コンテナを開けてみよう
「これで揃ったね〜」
最後にコンテナを降ろした智実がコクピットから降りて、みんなの所に戻ってきました。これで全部のコンテナが揃った……筈ですが、何やらおかしい様子。
「でもこれ、五個しかありませんね」
フランが言いました。一人一個で六個ある筈のコンテナが、どうしてか一つ足りないと。その理由は、すぐにわかりました。
「私のロボットだけコンテナがなかったの。代わりになんだか変なのを背負ってて、外せなくて……」
「随分とごちゃごちゃしているな」
「どうやらあれがついてるせいでコンテナが付けられなかったみたいですな」
「何なんだろう、あれ……」
光里が乗る機体の背中には、他のコンテナとはまた違った複雑な機械の塊が取り付けられていて、その機械に場所を取られて一人だけコンテナを持っていなかったのです。
機械の塊は取り外す事もできず、色々と試してみても動くことはなく、それが一体何なのかは結局のところわからずじまい。
「まずはコンテナ、開けてみよう!」
「なんとコンテナはミミックだった〜」
「念願のアイスソードを手に入れたぞ」
「いやちげーし」
智実と小夜子の冗談はさておき、光里たちはわからない機械をひとまず置いておいて五つのコンテナを開けてみることにしました。
光里がボタンを押すと、まずひとつめのコンテナが開きます。その中に入っていたのは、ロボットが持つ物だとひと目でわかる巨大な鉄砲や刃物でした。
「武器だねぇ」
「武器ですね」
ひとつめのコンテナの中身は、とても強そうな武器です。とはいえこの武器たちが何なのか、知らなければ使いようがありません。
何か説明書きがあるかも。そう思った智実はコンテナの中へと入って探し始め、それはすぐに見つかりました。
「ビームライフル。荷電粒子砲ですって奥様〜。……荷電粒子砲!?」
「家電?」
「エアコンビーム! 的な感じ?」
巨大な鉄砲の名前は【ビームライフル】。またの名を【荷電粒子砲】というそうです。ビームならともかく、荷電粒子砲は女の子にとっては聞き慣れない言葉。
そこで、知識を持っているフランがみんなに解説します。
「荷電粒子砲はですね、電子や重イオンなどの粒子を粒子加速器で亜光速まで加速して射出する兵器です。その威力は一説によると対象物を原子核ごと……」
「なるほどわからん!」
「ちょっと、難しい……」
けれどフランの説明は難し過ぎてみんなちんぷんかんぷん。とても理解できません。
「まあつまり電気ビリビリの粒をまとめて飛ばす、下手したら核より強い必殺ビームって感じ〜」
「だいたいわかったかも」
「なるほど理解した。つまりはアイスソードか」
「どこが!?」
ですがもう一人荷電粒子砲を知っている智実が噛み砕いて説明してくれたので、みんな大まかにですがこれがどういうものかを知ることができました。
小夜子はまたおかしな事を言っていますが。突っ込みを入れる悠樹も大変です。
「すみません、私の説明が難しくて……」
「その歳でそんなに知ってるのは、その、すごいと思う……」
一方説明が難しくわかってもらえなかったことを、フランは気にしている様子。そんな彼女を、月美は励ましました。
中学生くらいの歳で、この場の殆どの子が知らない難しいことを知っている。それだけでも充分月美たちから見ればすごい事でしょう。
「次、開けてみよう!」
ひとつめのコンテナに入っていたのは、とにかくすごく強いらしい武器。残りの四つには、どれだけすごいものが入っているのかな。そう期待に胸を膨らませながら、光里たちはひとつ、ふたつとコンテナを開けていくのでした。
「色々入ってたねー」
「浄水タンクに食料品、衣類に生活必需品が諸々。しばらく生きていくには困らなさそうです」
武器コンテナの後、三つのコンテナを開けた光里たち。ですがひとつめに比べると衝撃的なものがはいっていたわけでもなく、みんなも落ち着いていました。
とはいえどれも生活に必要なものばかり。特にコンテナ一つ分くらいの大きさの浄水タンクは蛇口やシャワーなどもついていて、ここで暮らしていくのならとても頼りになりそう。
「缶詰冷食レトルトインスタント、そんなのばっかだけど」
「でも、食べるものがあるのは、助かる……」
「調味料も塩と砂糖があるな。アレンジもできそうだ」
食べ物は長い間保存できる即席食品や調味料ばかり。けれどこれでしばらくは、光里たちが食べ物に困ることはないでしょう。
他にもコンテナの中には色々なものが。その中でも智実は服など着るものがまとめて入っているところに注目していました。
「おお、服も色々あるね〜。でも下着多くない?」
そこにはファッションショーを楽しめそうな程たくさんの服が入っていましたが、特に多いのは下着。確かに下着は大切ですが、それにしても多過ぎる量の下着が入っていたのです。
「あ、なんかついてる。説明書……?」
さらに物色していくと、服と一緒に入っていた説明書のようなものを見つけました。
