第9話

ミアナが死んでしまってからは、

ほとんど覚えていない。

ただひたすらに走った気がする。

今いる場所も、来た道もわからない。

この小屋で過ごして2日がたった。

ずっと泣いていたと思う。

今はもう落ち着いてきた。

「ちょっと飯をとってくる」


「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

ヒアナはずっと何かに謝っている。

私にはそっとしてあげることしかできない。


魚を取りながら考える。

私がもっと強ければ、

私が止めていれば。

だがもう過ぎてしまったことだ。

もうミアナは取り戻せない。


もうすぐ帰るか。


「帰ったぞ」

「久しぶりの飯だぞ」

魚を焼く。

ただ火の音だけが聞こえる。

「明日、町に行ってみようと思うんだ」

「うん」

ヒアナは掠れるような声でいった。

私は町でなにか買ってくるつもりだ。

ヒアナが喜びそうな物を。


「いってきます」

私は魚を取っている時に見えた道を頼りに進んだ。

2時間は歩いただろうか。

やっと町に着いた。

かなりでかい町だ。

私は必死に店を回った。

そしてピッタリな物を見つけた。

熊の人形だ。

孤児院の頃、ミアナとヒアナはお揃いの熊の人形を持っていたがヒアナは無くしてしまった。

その人形にそっくりだ。

夜までには戻らないといけないので、

急いで買って帰った。


「ヒアナ!」

「ヒアナにプレゼントがあるんだ」

「えっ、なに?」

ヒアナはかなり驚いた様子だった。

そして人形を見せた。


ヒアナは久しぶりに笑った。

泣きながらその人形を抱きしめていた。

その日はぐっすり眠れた。








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