脱衣場を建てよう

 探索の翌日。


 今日からはみんなで農業に取り掛かる……はずでしたが、今日の作戦会議の様子はちょっと変です。


「急に集めてごめんだけど、うちからみんなに大事な話があんの。これは深刻な話だから、よーく聞いてて」


 たった二日目で変、というのもおかしな話ですが、この場を取り仕切っているのはリーダーに選ばれた光里ではなく、どういうわけか悠樹です。


 深刻そうな表情を浮かべる彼女は、一体どんな話をするのでしょう。みんな息を呑んで言葉を待ちます。


 そして漂う緊張感。そんな中、とうとう悠樹が口を開きました。


「脱衣場が、ないッ!」

「確かに、それは困る……」

「家で脱いで裸でシャワーまで行って戻ってたもんね」

「誰もいないのはわかるんですが、それでも裸で外を歩くのは恥ずかしいです……」


 脱衣場。それは確かに、みんなにとっても深刻な問題です。


 というのも今のシャワーはコンテナの浄水タンクの外側に取り付けられているだけ。外から見えなくする仕切りこそ一応は付けられているのですが、そこで服を脱いだり着たりする為の脱衣場がないのです。


 服が風に飛ばされたり、砂利で汚れるのを避ける為には、お部屋で服や下着を全部脱いで、裸で外に出てシャワーを浴びに行かなければなりません。いくら仲のいい友達グループと言っても他のみんなに見られながら裸になるのは恥ずかしいですし、誰もいないとはいえ裸のまま外を歩くのも嫌でしょう。


 これは、女の子にとっては深刻な問題です。


「そうか? 私は別に平気だぞ」

「それは小夜子だけじゃないかな〜」


 どうやら一人、そうでもない人もいるようですが。


「これは乙女にとっては深刻な問題。だからこそ、これは真っ先に解決しないといけない問題だとうちは思うわけ!」

「農業を始める前にシャワーは快適にしておきたいよね」

「というわけで今日の活動は、シャワーの脱衣場建設を提案しまーす!」


 農業を始めると土で汚れることも増えて、今よりももっとシャワーを浴びたくなるでしょう。そうなる前に、シャワーを快適にしたい。それに反対する子はやっぱりいません。


「建設って言ってもどうやって……」

「材料集めにそんなデカイ物の組み立て、加工もある。結構大変だぞ」


 けれども小夜子の言うとおり、簡単な脱衣場とはいえ、人が入れるくらいのものを建てるのは簡単ではありません。ましてやここには10代の女の子ばかり。男手のひとつでもあればまだやりようはあったかもしれませんが、いないものは仕方がありません。


 重労働になりそう。そうみんなが覚悟を決める中、智実は余裕綽々で見事なドヤ顔を見せています。


「ふっふーん、君たち忘れてないかね?」

「智実ちゃん、何か案があるの?」


 そう、あるではありませんか。男手なんて目じゃない、度が過ぎたくらいに力持ちな、自分たちの思い通りに動かせる労働力がここに。


「あたしたちには、巨大ロボがある!」


 




【ゼクト・オメガ6号機、起動します】

「お世話になりまーす」


 今回ロボットに乗り込んだのは悠樹。悠樹はロボットを起動させると、武器が入ったコンテナへと向かいます。


「おーらいおーらい!」


 光里の誘導に従いながらロボットを歩かせてコンテナの前に立ち、スイッチでセンサーのモードを切り替えます。するとロボットの一つ目が自動でコンテナの中を調べ、そこに入っている武器を一つ一つコクピットの画面に出しました。


「このナイフでおーけー?」

「はい。説明書によるとそれが小型タイプの高周波ブレード。刃を超振動させて対象物を切断する武器です」

「へぇー。つまりバイブ付きナイフってこと?」

「ま、まあ……それでいいと思います」


 その中から選んだのは、ナイフ型の高周波ブレード。


 ロボット用としてはかなり小さい武器ですが、それでも人間用のものとは比べ物にならないほど大きいナイフ。それにカーソルを合わせて操縦桿の引き金を引くと、自動でロボットがコンテナの中から取り出してくれました。これなら武器がぎっしり詰まったコンテナの中からでも、他を傷つけずに簡単に欲しいものだけを取り出す事ができます。


「あったぞ、資材置き場に。塩ビパイプと金属ワイヤー」

「やっぱりロボットがあると、運びやすい……」

「見たかのあたしの操縦センスを! 歩いてるだけだけど!」


 そして材料の調達班、小夜子と月美と智実も戻ってきました。今回智実が操縦するロボットにはたくさんの塩化ビニールのパイプと金属製のワイヤーを腕や足にくくりつけられて、片手には小夜子と月美が乗っています。


