ネットで出会ったゲーム友達は学校一の美少女でした
熊野べあ
第1話 ゲームとは万能のコミュニケーションツールである
『しゅーくん、暇だから何か面白い話してー』
「その台詞吐く女は将来間違いなく嫌われるぞ」
俺――大槻柊はボイスチャットを繋いでシューティングゲームをしていた。
相手は女性、名前は「ゆず」。今年の一月、今からだいたい三カ月前にゲーム内で知り合い、なんだかんだで週二回程度通話をしながら遊ぶ仲になった。
現在プレイしているのは、百人が一つのマップで最後の一組になるまで争う、いわゆるバトロワ系のゲームである。
「将来飲み会で言われたくない台詞一位まであるな」
『そう? わたし的には将来飲み会で言いたい台詞一位なんだけど』
「最悪だよ……」
嫌そうにする俺の反応で楽しそうに笑うゆず。分かった上でやっているのでいい性格をしていると思う。
『でも実際面白い話してーって言われたらどうするのが正解なんだろね。普通の人は常に面白い話をストックしてるもんなの?』
「俺は関西人だけど面白い話なんて持ってないぞ。言われてみればどういう心理なんだろな」
二人して少し考えてみる。
「うーん、本当に面白い話を求めてるわけじゃない……とか?」
『と、言うと?』
「相手と会話が続かないから話題提起させたいみたいな?」
こういうとゆずは得心した様子で、
『あー、なるほど。つまり遠回しな「君、つまんないよ」アピールってこと?』
「そこまで言ってないぞ? 私見混じってない?」
思わなかったこともないが過大解釈しないで頂きたい。
『わかりやすくまとめたつもりだったんだけどなー。ところでしゅーくん、なんか面白い話して?』
「この流れでそのセリフを言うとつまらないって言われてる気がするんだけど?」
ゆずは『気のせい気のせい』と笑っている。間違いなく意図的だろう。
と、そんな話をしていると、
『おっ、次の安置出たね。んー、さっさと移動してあの建物でも取ろっか』
「りょーかい、後ろの警戒はしとくわ」
『面白い話はまた今度だね』
「しないからな?」
こんな会話を繰り広げる二人ではあるが、実はお互いのことはほとんどしらない。知っているのはハンドルネームが「shu」と「ゆず」である事、二人とも高校生である事ぐらいだ。
リアルについての話を積極的にすることはないし、詮索することもない。特に決めた訳ではないがなんとなくそういう空気になっていた。
ゆずのことを知りたい気持ちがないでもないが、自分から尋ねようとは思わない。
相手のことを知ってしまえばこの関係性が変わってしまうかもしれないから。今の適当でゆるっとした空気感を結構気に入っているのだ。
そんなこんなでゲームは終盤に差し掛かる。
『うーん残り何人だろ? 右奥に一組と左の建物にもう一組いるのは分かるんだけど……。とりあえず前空いてるし詰めよっか。先に前出て索敵するね』
「おっけ。……ってうわっ、後ろ!」
後ろから突然現れた二人組と撃ち合いになる。すぐさま応戦するものの、
「あぁー、ごめん、ダウンした。一人はローにしてる!」
急いでカバーに回るゆず。しかし二対一では厳しく撃ち負けてしまった。
『んー、撃ち負けた……。いけると思ったんだけどなぁ』
悔しそうに呟く。
「あれは仕方ない、っていうか俺のせいだわ。安置外から回ってくると思わずに何にも見てなかった」
一区切りついたので椅子の背もたれに体重を預ける。そしてぐっと伸びを一つ。少し疲れたなと思い、時計を見ると気付けば深夜二時を過ぎていた。始めたのが十一時頃だったのでだいたい三時間経過している。
今日、正確には昨日は週の真ん中の水曜日。切り上げるにはそろそろ良い時間だろう。
「もう二時だし今日はそろそろ終わる? 明日、ってか今日も学校あるし」
ゆずは欠伸をしながら『ま、そうだね』と答える。
『夜更かしは乙女の天敵ですからね。まぁ多少お肌のコンディションが悪くともわたしは可愛いんですけど』
「顔知らないから肯定も否定も出来ないんだよな」
ふふっとゆずが笑う。
『実はわたし……パリコレモデルが裸足で逃げ出すレベルの美少女なの‼』
「奇遇だな。実は俺、ハリウッドスターが泣いて赦しを乞うレベルのイケメンなんだ」
『えっっ⁉ まさかそんな美男美女の集まりだったなんて‼』
突如発生した謎の小芝居さておき。
『まっ、今日はこれぐらいで終わりますか。次は日曜日とかどう?』
スマホのカレンダーをちらりと確認する。といっても次の日曜日を含め、カレンダーの大半は空白だが。
「ん、日曜日で大丈夫そう」
『よし! じゃあ時間は当日に連絡するね。それじゃ、お疲れー』
「お疲れ」と返すと、ティロンという効果音と共にボイスチャットからゆずが退出する。
俺もヘッドセットを外してふぅーと長い息を一つ。会話の相手がいなくなると急に静けさがやってくる。
部屋には自分一人だけ。深夜であることを差し置いても今夜はとても静かな夜だった。
人の生活音はおろか車の音や鳥の囀りも聞こえない。
とても静かな春の夜。
深夜の静寂は周りから取り残されたような孤独感を与える。
と、何故かセンチメンタルな自分に気づき苦笑いがこぼれた。
「寝るか」
誰かに聞かせるかのようにそっと呟いた。
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