第58話 夜の街編

 ということでリーユにさっそくウルネア観光地化夜の部についての話を始める。


「おい喜べ。お前に頼みたい仕事が山ほどある」


 こいつを亡命させてやる条件は、身を粉にしてアルデア王国のために働くことだ。


 ここのところ野放しにして甘やかしていたが、そろそろ働いて貰わなければ困る。


 が、そんな俺の言葉にリーユは何やら苦笑いを浮かべると「あ、私、ちょっと用事が……」と呟いてどこかへと飛び立とうとする。


 いや、そうはさせるか。


 ということで衛兵二人に目で合図を送ると、二人の屈強な衛兵は飛び立とうとするリーユの両足をそれぞれ掴んだ。


 それでもリーユは必死に羽を羽ばたかせるが、衛兵の方が力が強かったようでその場でむなしくホバリングをすることしかできない。


「働かないのなら約束通り処刑にしてもいいんだぞ……」


 そう呟くとリーユは「はわわっ……」と間抜けな声を漏らすと地上に降り立って俺の元へと駆けてくる。


「ローグ、私はお国のために一生懸命頑張るつもりだよ? だから、そんな怖いこと言わないで♡」


 何やら俺にハグをするとリーユは甘えるように頬をすりすりしてきた。


「おい、例の調査はもう終わったんだろうな」


 そんなリーユに冷たく言い放つと、彼女は「うん、やったよ」と答えて「ミミっ!! 例の資料をこっちに持ってきて」と遠くに立っていたメイド服のサキュバスに声をかける。


 遠くにいたナースサキュバスは「は~いっ!!」と手を上げてニコニコで返事をするとテントに入っていき、なにやら冊子のような物を持ってパタパタとこちらに飛んでくる。


 いや、この距離なら歩けよ。


 と、思わないでもなかったがどうでもいい。どうやら俺が注文していた通りリーユは調査をしていたようで少し安心する。


 

 なんて考えているとミミと呼ばれたメイドサキュバスは俺の存在に気がつき「あらかわいい♡」と熱い視線を俺に送ってきた。


 そして俺の元へと歩み寄ってくると膝に手をついて前屈みになり顔を覗き込んできた。


 あー近い近い。


「ボク~こんなところでどうしたの? もしかしておねえさんとえっちな夢を見に来たの?」


 そう言って俺の頭をなでなでするメイドサキュバス。


 そんな前屈みのメイドサキュバスの胸元からは豊満な谷間が丸見えで思わず目のやり場に困る。


 思わず頬が熱くなるのを感じていると、ミミはクスクスと笑みを漏らして「ほっぺが真っ赤でリンゴみたい。かわいい♡」と冊子を腋に挟んで、俺の頬を両手で包みマジマジと俺の顔を見つめてきた。


「だけどボクくんにはここはまだ早いよ。ボクくんが大きくなってかっこいいおにいさんになったらまたおいで。ボクくんとおねえさんのお約束♡ ね?」


 あーやばいやばい……。誰とは言わないけれどどこかの国の国王みたいに性癖が歪みそう……。


 なにか精神が良からぬ方向に向かわぬよう必死に自制していると、ようやくミミは俺から顔を離して冊子をリーユに手渡すと「ボクくんまたね♡」と俺に手を振ってどこかへと飛び去っていった。


 あー危ないところだった……。


 胸をなで下ろすとなにやらリーユが俺のことを冷めた目で見つめているのが見えた。


「ローグ、これからは私もミミみたいにローグに接してあげようか?」

「いや、そういうの大丈夫っす……」


 いかんいかん。完全に相手のペースになっている。


 俺は一度邪念を振り払うように首をぶんぶん横に振ると再度リーユを見やる。


「で、調査の結果はどうなった?」

「とりあえずこの冊子を見てくれればわかるわ」


 そう言って冊子を手渡して来たのでペラペラと捲ってみる。


 俺がリーユに依頼した調査。それは人間がどれほど生気を抜かれたら日常生活に支障をきたすのかの調査だ。


 被験者はウルネアのインフラ整備を行っている労働者たちだ。希望者の中から500名ほどをピックアップしてサキュバスに生気を吸わせた。


 なぜそんなことをしたのか?


 それはこれがウルネア観光地化計画夜の街編の第一歩だからだ。


 もしもこのウルネアが観光地となれば、レビオン王国やガザイ王国のような遠方から多くの観光客を迎えることになるだろう。


 人間という生き物はしがらみから解放される遠くの土地へとやってくると、自然と気持ちも開放的になる。


 そんな開放的な観光客をターゲットに、ウルネアの外れにサキュバス娼館を作ることにした。


 というのは表向きの目的で、本音を言うとリーユが悪さをするのを未然に防ぐのが目的だ。


 サキュバスという生き物は定期的に生気を抜かないと体調不良を起こして最終的には廃人になってしまうそうだ。


 が、さすがにリーユに好き勝手に生気を抜かせると街の治安が乱れる。だったら王国の方で管理をして人間と上手く共存させたほうがずっといいと俺は考えた。


 とはいえ俺もサキュバスについてはあまり詳しくない。そこで希望者を募りリスクについての説明をした上で、人間が生気を吸われても生活に大きな支障の出ない境界線を探ることにしたのだ。



「ローグ、3ページを見て」

「ん? これか?」

「週に4日、毎日3時間生気を抜かれたグループはやっぱり仕事に支障が出たみたい。作業中に集中力が落ちて怪我をしたり、朝起きたときに体が重すぎて欠勤する人が半数以上出たんだって」

「ふむふむ」

「次は5ページを開いて」

「うむ」

「こっちは週に2回、1日2時間ほど生気を抜かれたグループだよ。こっちは怪我の報告や欠勤をした作業員はほとんどいなかったみたい。7ページに書いてあるけど、ここを越えるとやっぱり生活に支障が出るみたいだよ」

「なるほどな……。じゃあ週2回の1回2時間が限度だな」


 案外しっかり調査を行っていたようだ。娼館は儲かるがある程度しっかり管理をしておかないと取り返しのつかないことになりそうだしな。


「で、顧客満足度は?」


 限界値はわかった。次は需要である。普通の娼館であればある程度需要があるのは理解できるが、サキュバスについてはさっぱりわからん。


 そんな俺の質問にリーユはなにやら嬉しそうに笑みを浮かべた。


「バッチリだよ。ねえローグ見て見て~」


 と、リーユは目を輝かせながら手をパチパチと叩く。すると、近くのテントからぞろぞろとサキュバスのおねえさんたちが出てきた。


「おいおい……なにをおっぱじめるつもりだよ……」


 テントから出てきた総勢10名ほどのおねえさん方は、皆それぞれメイド服やナース服、さらには水着やセクシーなランジェリー姿である。


 そんな彼女たちが俺の前にやってくると「かわいい♡」「ローグさま♡」「ボクくん食べちゃいたい♡」などなど俺に手を振ってなにやら誘惑をしてくる。


 困惑する俺にリーユが話し始める。


「私たちの職場は夢の中だから本来関係ないはずなんだけど、やっぱり可愛い女の子の方がお客様は集まりやすいみたい」

「お、おう……そうか……」

「私たちが可愛い格好をして客引きをすればきっとお客さんはたくさん来るよ」


 ということらしい。


 とりあえずはウルネア観光地化計画夜の街編は順調に進んでいるようだ。


――――

発売が近いので更新を再開いたしました。

しばらく毎日更新頑張ります

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