 戻ってきた智実のロボットが膝立ちになって月美と小夜子を降ろすと、智実と悠樹もコクピットから降りてみんなで材料の荷降ろしを始めました。


「工作って感じでいいね〜」

「夏休みの自由研究、思い出す……」


 そして智実とフランの二人で書いた設計図通りにパイプの長さを測って切るための線を引き、切りやすいように両端を台の上に乗せます。


 そこまで済ませると、悠樹はもう一度ロボットに乗り込んでナイフを構えました。いよいよ切断作業の始まりです。


「悠樹ちゃんよっろしくー!」

「みんな離れててー」


 しかし高周波ブレードは普通のナイフではないことは明らかですが、使えばどうなるのかは想像もつきません。危ないのでみんなが離れたことを確認してから、悠樹はゆっくりと慎重に刃をパイプに当てます。


 その瞬間、本当に触れただけのつもりだったのにパイプはスッパリと綺麗に切れてしまいました。


「うわっ、豆腐みたいに切れるじゃん」

「これが高周波ブレードの威力……」


 見ていた月美も思わず声を出してしまうくらい、高周波ブレードの威力はとんでもないものでした。ですが、これなら安全にさえ気をつければ楽々仕事を進められるでしょう。


「パイプ入れ替えるね!」


 その後は高周波ブレードの切れ味のおかげもあって順調に作業が進み、程なくして必要な長さになったパイプたちが綺麗に積み上がるのでした。






「むぅ……」


 それから休憩を挟んだ後、光里は難しい顔で何やら作業に勤しんでいます。ですがどうやら上手くいかない様子。


「難しいなぁ、ワイヤーでしっかり留めるの」

「崩れたら、危ないから……」


 今しているのは、パイプで脱衣場の枠を作るという作業。パイプを直角に重ねてワイヤーで何重にも巻いてから結んで強く固定するのですが、光里はどうにも苦手なよう。


「頑張りましょう、光里さん」

「マジ大変……」

「こういう作業は慣れないにゃあ〜」


 他のみんなも難しいようですが、それでもより良い暮らしの為には頑張るしかありません。


「軍手を嵌めながら、というのがなかなかに難しい」

「でもないと手を切るし危ないっしょ」


 ただでさえ器用さがなければ難しい作業ですが、ワイヤーで手を切るのを防ぐ為につけた軍手がより作業を難しくします。


 大変だけど、面白くない。そう思った小夜子は閃きました。


「提案だが、こういうのは遊びにしてみてはどうだろうか」

「てゆーと?」

「一番最後に出来上がった人は罰ゲーム。最初に出来上がった人に尻を叩かれる、というのはどうだろうか」

「小夜子らしいえっちな提案!」

「智実は私の事を何だと思っている」

「逆に否定できる要素どこにあると思ったし」


 ワイヤーを結ぶこの作業を競争ににして、負けた子にはお尻ペンペンのお仕置きを。そのままでは楽しくない作業も、ゲームにして遊んでしまえばいいというアイデアです。


「そういう遊びはしたことないので、私はいいと思いますよ」

「私は、そういうのはちょっと……」


 フランは意外にも乗り気でしたが、人一倍内気な月美は罰ゲームのお尻ペンペンが嫌みたい。


「競争にするのは楽しそうだし、でも無理には……。拒否権あり、それならどうかな?」

「うちもおっけー」

「月美は、どう?」

「私は、不参加でもいいなら……」

「よし、じゃあ決まりだね。一番遅い子は罰ゲーム、ただし拒否してもオーケー!」


 そこで光里の提案もあり、罰ゲームは嫌ならしなくてもいいというところに落ち着きました。


「ちゃんと強度がないとやり直しだぞ」

「慌てて雑な造りになるのはだめってことだね〜」


 もちろん早いだけではいけません。急いで雑に結んで崩れてしまったら危ないのですから。


「そういうわけで今更だけど、よーいドン!」


 ルールも決まって今更ながら合図と共に競争スタート。競争ということもあってみんなさっきよりも集中できているみたい。


 そんな中、最初に手を止めたのはフランでした。


「終わりました」

「フランちゃん早い!」

「みんなで強度を確かめてみよう」


 終わったとは言っても、本当に強度があるかはわかりません。実際にどれだけしっかり結べているのか、確かめる為にみんな一度フランのところに集まります。


「おお、しっかりしてるじゃん。これならバラけないっしょ」

「これなら合格でいいよね〜」

「すごい、よくできてる……」


 そしてみんなで触ってみると、確かにぐらつくこともなくしっかりと結べていました。お見事合格です。


「一番、いただきました」

「可愛いドヤ顔!」

「やるなフラン。これは負けてられないな」


 その後もパイプ結び競争は続き、悠樹、智実、小夜子と次々完成させて抜けていきます。


「お、終わった……」

「つくみんおつかれー。強度も大丈夫そうじゃん」

「となると、最後に残ったのは……」


 月美も苦労しながらも結び目を完成させて、残るは一人。


「わたしですよぉダメな子は。だめ、全然できない!」

「光里さん、ですね」


 光里だけはどうしても上手くいかず、未だにパイプにワイヤーを巻いたところまでで止まって全く進んでいませんでした。


「代わりにやりましょうか?」

「おねがいしましゅ……」

「早くできる人が残りもやって、箱型の骨組みにすれば完成だね〜」

「私はお留守番で……」


 結局光里は諦めて代わりにフランにしてもらう事になり、他の箇所もコツを掴んだみんなが次々とこなしていきます。その様子を、一人不器用な光里はただ見ていることしかできませんでした。





