かけがえのない“かわらない”

 日記を読んだ夜からしばらく経ったある日。


「何これ美味しいっ!」

「片栗粉を作れたから、いももちを作ってみたの……」


 あれから特に何かが変わったということもなく、今日は晴れ渡る青空の下でみんなでいももちを食べていました。


「えっ、片栗粉って作れんの?」

「じゃがいもからとれる……」


 いももちを作るにはじゃがいもの他に片栗粉が必要ですが、その片栗粉も月美がじゃがいもから作ったもの。


「片栗粉があればつなぎにしてハンバーグもできるんじゃない〜?」

「ハンバーグか。いいな、食べたい」

「確かに……。今度してみる」

「はーい、私ピーマンの肉詰めが食べたいです!」

「いいですね」


 片栗粉さえあればハンバーグのつなぎの他にとろみのあるソースや餡を作ったり、ピーマンの肉詰めのように食材同士をくっつけることもできます。これでまた、作れる料理の幅が大きく増えることでしょう。


「片栗粉用にじゃがいもの栽培量を増やすか」

「そうだね」


 とはいえ、ただでさえ今のお米やパンに代わる主食になっているじゃがいもで、片栗粉まで作るとなるとじゃがいもを使う量はかなりのものになります。


 なので、畑でのじゃがいもの栽培量を今よりももっとたくさんに増やさなければいけません。


「なんというか〜……」


 この世界に隠された驚くべき過去。それを知っても尚、何か起きるわけでもなくみんなで力を合わせて暮らしを充実させていく。変わらない毎日に、みんなある事を思っていました。


「平和じゃね?」

「そもそも天使だとか、知ったからっていきなり攻めてくるわけでもないからな」

「何かあるまでは今まで通りが一番だよね」

「そう、思う……」


 なんだか、平和だなぁと。


 けれどたとえ過去に何があっても関係ありません。何も起きない限り今はただ、この平和が一番なのです。


「ところで提案なんですが」

「何かな」

「みんなで基地の探索、もっとしてみませんか」


 ここでフランが、改めて基地の中を探索することを提案しました。

 

「またどうして」

「食料の備蓄も充分にできて、今の所不便なところもありませんし……」

「要するに暇つぶし?」

「そう、それですっ!」


 その理由は、ただの暇つぶし。たったそれだけでした。


 冷凍庫には鹿肉が、冷蔵庫にはもうたくさんの野菜が入っていて、生活で困るようなこともないため建築もしなくてもいい今、みんな手が空いているのです。こういった時にこそ、基地を探索するべきじゃないかな、というのがフランの考えです。


