夜中のラーメン 2人用台本

ちぃねぇ

第1話 夜中のラーメン

【登場人物】剛(ごう・もしくはつよし)、唯(ゆい)


0:ベッドに入った剛の携帯に着信のメロディ。


剛:え…電話?…嘘だろ誰だよ…もしもし

唯:あーもしもし?剛?

剛:もしもしって、お前今何時だと思ってんだ

唯:丑1刻(うしいっとき)?

剛:何百年前の数え方してんだお前は。もう夜中の一時だぞ、連絡するには非常識な時間だって認識あるか?

唯:ラーメン食べたいの!

剛:……は?

唯:私ね、今無性にものすごーくラーメンが食べたいの

剛:はぁ?家でカップラーメンでも食っとけよ

唯:いーやっ!私は今、私の為に誰かが丹精込めて作ってくれた至高の一杯を食べたいの!

剛:お前なぁ…

唯:うちの近所に3時まで開いてるラーメン屋さんがあるんだけど

剛:…おいまさか、今からそこに連れてけって話か?

唯:だって美味しいものは誰かと共有したほうがより美味しくなるじゃない

剛:誰かって…

唯:あんた近所じゃん?

剛:3駅離れてますけど?

唯:バイク持ってんじゃん?

剛:バイクで乗せてけと

唯:ううん、現地集合現地解散でいいよー?

剛:おい…お前この時間に外一人で出歩く気かよ

唯:え、マズい?うちの近所街灯多いし大丈夫じゃない?

剛:…じゃねーよ阿保。はぁ……30分待っとけ。大人しく家で待っとけ

唯:え、迎えに来てくれるの?

剛:貸し1だかんな。んじゃ出るわ

唯:ほいほーい


0:20分後、唯のアパート前に到着した剛。


唯:おー!到着早い!フッ軽だね剛!

剛:ヘルメット一個しかねぇから、唯のアパート停めて歩くぞ

唯:えぇ~?

剛:嫌なら帰る

唯:嘘嘘ごめん、付き合ってくれてあんがと

剛:ったく

唯:あんたって優しいよねぇ。こーんな急なお誘いに応えてくれるんだから

剛:非常識だって自覚はあるんだな

唯:まーね!

剛:…お前、酔ってんだろ

唯:ふふふ~わかっちゃう?

剛:足取りおぼつかねぇんだけど

唯:ふふふ~

剛:ったく……飲み会帰りの〆の一杯が食いたくなったって話か

唯:……まぁ?そんなところ

剛:近所のラーメン屋って旨いのか?

唯:さぁ?入ったことないからわかんない

剛:お前な…

唯:でも、二人なら旨いんじゃん?しらんけど

剛:……あっそ


0:ラーメン屋にて。


唯:え、これうまっ。美味くない?

剛:…だな

唯:やば、期待以上なんだけど!え…もっかい来よう。うそぉー…うまっ

剛:そりゃよかったな

唯:えー…こんなに美味いと飲みたくなっちゃうじゃん

剛:お前〆に来たんじゃねぇのかよ

唯:…飲んじゃダメ?

剛:俺バイクなんだけど

唯:…だよねぇ

剛:……いいよ。好きにしろよ

唯:えっ…いいの?

剛:いいよ。お前が勝手なのはいつものことだろ

唯:ありがとー!おじさんビール追加で―!

剛:ったく…

唯:ふふっ…あんたホント優しいよねぇ

剛:そうかよ

唯:あんたの彼女はいいよねぇ…こんな優しい彼氏がいてさぁ

剛:…お前ほんとに酔ってんだな

唯:酔ってないわよぅ

剛:酔ってなかったら俺に彼女がいるなんて妄想しねぇだろ

唯:ふふっ…そうだっけ?

剛:相手がいるのはお前の方じゃねーか

唯:え?

剛:今日のこれ。…デートだって後で彼氏に詰(なじ)られても責任持たねぇからな

唯:だいじょーぶ、詰ってくる男なんていないから

剛:はぁ?お前の彼氏どこいったんだよ。いただろ、確か。経営学部の

唯:別れた

剛:なんで

唯:どっか行った

剛:はぁ?