 そして夕方になった頃。


「あとは入り口に切り込みを入れて……できたぁ〜!」


 ついに完成しました。みんなで手作りした脱衣場が。


 塩ビパイプで直方体に組んだ骨組みに上からロボットでシートをかけただけの簡単な造りですが、これでひとまずシャワーの近くで隠れて服を脱いだり着たりすることができるようになりました。


「これなら簡単に崩れないし、ロボットを使えば移動もできますね」


 これの利点は、地面にワイヤーで繋いだ杭を刺して固定しているだけなので、ロボットで持ち上げれば移動する事ができます。動かす必要が出てきても、これならまた作り直しにはならずに安心です。


「そのうちラックとかもつけたいね」

「それは後々だな」

「みんな、脱衣場作りお疲れ様でしたー!」


 とはいえまだまだ脱衣場としては足りないものもあるのでそれは後々。まずはみんなでこの初めての大仕事の成功を喜びます。


 しかしまだ、残っている事がありました。


「そして、ワイヤーひとつ結べなかったダメな子のお仕置きタイムでーす……」


 競争でビリになった光里の、お尻ペンペンの刑です。


「べ、別に無理しなくても……」

「みつりん、リーダー頑張ってるし別にダメな子じゃないっしょ」

「でも……」


 月美と悠樹はいつもの小夜子の冗談として受け取って、本当にするとは思っていなかった様子。とはいえ光里も納得できないみたい。そこで智実が手を挙げました。


「提案〜! それならここは一番乗りのフランちゃんに決めてもらう、というのはどうでしょ〜!」

「わ、私ですか!?」

「面白いじゃないか。ここはフランに決めてもらおう」

「え、えっと……」


 罰ゲームは、一位の子がビリの子のお尻を叩く。それなら一位のフランに決めてもらおうということに。


 突然そんな選択を迫られたフランの答えは……。


「やって、みたいです……」






「もっとお尻突き出せるっしょ」

「そしてできればもう少し色っぽく」

「色っぽくって何!?」


 日も沈みかけた頃。みんなが集まる中、光里はコンテナハウスの外で壁に手をついてぐっと大きくお尻を突き出しました。


 最初は一歩引いていた悠樹も、いざ始まってみれば乗り気で野次を飛ばしています。


「うぅ、恥ずかしい……」


 自分でパンツを見せた時とはまた違った恥ずかしさに、頬を赤く染める光里。その後ろに、こちらも頬を赤くしたフランが立ちました。


「い、いきますよ……」


 スカート越しにもわかる光里のふっくらしたお尻を前に動揺しながら、フランは手を上げます。そして……。


「えいっ!」

「んっ……!」


 お尻めがけて勢い良く振り下ろし、パンッと音を鳴らしました。


「……っ!」


 同時に光里の口から漏れた甘い声に、フランの胸は思わずドキリ。


「おお、これはやらしい空気になってきたぞ」

「大丈夫、かな……」


 小夜子は面白そうに、月美は心配そうに見守りますが、まだ一度叩いたばかり。


 おかしなスイッチが入ってしまったのか、フランの勢いはどんどん増していきます。


「スカート、めくりますよ」

「え、めくるの!? 待って……あんっ!」


 スカートを勢い良くめくり上げ、パンツ越しに勢い良く一発。さっきよりも大きく響いたパンという音が光里の言葉を遮りました。


「Oh、ナイスパンティ〜」

「これは……」

「ふららん大胆じゃん」


 フランのあまりの大胆な行動に、見ていたみんなも思わず声を漏らします。


「はぅ……はぁんっ!」


 その後もパンツ越しに、時には剥き出しの部分にパチンと乾いた音を立てながら、フランはスナップを効かせて光里のお尻を打っていきます。


「あの……止めなくていいの……?」

「いいんじゃない? お互いノリノリみたいだし」


 流石にこんないやらしい光景は予想外でしたが、光里も痛がっているとはいえ嫌がっているようには見えませんし、みんなはこのまま見守る事にしました。


「これは、いけない……」


 叩いたお尻がぷるんと揺れて、その度に漏れる光里の甘い声。初めての刺激的な体験に、フランのドキドキも、光里のお尻を叩く手も、もう止まることを知りません。


「んうっ……!」

「私、今……イケナイことをしています……!」


 恍惚の表情を浮かべながら、光里のお尻を叩くフランの手の勢いも強さもどんどん増していくばかり。


 いけない。これ以上はいけない。そう囁く理性に聞く耳も持たず、とうとうフランは光里のパンツのゴムに指をかけます。


「いやあぁーんっ!」


 そして日が暮れた頃。ようやくフランが冷静になって手を止めた時には、光里のお尻には何度も叩かれた跡が真っ赤になってはっきりと。


 それを見たみんなは、流石にもっと早く止めておけばよかったかなぁ、と面白がって見ていたのを少し反省するのでした。


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