【完結】蒼い星へ還る日まで〜少女六人、終末世界で自由気ままなスローライフはじめました〜
スグリ
忘れられた世界で
声が、聞こえた。
「ーーーーーてくれて、ありがとう」
温もりを、感じた。
「大丈夫、ーーーーーがいなくてもあなたにはーーーーがついてるから……」
声が、遠ざかってゆく。
「どうか、ーーーーでも幸せに生きて……」
温もりが、消えてゆく。
「行っておいで、ーーー」
大切な人。そう、ものすごく大切な人だった気がする。
この声は、この温もりは。
一体、誰だったっけ……。
「んっ……」
暗い暗い、小さな部屋の中。可愛らしい声を漏らしながら目を覚ます女の子が一人。
「ここは……」
彼女は重いまぶたをゆっくりと開き、辺りを見渡しました。
何かの中かな。真っ暗で何も見えない。そう思った矢先、突然目の前の画面らしきものに光が灯ります。
【パイロットの覚醒を確認。おはようございます】
「あ、どうも。おはようございます」
同時に流れる機械の声の挨拶に、少女は丁寧にぺこりと返します。
「どこだろうここ。狭いし暗いし……」
【
この狭い部屋は何なの? 何がどうなっているの? 訳もわからないまま突然目の前の壁が開き、この暗い部屋に眩しい光と心地良い風が外から射し込みました。
「うわぁっ!」
【どうか、良き旅を】
声に背中を押されるように、爽やかなそよ風の吹く外へと身を乗り出した少女、光里。10メートル以上もある高さのそこから見渡せるのは、どこまでも続く蒼い空。そして……。
「緑の、街……」
今いる巨大な飛行場のような平地。その向こうに広がる、人の気配がまるでない草木に覆われた街の景色でした。
「降りていいのかな?」
こんな高いところでじっとしていても、何も始まらない。光里はワイヤー式の昇降機で、アスファルトの地面にすとんと降り立ちます。
「本物の地面。これが、本物の地球……」
一歩一歩、しっかりと踏みしめて感触を感じながら広大な地面を歩く光里。しかし、ふと彼女は違和感に気付きます。
「って何言ってるんだろ。地球に本物も偽物もないじゃん」
本物の地球。どうしてそんな言葉が自分から出てきたのかな。
きっと寝起きで寝ぼけていたんだ。心の中でそういう事にして、光里は先よりも速い速度で歩みを進めていきます。すると、そんな彼女へ向けて大きく手を振る二人の人影が見えました。
「お、出てきた出てきた」
「光里、こっちだこっち」
「えっと、誰だっけ……」
この二人は誰だったっけ。光里は額に指を当てて記憶を手繰ります。
「あっ、悠樹と小夜子! おはよう!」
ちゃんとすぐに思い出せました。この二人は、以前からの光里の友人だったのです。
脱色してカールを効かせた髪が目立つ
そしてダウナー系のクールな長身お姉さん、
「ちょいちょいそりゃないっしょみつりん。うちらの事忘れるなんて」
「ごめんごめん!」
「寝起きでボケてるんだ。許してやろう」
「あはは……」
友達の事を忘れる、という光里のあまりの寝ぼけっぷりを、そんな事もあるよねと笑い飛ばしながら。三人はさっき光里が歩いて来た方向へと目を向けました。
「私たちあれに乗ってたの?」
「らしいな。朝起きたらあれのコクピットにいた」
「どう見ても巨大ロボじゃんあれ。すっご……」
そこにあったのは、見上げる程に巨大なロボット。しかもそれが六体も。光里がいた暗く狭い部屋は、どうやらロボットのコクピットだったようです。
そして悠樹と小夜子も、あのロボットから降りてここに来たそうです。
「んー……二人とも、昨日何してた?」
「何って、普通に学校行って家帰って寝て……」
どうしてこのような廃墟のような場所、しかも巨大ロボットのコクピットなどで眠っていたのだろう。その手掛かりになればと、彼女たちは昨日の事を思い出そうとします。
「あれ、いつ寝たっけ。そもそも昨日学校行ったっけ」
「すまん、私も忘れた」
「なぁーんかもやもやするー!」
しかし誰も、昨日の事を思い出す事はできませんでした。昨日何をしたのか、何を食べたのか、いつどこで寝たのか。昨日の記憶が何もかも、思い出せないのです。
「それでコクピットから降りたらこれだ。まあ、状況整理は他の三人が出てきてからにしようじゃないか」
「そうだね」
思い出せないものはしょうがない。そう割り切って光里たちは、他の三人の友達を待つ事にしました。
「お、おはようございます」
「フランちゃんおはよう!」
「おっはよ〜」
「おはよう……」
「智実と月美も起きたか」
それから程なくして、その三人もやってきました。
一番年下で小柄な礼儀正しい
こちらも小柄などこか飄々とした女の子、
そして少し話すのが苦手で内気な
彼女たちに悠樹と小夜子を合わせた五人が、光里にとってはいつものお友達。年齢もバラバラだけど、六人は不思議ととっても仲良しなグループなのです。
