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「……調子に乗って酒を飲んで記憶を飛ばして。それで、何がこの話の本題なんだ」

「酒飲んで気持ち良くなってそこから記憶がないんやけど……朝起きたらえらい別嬪が横で寝てて、ほんで俺も相手も裸っていう王道展開。おかげさまで二日酔いもなくて目覚めは良かったんやけど、『記憶ないわ』って言うたら、まあ〜悲しそうな顔されてもうて……流石に良心痛みまくり」

「さいってえだな、お前」

「最低な男なんはとりあえず認めるけど、なんやねんその女子高生みたいな話し方……ほんで相手も『何もなかったから気にしないで』って言うねん。そんなん言われたらもう胸痛くて……」

「一発殴られてこいよ」

「俺もそれくらいは覚悟してたんやけどな……そんな一悶着もなんもなくてめっちゃ美味い朝食ご馳走になって帰ってきたわ」

 遊び人ではあるものの流石の千葉もしおらしくなっている。今までの遊び相手は『基本的に遊びが前提』の付き合いだ。しかし今回の相手はどうやら『そういう前提』のない状態で、尚且つ相手も慎ましやかな人間らしい。一晩寝たとはいえ、相手との一線をある意味でわきまえようとするような――だからこそ遊び前提でないのがタチの悪いケースだった。

 千葉は左手で頭を抱えたまま次々に煙を吐き出しており、片手で新しいカートリッジを取り付けようとしているところだった。

 千葉は最低な男であることには違いないが、しかし最低な男の振る舞いを貫き通せばいいだけの話だ。それがこの悩み話の落とし所になる。

「一晩寝ただけで相手も『何もなかった』って言ってるんだろ? それならもう連絡をせずにフェードアウトすればいいだけの話じゃないか?」

「あー……いや、まあ……そうかもしれんけどお……」

 やけに歯切れの悪い言い方に謎が深まる。

 そもそもこの話に出てくる相手の女は誰なのか。女の正体がわかれば千葉がここまで面倒くさい反応をとる理由もわかりそうなものだった。

 千葉がここまで心を許せる相手とは誰なのか。俺たちの親しい人間で思い当たる女で言えばアヴェ・真理愛だが――もしこういう状況に陥ったとして、あの女が制裁なしにこの男を解放するとも考えられない。

「なんだその反応……縁の切れない相手なのか?」

「まあ……切りづらいかなあ」

「一応聞くが、真理愛が相手ではないよな?」

「そんなわけないやろ……そもそも真理愛ちゃんはマスターの顧客みたいなところあるし、手出したらほんまに殺されてまう」

 わかっていた答えではあったが、相手の女が誰なのかというアテがほとんどなくなってしまった。もうひとり思い当たる人間はいるが、遊び相手でしかないことが確定しているので質問するほどでもない。

「どうしてそんなややこしい相手に手を出したりしたんだ……」

「ちゃうって。記憶にないんやって、ほんまに。そりゃ、ずっと綺麗やなあとは思ってたけど」

「綺麗やなあって手を出すヤツがいるか、このアホ」

 千葉は頭を抱えっぱなしだったが、頭を抱えたいのは俺だった。

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