「天使を一撃で仕留められる杭打ち機パイルバンカーなどはないものか」

「ドリルでもいいよ〜」

「もっと使いやすいのが、いいかな……」

「つくみん、この二人の言う事真面目に受け取っちゃダメよ」

「あはは……」


 一撃で天使を倒せる、なんて都合のいい武器はないでしょうが、基地を探せば何か使えるものもあるかもしれません。


「これという目的もなく新発見を探してみるのも、いい遊びになるかなと思いまして」

「ならみんなで行ったほうが楽しいから、班分けは今回はなしでいいかな」

「さんせ〜!」

「では今日はお気楽基地探索の日にしまーす!」


 こうして今日の予定は一日中基地の探索に。新しいものは何か見つかるのでしょうか。






「じゃあ、どこ行こっか」


 いももちを食べた跡を片付けてから、改めて外に集まったみんなは、探索前にこれからどこに行くかを決めます。


「空港なら飛行機の格納庫があるはずなので、行ってみませんか?」

「格納庫か。ロマンだな」


 今日の最初の目的地は、まだ一度も行っていない格納庫に。


「あれかな。ちょっと遠いからロボットで行ってみる?」

「それが、いいと思う……」


 ですが少し遠くて、歩いていくのは大変です。そこでみんなは、ロボットに乗って行ってみることにしました。


 そうと決まれば全員停めてあるロボットのコクピットに乗り込み、スイッチを操作して起動させます。


「全員でこいつに乗るのは久々な気がするな」

「もしかしたら最初以来じゃないかな〜」


 小夜子や智実の言うように、思い返してみればみんなでロボットに乗ったのは初日のコンテナを降ろす時以来かもしれません。


 生活を始めてからは必要な時に交代で乗っていたので、全員一緒にロボットに乗るのはみんなとても久しぶりに思えました。


「それじゃあ、行こうっ!」


 光里の合図で、みんなで一緒に格納庫へと向かいます。


 歩いたら長い距離も、巨大ロボットならあっという間。程なくして目的の格納庫の前に到着しました。


「本当にロボならすぐ着くね〜」

「でも扉閉まってるよ?」


 けれど格納庫は、頑丈そうな鉄の扉で閉められていて中に入ることはできません。


「フランはどうすればいいと思う」

「ここはそうですね」


 一体どうすれば中に入れるのでしょうか。みんなここは一番賢いフランに考えてもらうことにしました。ですがその答えは……。


「こじ開けましょう!」

「よし来た!」


 あまりにも単純な力押しでした。


 フランとお手伝いに入った悠樹の、二体のロボットが扉を掴んでこじ開けようとします。


「ふららんも変わったよね。なんかこう、いい意味で大雑把になったってゆーか?」

「前のフランちゃんなら多分こじ開けるなんて言わなかったもんね」

「そう、ですかね……」


 ドアを開けながら、そんな会話を交わす悠樹に光里、そしてフラン。


 確かに以前のフランならスイッチを探して開けよう、のようにもっと頭を使って考えていたでしょう。力づくでこじ開ける発想が出てくるようになったあたり、この生活でフランも少し変わったのかもしれません。


「お、開くよ〜」

 

 そうして話しているうちに、ついに扉が開きます。


「これは……」

「まじで……?」

「これは、凄いな」


 その向こうにあったのは、驚くべきものでした。


「もしかしてこれ全部ゼクト?」


 格納庫中に置かれた、光里たちのロボットに似たロボットたち。これが、昔の人たちが使っていたゼクトなのでしょうか。


「下半身が、戦車みたいなのもいる……」

「あれ見て、背中に大砲がついてる!」

「さしずめ【ゼクト・タンク】に【ゼクト・キャノン】といったところか」


 そこにあるのは光里たちのロボットのような人型だけではありません。脚がキャタピラになっているものから大砲がついたもの、四本脚のものなど色々な形のゼクトがここには置かれていたのです。


「この武器なら使えそうですね」


 そんな中、フランはあるものを見つけました。壁にかけられた大きな筒のようなものです。


 試しにそれをロボットに持たせてみると、何やら反応がありました。


【300ミリロケットバズーカを接続しました】

「あっ、本当に使えそうです」


 どうやらこの武器は、300ミリロケットバズーカというみたい。ロボットがしっかり認識したということは、きっと対応している使える武器なのでしょう。


【90ミリアサルトライフルを接続しました】

【4連装対空ミサイルランチャーを接続しました】

「すごい、使える武器がたくさん!」


 他にもみんなどんどん新しい武器を見つけていきました。なんだかみんな楽しくなってきているみたい。


 ですがここで、一つ問題があります。


「でも実戦で弾が出なかったじゃお話にならないからね〜」


 智実の言うように、ここにあった古い武器がちゃんと使えるのかどうかはわかりません。もし天使との戦いになった時に故障していて撃てなかった、なんてことになったら大変ですから。

 

「つまり?」

「外で試し撃ちだ〜!」


 というのは遊びたい建前。これからは楽しい試し撃ちの時間です。


 その、筈でしたが……。





「だめか……」

「人間用の銃は真空保存されていましたが、これだけのサイズとなるとそうはいきませんからね。劣化しているのでしょう」


 残念ながら置いてあった武器は全部、使う事はできませんでした。M4カービンのような人間用の武器はしっかりと真空パッケージで保存されていたので使えましたが、さすがにここの大きいものは空気に触れてダメになってしまったみたいてます。


「武器でダメならまあ本体もダメだよね〜」

「せっかく見つけたのに、なんかもったいないなぁ」


 武器でもだめということは、きっと他のゼクトたちも動かなくなっているのでしょう。少し残念ですが、みんなは格納庫にあったお宝たちを諦めて外に出ました。


「次はどこ行く?」

「基地の中に行きましょうか」


 この次は、いつもの基地の建物の中を改めて探索してみることに。今度こそいいものがあるといいですね。





 それからしばらくした頃。


「ああ、いいお湯……」

「お風呂って、いいですね……」


 あったかいお湯。ただよう湯けむり。


 どうしてか光里たちは、温泉のような大きなお風呂にみんなでゆっくり浸かっていました。


「まさか風呂が見つかるとはな」

「こんなんあるならもっと早く知りたかったんだけど」

「それは……そう……」


 格納庫の後に基地の中を探索してみると、なんと大浴場が見つかったのでした。


 見つけたばかりのこの場所はホコリを被っていたものの、ちゃんと水道や給湯器は使えるようになっていました。そこでみんなでお風呂掃除をして、今はこうしてお湯に浸かっているというわけです。


「まあまあ、お風呂に入れたんだからいいじゃん〜」


 もっと早く見つけていればシャワーだけの生活にはならなかったのですが、今から言っても仕方がありません。これからはいつでもお風呂に入れる、それだけでも大き過ぎる成果でしょう。


「こんな毎日が、ずっと続けばいいのになぁ」


 肩までお湯に浸かって、とろけたような表情を浮かべながら光里は呟きました。


 とっても平和で楽しいこの毎日。こんな日常が、いつまでも続くといいですね。

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