唯:同じサークルの女んとこ行った。……飽きたって

剛:んだよそれ…サイテーだな

唯:でしょーサイテーだよね!飲まなきゃやってらんないよね!

剛:んで、一人家でやけ酒してたってわけか

唯:……ほんと、サイッテー……本気で好きだったのにな…

剛:あっそ

唯:あっそって!…まーいーや。今日を最悪のまま終わらせずに済んだし!こんな美味しいラーメン屋が近所にあったなんて、入ってみないとわかんないもんだね

剛:そうだな

唯:それともあれかな?あんたと二人で食べてるからこんなに美味しいのかな

剛:…さーね

唯:あーあ。あたしの彼氏があんただったらなぁ

剛:お前酔いすぎ

唯:だってあんたなら浮気しないじゃん?なんだかんだ優しくて面倒見いいし…ああでも、こんなわけわからん女に夜中呼び出されてラーメン付き合う優しさは要らんかも

剛:…誰でも彼でも付き合う訳ねぇだろうが

唯:そなの?

剛:……お前、グラス貸せよ

唯:へ?


0:剛、唯のグラスを奪い取りビールを喉に流し込む。


唯:ちょっ!あんた、バイクは!?

剛:これで帰れなくなったな

唯:何考えてんの!?

剛:今日……泊めろ

唯:え…

剛:俺なんかが彼氏でいいんだろ

唯:や、それはなんと言うか物の例えで

剛:浮気はしない、誓う。優しくて面倒見がよくて夜中に呼び出されてもフッ軽で速攻駆けつけてくる…我ながら好条件だな

唯:あんた、それ自分で言う?あのねぇ…今の状況よく考えてみ?同情とかノリとかで付き合っても碌なことないわよ?

剛:何とも思ってない知り合い程度の女の為に3駅バイクで飛ばすかよ。夜道でも何でも一人で歩いてろっつーの

唯:あんた、聞こえによってはめちゃくちゃ冷たい奴になるわよ

剛:唯にどう思われるかだけでいい

唯:……酔った?

剛:中ジョッキ3分の1で?

唯:…マジで言ってる?

剛:マジ

唯:あんた、私のこと好きなの?

剛:割と?

唯:なにその疑問形

剛:仕方ねぇだろ。意図的に対象から外してたんだから

唯:え

剛:お前、出会った頃から男いたじゃん。横恋慕とかめんどくせぇ

唯:あ、いや…

剛:泊めろ。…んで、抱かせろ

唯:なあっ…!あ、あんたね!ここラーメン屋!なんてこと言ってんのよ!

剛:酔ってるから許せ

唯:絶対酔ってないでしょ!つかね!馬鹿正直すぎるでしょ!?こういう時は「何もしないからあげて」ってお願いするもんでしょ!?

剛:はぁ?嘘吐いてどうすんだよ

唯:なっ…

剛:泊めたらそういう事する。……このビール飲み干す前に結論出せ

唯:……卑怯じゃん。断ったらあんた今日どこで寝るのさ。飲酒運転絶対反対

剛:こっから歩いて10分も行けば満喫あるだろ。そこで寝てやるし……全部なかったことにしてやる

唯:え

剛:気まずい思いもさせない。今日という日を無かったことにする。…お前は美味いラーメン屋の存在を知らずに失恋のショックでやけ酒してた女になる

唯:なにそれひどい。こんな美味しいラーメン人質にする気?

剛:決めろ。大人しく抱かれるか、美味いラーメンとの出会いをなかったことにするか

唯:……うち、ゴムなんてないんだけど

剛:コンビニ寄る

唯:うち、壁薄いんだけど

剛:お前が声殺せばいいだろ

唯:なっ…それが口説いてる女に言う言葉!?

剛:悪かったな、俺にデリカシーなんて概念はねぇ

唯:開き直るなっ

剛:…せっかくのラーメンが伸びるぞ

唯:誰のせいだと

剛:このラーメン、美味いな

唯:…美味しいわよ

剛:このラーメン、無かったことにするには美味すぎねぇ?

唯:あんたほんと、卑怯…

剛:俺を呼んだお前が悪い

唯:………コンビニでアイス奢って

剛:了解

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夜中のラーメン 2人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

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