第1章 I shall create a new world for myself.
Opus,1
目覚めると白い天井が見えた。
周囲からは鼻をツンとさせる薬品の匂いが漂い、手には少しゴワゴワしたシーツの感触。
――ここは何処だろう?
とりあえず天国や地獄ではないらしい。
間仕切りに使われているのだろうか?
薄手の白いカーテンが揺れる。
そこから、ひょっこりと現れた前髪の異様に長い座敷童子みたいな女の子が俺を心配そうに見つめていた。
――知らない女の子だ。でもこの子が着ている制服をどこかで見たような……。
「田中君、大丈夫?」
座敷童子は蚊の鳴くような声で話しかけてきた。
俺は――どうやら田中という名前らしい?
なんとなく変な感じだ。
目の前の女の子をマジマジと見つめる。
前髪のせいで顔の表情は分かりにくいが、心底、心配してくれていそうなので話を合わせた。
「多分、大丈夫だと思う」
首や肩を回したり、手の平を開いては閉じたりしてみたがどこも痛くなかった。
勿論、内臓の方も大丈夫そうだ。
「よかった……。体育の授業中に倒れて保健室へ運ばれたって聞いたから心配しちゃった。あのね……田中君の鞄を持って来たから一緒に帰ろう?」
酷く安堵したような笑みを浮かべる座敷童子のような女の子。
えっと……なんかこの状況はさっぱりわからないが、なぜか今の俺にはこの子の優しさが身に沁みてしまった。
俺は軽く頷いてベッドから起き上がり、鞄を受け取って保健室を後にした。
◇◇◇
俺の隣を歩く座敷童子さんは――
俺は春山さんの話に耳を傾けながらも、次々と脳内へ流れ込んでくる記憶に戸惑っていた。
その記憶は主に二つ。
前世の記憶と現在の記憶だ。
前世の記憶はオギャーと産声を上げた時から亡くなるまでの記憶。
しかし、名前は思い出せない。
現在の記憶もそうだが「田中」という苗字だけはあるらしい。
えっと……名前は?
なに、これ?
どーゆーことなん?
名探偵コナ○ヨロシク顎に手を当てて、頭をしきりに捻ってみるが「田中」は「田中」でしかなかったので諦めた。
もしかしたら、俺は死んでなくて――彼女を親友に寝取られたショックで頭がおかしくなっただけかもしれない。
うん、そこまで考えて――自分で事故った。
なんか前カノのことを、不意に思い出してしまった。
はあ……。
先にゆーてぇ。
俺に至らない所があったんやったら、浮気する前にゆーてぇ。
好きだったのになぁ。
ぐすん、ぐすん。
はあ……今すぐあったかい布団で眠りたい。
俺は訳の分からない状態異常と再び襲って来た失恋の悲しみとで、完全にキャパオーバーになっていた。
そんな時だった。
「田中君?大丈夫?さっきから顔が青白いよ。また具合が悪くなっちゃった?」
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる春山さん。
「どこかで休む?」
ううっ、癒し系ヴォイス……。
や、やざじぃよぉ。
俺の前カノは可愛かったけど、こんなに優しくはなかったからな。
どちらかというと、我儘でいつも自分の都合ばかり押し付けてきたし。
「ありがとう、春山さん」
心から漏れた感謝の言葉だった。
「ええっ!!お、お礼を言われるようなことしてないよ、わ、私……」
それを聞いた春山さんはモゴモゴと言葉を濁しながらアタフタするのだった。
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