ラミネート加工をした上でファイルに綴じられていて、読めなくなりにくくされたそれを智実は開いて読みます。
「マン・マシーン・ダイレクト・リンカー・デバイス、略称MDLD。ゼクト・オメガの搭乗の際には、こちらの装具が必ず必要となります。ふむ……」
どうやらこれは、ロボットに乗る時に必要な道具の説明書のよう。けれどどうしてそんなものの説明書が、服と一緒に入っていたのか。その答えは、読み進めていくとわかりました。
「パンツじゃんッ!!」
「どうしたの智実ちゃん!?」
「パンツがどうかしたか」
思わず叫んだ智実の声に、みんなもびっくり驚きます。突然何を叫んでいるのかな。首を傾げるみんなに、智実は言います。
「ロボットの謎、一つ解けちゃいました〜」
「謎って、なんですか」
「説明しよう。どうしてただの一般女子の私たちがあのロボットに乗れたのか。その真実とは……このパンツにあったのだ〜ッ!」
「……は?」
ロボットの謎と言っているのに、どうしてパンツなのか。みんな全くわかりません。それどころか何言っているんだろうこの子、という目を向けるみんなに、智実は詳しく説明します。
「まあパンツっていうよりブラも含めた下着一式なんだけどね。この下着の中にはナノマシーン……つまりすっごい小さい機械が入ってるんだよ。それが私たちの身体とあのロボットを繋いで思い通りに動かせるようにしてくれてるらしいよ〜」
「つまり、私がやりたい事を下着の中の機械が読み取ってロボットに教えている……ってこと?」
「光里くん、百点を君にあげよう」
「やったー!」
始めはおかしな話だと思われていたけれど、詳しく聞けばみんなも納得できる事でした。何かを読み取れるほど身体に密着していて、普段から身に着けられるもの。それを考えた末に下着になったのでしょう。
下着がなくなればロボットを操縦できない。それなら下着がこんなにたくさん用意されているのもそのために違いない。智実はそう考えました。
「残念だ。他の五人が真面目に操縦しているのに私だけ全裸で乗っていてもバレないか、みたいな遊びができないじゃないか」
「しなくていいっしょ」
「冗談だ」
相変わらずの調子の小夜子に悠樹は、黙ってじっとしていればクールな美人さんなのにと残念に思いながら呆れています。
その後もみんなでコンテナの中を探っていましたが、なんだか光里の様子がおかしいみたい。
「光里さん、どうかしましたか?」
「な、なんでもないよ! なんでもない!」
「顔、赤い……。熱、かしら?」
「まじ? 今こんなんじゃ病院も行けないっしょ」
「何か使えそうなのコンテナにないか見てみるね〜」
「大丈夫大丈夫、なんともないから!」
光里は大丈夫と言い張るものの、本当に顔が赤くなっています。病院にも行けないこんな時に病気だったら大変。みんな光里のことをとても心配しています。
「こんな時に何かあったら大変だろう。助け合いが大事な時だ。遠慮は無しにしよう」
「本当に大丈夫で、その……」
けれどこれ以上心配はかけたくない。そう思った光里は、おかしかった様子の理由を打ち明ける決心をしました。
「さっきもロボット動かしてたから、今もその、MDLD? っていうの着けてるのかなって、見てみたら……思ってた以上に、なんというか、すごい下着で……」
光里の顔が赤くなっていたのは、恥ずかしかったから。下着の説明を聞いて、それなら今履いているものはどんなのなんだろうと、気になった彼女はコンテナの陰に隠れて見てしまったのでした。
「おお……」
「そう言われると気になりますね」
「お姉さんも気になるぅ〜!」
「いいじゃないか。見てみよう、光里のパンツ」
「えぇっ!?」
それを聞いて面白がったのか、光里がみんなにパンツを見せる流れになってしまいます。
「別に嫌なら、見せなくても……」
月美は見せなくてもいいと言ってくれますし、光里も流石にみんなの前でパンツを見せるのは恥ずかしいです。
そんな時でした。小夜子が光里の目の前を遮るようにみんなの前に立ったのは。
「まあいい。それなら私が見せるか」
「えっ」
そう言うと小夜子は何のためらいもなく履いているデニムのショートパンツに手をかけ、勢い良く下ろしてしまいました。
「あ、手が」
一緒に指に絡まった、パンツごと。
「ストップストッープ!」
「み、見え……」
「見てませんから、私何も!」
小夜子の大事なトコロが見えてしまい、みんなびっくりてんやわんやの大騒ぎ。光里からもちょっとドキッとする程綺麗な小ぶりのお尻が丸見えです。
「すまん、わざとじゃない」
どうして小夜子は平気なんだろう。そんな事を考える間もなく、光里は気がつけば飛び出していました。
「こ、こっち見てっ!」
そしてみんなの視線を小夜子から自分に引きつけるように、叫びながら勢い良くスカートをたくし上げてパンツを見せつけました。あまりの恥ずかしさに顔は耳まで真っ赤です。
「可愛い……です」
「へぇ。うちは好きかも」
