第2話 ひっくり返った祠様

母の愚痴は、叔父さんの親、つまり私のおばあちゃんの家に着いた時も、止まらず、愚痴は、先に警察やら諸用に出ていた父の帰り足を遅らせた。母は、割とネガティブな人で、おおらかな父親は、どうしてこんな母親と一緒になったのか、不思議だった。母親の不機嫌を察したおばあちゃんは、私に先に寝るように、目で合図を送ってくれて先に、風呂に入る事ができた。田舎らしく、外に建てられた浴室は、窓から空がのぞけて、とても気持ちがいい。窓から外が、覗けるという事は、あちらからも、こちらが覗けるのかな?なんて、思って、慌てて窓を閉めてみた。ガサっと音がして、何かの気配がしたが

「誰?」

といっても、誰がいるわけでもなく、のんびり、檜の香のするお風呂を頂いた。次の日も、不機嫌な母親の相手をするのが、苦手な父親は、

「凪流の職場に行ってみるか?」

と父親に聞かれ、叔父さんの学校に行くことにした。

「多分さ・・・」

叔父さんの学校は、歩いてすぐなので、叔父さんの話題に触れない父親に、話を振ってみた。

「あれは、叔父さんなんだよね」

「どうかな」

父親は、ポツンと答えた。それはそうだ。おじいちゃんも山で亡くなった。おばあちゃんは、女手一つで、民宿やキャンプ場を経営して、叔父さんと父親を育てた。親子2代、山で亡くなるなんて。しかも、叔父ちゃんは、未婚のままだ。誰か、いい人が居たのかもしれないけど、私が知る限り、山が大好きな、ただの変わり者だった。

「着いたぞ」

学校は、休みだったらしく、人の気配がなかった。事前に、学校には、連絡を入れていたらしく、奥の昇降口は、空いており、父親は、私のスリッパを並べると、スタスタと歩き出した。

「荷物を取りに行ってくるから。この辺で、待っていろ」

振り向かずに、先へといってしまった。

「あ!待って」

構わず、先に進んでいく。校舎の中は、昼間なのに、鬱蒼として、暗く感じる。小中高の一貫性の学校らしく、廊下には、いろんな物が並んでいた。教室らしき部屋が幾つもある。

「一体、何人がいると言うのよ?」

教室を覗きながら、先を進んでいくと、今まで見た、教室の扉とは、少し違う厚みのある重い扉のある部屋があった。

「図書室?資料室?」

何となく、興味があり、ドアを押してみた。

「あれ?」

そう扉は、引き戸である。滑りの悪い扉をやっと開けると、

「ムン!」

カビ臭さが鼻腔に飛び込んでいる。埃に塗れた書類や本が重なって床に積み上がり、本棚が、重なって寄りかかっている。

「何なの?これ」

先に進もうとした時に、足先が何かに当たった。

「何?」

見下ろすと壁から落ちた1枚の絵画が足先に当った様だった。

「何じゃ?こりゃ?」

抱え上げると、そこには、寂れた祠の絵が書いてあるだけだった。

「し・・・渋すぎる!」

祠の絵を描く人がいるとは!何か、他に珍しい物はないかと、見渡す為、絵画を床にそっと置いた。つもりだった。

「アタタタ!」

なんと!絵画の中から、毛の塊が、転がり落ちてきたではないか!

「もっと、静かに置かないか?」

「ヒェ!埃玉!」

慌てて、飛びすさり、長年の埃が口を聞いたかと、何度も、見下ろす。

「あまり、見るではない」

よく見ると、埃玉華と思った小さな丸い塊は、全身を長い毛で覆われており、真ん中辺に目玉らしき物と先の尖った鼻らしき物があるだけだった。

「失礼だぞ」

あまり見るものだから、埃玉は、気を悪くしたらしい。

「あなたは?」

話す犬?しかも、太った?理解できずにいると埃玉は

「謝るのだ。王に失礼だぞ」

「どこに?王が?」

「ここにいらっしゃる」

埃玉が、ぴょんと絵画の上に飛び上がると、描かれた祠の絵の中に1人の少年の姿が現れていた。

「あれ?」

「我らが、王様だ」

絵画の中に描かれているのは、鼻を垂らした5歳くらいの赤だらけの男の子が、ボロボロの衣服を見に纏い、大きく両手をあげている。

「王様?」

「王様」

「ごめんね。まだ、起きてないみたい」

夢でも見ているかと思い、図書室から、出ようとすると

「待て待て・・」

埃玉は、前に立ち塞がり、絵画を持ち上げ用とした。

「頼みがある!助けて欲しいのだ」

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