夜明けの窓辺
万吉8
第1話
夜が明けると同時に私は目を覚ます。多分、今日で子供たちとお別れ。借金の返済のために私は自分を売りに出すことになる。子供たちのためなら、この身がどうなろうと構わないと思っていた。
なのに--
「ダメだ! 絶対にダメだ! 俺たちが何とかする! だから、そんなこと言うな!」
そんな甘いことを叫ぶ少年の声が脳裏をよぎり、私は神に仕える身にあるまじき想いを抱きそうになる--
私は王都の西にあるスラム街にある古ぼけた神殿のシスター。ある高位聖職者に疎まれた私は、この古ぼけた神殿に左遷された。
煌びやかな王都の中央神殿からスラム街の打ち捨てられた神殿に移った私は愕然とする。食うや食わずでいる子供たちが空虚な目で私を見る。そんな子供たちを放っておけず、一人、また一人と引き取るうちに、古ぼけた神殿は孤児院へと変わっていった。
孤児院の運営は困難を極めたが、神殿や心ある方たちからの支援を受けることができた。
それでも十分に食べさせることができず、子供たちは痩せこけている。
そんなある日--
「このクソガキ! 人の財布をスろうとしやがって!」
「クソガキじゃないやい! 俺にはネロっていう名前があるんだい!」
孤児院の入り口から、最近、孤児院に来たネロという男の子と少年の声が聞こえてくるので私は慌てて入り口に向かう。
「アンタがここの責任者か! ガキどもにどんな教育をしているんだ!」
ネロともに来た少年は三名。服装から王都の名門、ヘクトール学園の生徒だということが分かる。
これがセタ、ディル、タークと私たちとの出会いだった--
◇◆◇
再び夜が明ける。ベッドには孤児院のリズとシーナの二人の少女が寝息を立てている。
借金の問題は解決し、孤児院の少女たちと私は感謝の祈祷という名の女子会をしていた。
少年たちの方はセタたちと男子会をしていた。
ここ最近、子供たちを恐怖に陥れていた借金取りたちの記憶はセタたちの担任によって塗りつぶされてしまった。
セタたちの新しい担任は、セタたちを気にかけ、ここぞという時に現れ、私たちを救ってくれた。
実力行使に出た借金取りたちをあっという間に無力化してしまったのだ。
あれほどの実力者がセタの担任だということを嬉しく思うと同時にさびしく思ってしまった。きっとセタは私の手の届かない場所へ行ってしまう……
神に仕える身にあるまじき想いを自覚してしまった私は、罪悪感とともに、セタに会える今日を嬉しく思うのだった。
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