ピンクのリボンがついたレース付きの、子供のような可愛らしさと大人びたセクシーさを兼ね備えた真っ白パンツ。これを自分たちも履いていると思うと冷静になったのか、みんなからの反応は薄めでした。けれど悠樹は好みのデザインだったようでちょっと嬉しそう。
「もう終わりっ!」
そう言って恥ずかしさに耐えきれないでスカートでパンツを隠した光里。その顔はまだ真っ赤。けれどもう一人、顔を赤くしている子がいました。
「どうしたんだ智実」
「べ、別に……なんでもないよ〜?」
小夜子に声をかけられて、誤魔化そうとする智実。しかし彼女の目は誤魔化しようもなく、小夜子の下腹部へと向いています。頬をほんのり赤らめたまま。
そんな彼女の頬を包み込むように撫でながら、小夜子は智実の耳元で囁きます。
「智実のえっち」
その瞬間、智実は顔を真っ赤にして鼻血を流しながら、力が抜けたように膝から崩れ落ちてしまいました。
「あ、あの……下着の話はここまでにして……」
「そ、そうだね!」
収拾がつかなくなってきたところでこの件は一旦締めて次へ。
「残るは最後のコンテナ……だけど」
「開きませんよね、これ」
最後の一つのコンテナですが、これまでのコンテナとは違いスイッチが見当たらず、何をしても開きません。形も他のコンテナとは少し違うみたい。注意深く観察すると、月美があるものに気づきました。
「あれ、ドアじゃない……?」
見上げる程高い場所に、扉がついていたのです。ですがそんな高いところにあっても入れませんし、今のままだと扉は横向きになっています。
「それなら横に倒さないと」
「私がやってくる」
「よろしく、さやちん」
「はいよっ」
それならコンテナを倒してしまおうと、ロボットを動かすために小夜子がコクピットに乗り込みます。
【ゼクト・オメガ2号機、起動します】
「みんな離れてろ」
無事に立ち上がった小夜子の機体は、周りからみんなが離れた事を確認すると足元に気をつけながらゆっくりと歩き、コンテナの元へ。
「ゆっくりねー!」
きっとこうする事を見越していたのでしょう。小夜子は機体を上手くコントロールしてコンテナに親切にも取り付けられた取っ手を掴み、衝撃を与えないようゆっくりと横に倒しました。
「これでどうだ」
「大丈夫だよー!」
「よし、じゃあ降りるぞ」
これで扉を開けることができるようになりました。小夜子が戻ってきてから開けようとみんなで待っていましたが、智実は何故だかそわそわしています。
「どうかしましたか。智実さん」
「あっ……うん。あたしは平気〜」
「ならいいですけど……」
フランが心配して声をかけましたが、具合が悪いというような風には見えないのできっと大丈夫なのでしょう。
そうしているうちに小夜子が戻ってくると、光里はドアノブに手をかけました。
「みんな、開けるよ」
「さて、何が出てくるか」
扉の向こうには何があるのか。みんなドキドキが止まりません。意を決して光里が扉を開けると、その向こうには……。
「なんだか落ち着く感じですね」
「なんか家みたいじゃん。広いけど」
白い壁に、木目調の床。天井には暖色の灯り。備え付けのエアコンを除いて家具のようなものはほとんどないものの、まるで家のような落ち着いた空間が広がっていました。
「何かしら、この四角いの……」
月美が気になったのは、壁についている大きな四角い何か。それも人数分の六つ付いています。これは一体何なのでしょうか。
「そういうことか」
その正体に気付いた小夜子は、四角いそれに手をかけると手前に引いて倒しました。
「こ、これって……」
「ベッドだ」
そう、これは壁に収納できるベッドだったのです。そして棚を開けるとそこには包装された布団が。これで眠る場所には困りません。
「ホントに家じゃん。まあ寝るとこしかないけど」
「キッチン設備や、洗濯なら、他のコンテナにあるから……」
「普通に生活できそうですね」
「それだよ、生活! 街はあんなになってて、人の気配もなくて私たちに行き場はない。だったら、ここに住めばいいんだよ。みんなでここで新生活、やろうよ!」
何もわからないまま周りが廃墟の飛行場に放り出された光里たちでしたが、ここまで色々な物が揃っていると希望が見えてきました。みんな力を合わせて、ここで生活する。そんな新しい日常が現実味を帯びてきたのです。
「大丈夫、かな……」
「みんなでやれば、なんとかなる!」
不安そうな月美の手を引くように、光里はそう言って笑いました。
「いいですね、光里さん」
「面白そうじゃん、新生活」
「私はいいと思うぞ」
「天才美少女智実ちゃんの頭脳、存分に使ってくれたまえ」
「私も、できる事があれば、頑張るから……」
「決まりだね」
六人だけで生きていく。それはきっととても大変なことでしょう。不安がない、なんてことはありません。けれど、彼女たちは笑って迎えます。
「始めよう、私たちの新生活!」
これから始まる、何もかもが新しい日常を。
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