第3話 王子くんはスパイシー?
「ごめんね、遠回りさせて。ここなら大丈夫だと思うから」
「うん、いろんな人が見てたね。
ここに辿り着くまでに、何人もの人が
「みんな、俺と話したことなんかないのにね……」
「
「ありがとう。でもここは鍵も閉めたし大丈夫。先生にも許可をもらって借りたから」
気を取り直すかのように、
「
「いや、私の方こそ、言い逃げしてごめんね」
「これ、よかったら食べて欲しいんだ。開けてみて」
「え……?」
受け取って中身を確認すると、そこにはケーキが何切れか入っていた。
「これは……パウンドケーキ?」
「うん。どうしても諦めきれなくて。これ俺が作ったんだ。食べてみてくれないかな?」
「でも……」
「お願い、おいしくなかったら断ってくれていいから!」
昨日、あれから作ったのかな?
私に食べて欲しくて?
よく見ると、
「じゃあ……いただきます」
私はパウンドケーキを一つとって口に運んだ。
口の中に、バナナのいい香りが広がる。それから、くるみの香ばしさとほんの少しのキャラメル?
しっとりとした生地にくるみの食感が楽しい。
なにより、とってもおいしい——!
「その顔は、及第点てところかな?」
「ん?」
いつの間にか目を開けていた
私がケーキを飲み込んで首をかしげると、彼はさらににっこりと笑って、私に手を伸ばしてきた。その手が、私の口元に触れる。
「ケーキついてるよ。かわいい」
「え!!」
「うん。まあまあか……。でもまだ父さんには敵わないね」
「あ、え……今……」
私がおそらく顔を真っ赤にして、口をぱくぱくと開いていると、
「
も、もしかして「シュクル」でケーキを食べてる時の顔、ずっと見られてた?
私は恥ずかしくてたまらなくて、顔がどんどん熱くなった。もう消えてしまいたいけど、さっき鍵がかかってるって言ってたから逃げることもできないし……。
「あ、
「は、恥ずかしいに決まってるよ〜。前からずっと見てたんでしょう?」
私はグッと涙を堪えて飲み込んだ。
「確かに前から見てたよ。なかなか話しかけられなかったけど、俺嬉しかったんだ。父さんのお菓子は世界一だって思ってるから……。あんなにおいしそうに食べてくれる子がいて、本当に嬉しかったんだよ」
「本当?」
私の問いかけに、
「本当だよ。だからこそ、
「う〜ん……」
今度は上目遣いで私の顔を覗き込んでくる。
なんか
断りにくいなあと思っていると、彼はそれを察したように一歩踏み込んできた。
「俺、毎日何か作ってるから、部活の後食べにきてくれるだけでいいよ。もちろんタダ」
「ええ、タダ?」
しまった、食いついてしまった。けど、後悔してももう遅かった。
ここから、彼は畳みかけるように語り始めた。
「そう、毎日でもいいんだよ。うちのケーキセット安いとは思うけど、中学生には痛手だよね? コンテストに出すつもりだけど、結果まで
「う、うん。それじゃあ……」
「じゃあ、いいの?」
「はい……」
私は観念して、静かに頷いた。
途端に
「やった!
こうして私と
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