「どうなってるの、今……」
「今からそれを話し合おうかなって」
「状況整理ってやつですな。おじさんは賛成〜」
「おじさんって……」
「それじゃあ、まずはわかるところから挙げていこう!」
ちゃんと全員揃ったところで、光里たち六人は今何がどうなっているのかをまとめる話し合いを始めました。
「あたり一面、どこを見ても廃墟ですよね」
「うちら全員あの巨大ロボに乗ってたって、まじあり得ないっしょ」
まずフランと悠樹が思った事を言います。廃墟と巨大ロボット。やはりその二つはみんなも気になるところでしょう。
「みんな、昨日寝る前の記憶はあるか」
次に小夜子がみんなに訊きますが、他の五人は首を横に振ります。やっぱり全員、昨日の記憶はないみたいです。
手がかりなし。みんなそう思った矢先、智実がある事に気付きました。
「あのロボ、みんな背中にコンテナ背負ってるけど」
みんなが目覚めた時に乗っていたロボット。彼らをよく見るとその背中に、コンテナらしき大きな箱を背負っていたのです。
「もしかしたらあれに何か手掛かりが入ってるかも!」
「でも、どうやって降ろすの……?」
「案外操縦できたり〜、なんちゃって」
もし中を見ることができれば、何かわかるかもしれません。けれどあんな巨大な物を、地面に降ろす方法はありません。
智実が冗談めかして操縦できたらと言いますが、その瞬間場が凍りつきました。
「え、何」
「確かに気にはなるけど……」
「流石にあれを動かすのは自信ないかなぁ」
「冗談冗談! そんな事できるわけ……」
確かにロボットを操縦できてしまえば、コンテナを降ろすなど簡単です。しかしあんなロボット、誰も見た事も聞いた事もありません。言い出しっぺの智実も、操縦なんてできるわけないと首をぶんぶん横に振ります
けれどそこに、物怖じしない子が一人いました。
「面白そうだな。やってみるか」
「小夜子さん!?」
無理だとみんなが思う中、小夜子がポケットに手を入れながら一人ロボットの方へと歩き出しました。どうやら、本当に乗ってみるつもりのようです。
「うん、そうだね。動かなかったら動かなかったで仕方ない! やってみないとわからないもんね!」
小夜子のそんな姿に感化され、光里はやってみようとみんなに訴えかけます。その光里の言葉に、みんなの考えは動かされました。
そう、動かなかったら動かなかったでそれでも構いません。動かない事を恐れて乗らないという必要などどこにもないと、みんなが気づいたのです。
みんなもまた小夜子に続いてロボットの方へと向かって歩いていきました。
「みんな、自分のが何番か覚えてる……?」
「私いっちばーん!」
「五番ですね」
「私は三番……」
そして六人全員、覚えていた番号が刻まれた各々の機体に乗り込むと、コクピットハッチを閉じて思い思いにボタンを押してレバーを倒し、操作をしてみます。
【ゼクト・オメガ1号機、起動します】
「もしかして……いける?」
なんと、起動してしまいました。操作方法も知らない筈なのに、なんとなく、勘で触っていたら起動してしまったのです。
気を良くした光里は調子に乗って操縦桿を握り、思いのままに直感で動かしてしまいます。
「おお、わかるわかる! 動かせるよ!」
するとどうでしょう。ロボット、ゼクト・オメガが本当に光里の思う通りに動いてしまいました。
歩いてジャンプ。回ってピースサイン。パンチにキック。思うように操縦桿とフットペダルを動かすだけで、光里がしたいと思った動きを機体が再現してくれます。その動きは、まるで初めてとは思えないほどスムーズでした。
「みんな、そっちはどうー?」
「思い通りに動かせます」
「やってみると楽しいじゃん、これ」
「私も、大丈夫……」
「あと二人は動いてないけど……」
フラン、悠樹、月美の三人も同じように問題なく動かせています。けれど他の二人、智実と小夜子は動いていない様子。動かし方がわからないのでしょうか。それとも何か不調でもあったでしょうか。不安に思う光里でしたが……。
「必殺、カ○キ立ち!」
「だったら私は、ガ○ラ立ちだ」
「大丈夫そう……かな?」
杞憂でした。どうやら決めポーズをして遊んでいるだけだったらしいです。
「次は何しよっかなー」
「歩く練習からしてみたいです」
「剣とかないかな〜。あれやりたいし、勇○パース」
「まだ続けるんだそれ……」
自由に機体を動かせるあまりの楽しさにみんな忘れていますが、今重要なのはコンテナを降ろすことです。その後も遊んだりなどを続けて、光里たちがコンテナを地面へと降ろしたのは実に一時間後の事でした。
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