明しようと思ったが、後ろの席の安楽島は爽やかに笑っていた。おい、そこ……笑っとる場合か。



「東山くん、わたしのこの気持ちは永遠に変わらない。ずっとずっと好きだったから……だから」

「だからって教室で情熱的に告白すなー!! 恥ずかしいだろうが! クラスメイト三十人が見ているだろうがッ!!」


 あああああああ、もう限界だ!!

 顔が真っ赤だよ。今にも顔から噴火しそうで死にそうだよ、俺。

 なんで、なんでこうなった。

 変な冷や汗が止まらん。


 とにかく、もう教室にいられない!


 俺は、安楽島の腕を引っ張って教室から飛び出した。


 クラスは騒然となっていたが、もうどうでもいい! 今は、安楽島と二人きりで話がしたかった。


 頭が真っ白になってるけど、俺は前へ走り続けた。どこでもいい、静かな場所へ!


 風のように突っ走って気づけば屋上にいた。

 乱れた息を整えていく。


「……はぁ、はぁ……」

「凄い汗だね、東山くん」

「安楽島……お前はなんでそんな余裕なんだよ」

「わたしは普段、アイドル業で踊ったりして動くからだよ~」


 凄く納得した。

 それにしても、安楽島 楓とこうして話すようになるとは……いや、告白されるとは思わなかった。てか、一応現役アイドルだぞ!?

 なんの奇跡だよ。


「そ、そのアイドルを辞めるのか」

「うん、辞める」

「理由を聞かせろ。俺だってファンだったんだ」

「理由なんて単純だよ。東山くんと付き合いたかったから」

「なっ……」

「本当だよ」


 安楽島の意外すぎる理由に、言葉に詰まる俺。

 いや、ありえないだろ。

 そんな理由でアイドル辞めるとかアホだろ。

 こんなのはウソだ。現実じゃない。そうだ、夢だ。俺は今、ありえない夢を見ているに違いない。


 試しに頬をつねってみた。



「ほんげええええええええええええええええ!!!」(※悲痛の叫び)


「あはは。これは夢じゃないよ、現実。ねえ、東山くん。それとも、湊くんって呼んだ方がいいかな」


 アイドルのような――いや、間違いなくアイドルの笑顔を俺にくれる安楽島。なぜ、なぜ、なぜなんだ……俺はなんの取り柄もないアニメオタクでウ●コ野郎だぞ。

 彼女なんていたことない。

 姉も妹もいないし、女の子と手も繋いだこともない。


 今までアイドルだけを追いかけていた天涯孤独ごみくずぼっちの存在。それが俺だったはず。


 膝から崩れ、両手を地面について俺は現実リアルを受け入れられずにいた。


「俺は……」


 だが、安楽島はこんな俺に優しく声を掛けてきた。


「東山くん、覚えていないかもしれないけど、わたしと君は幼馴染だったんだよ」

「え……!?」


 お、幼馴染だって……?

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